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6月半ばの入社式

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

 

 6月になると、新入社員も配属先が決まり、それぞれの部署で勤務するようになる。「その前に、入社式ではないけれど、せめて社長、会長くらいは、新入社員の顔を見ながら、直接、話をする機会をつくります」。人事部の差配で10分ほど話をする。そもそも、型にはまった挨拶がなにより苦手な私の話は、形をつくることに意味があるような場では、5分ともたない。

 入社式といえば、勤めが始まる4月の初めに行なうものだが、今年は新型コロナウイルスの感染が広がり、パーティーや人が集まる会は「三密」ということで、入社式も自粛の対象となった。入社式や卒業式がなくとも、社会人になるうえで不都合が生じるわけではない。折節に開催される行事はそんなものだが、だからといって、入学式、卒業式に始まって、入社式に至るまで、時の流れを画すはずの式がすべて消えてしまうのは、人が生きる営みから大切な記憶を失わせるようで、振り返ってみれば、寂しいものである。

 高校入学以来、いっさいの行事と無縁に過ごしてきた私など、歳をとるにしたがって、当たり前の行事に出席しなかったことに対し、残念な思いをするようになった。時を経ると、ちいさな反抗心の余計な振る舞いを、浅はかであったと思い返すようになるのだが、反省しても、二度とその時々が戻るわけでもない。私にとって、小学校1年生の入学式といえば、ほんとうに遠い昔のことなのだが、入学式の日、校舎の裏の湿った土のうえに淡い色の桜の花びらが散っていた光景をいまだに記憶している。たくさんの人が講堂に座らされて、一連の入学式の緊張から解き放たれた時間の記憶が、数十年を越えて鮮烈な風景のままとどまっているのだろうか。

 世界的に広がった新型コロナウイルスによって、人の活動が厳しく規制され、あらゆる経済活動を収縮させたこの年のことを、今年、社会人になった若い人々が忘れることはないだろう。社会インフラとしての巨大な技術革新であるインターネットについて、日本でいち早くその商用化を始めたIIJにとっても、新型コロナウイルスによってようやく日本全体がIT化に本腰を入れざるを得なくなったという意味で、忘れることができない年である。

 ITは巨大な技術革新で、政治から、産業・経済、日々の暮らしに至るまで、あらゆる「仕組み」を変えてしまう。30年にわたって繰り返しそう言ってきたのだが、新しい技術を取り入れることに関しては、世界でも圧倒的な対応力を持つはずの日本が、ITの利用については世界に遅れをとってしまった。技術的に遅れているとは思わないが、ITという巨大な技術革新の肝は「仕組み」を変えることである。「仕組み」を変える覚悟を決めないことには、ITという技術革新を許容し、積極的な利用に進むことはない。そして、あらゆる「仕組み」を変えるのは、なにより国の政策の抜本的な変革であり、国民がコンセンサスのもとITを利用して、まったく異なる「仕組み」を受け入れて生活しなければ、世界の変化と同じ速さで先に進むことはできない。

 新型コロナウイルスの恐怖に対し、IT技術の応用が幅広い活動に効果的だという理解が、遅ればせながら、政治家・経済人・国民のあいだに広まったという意味で、今年はIIJにとって極めて重要な年なのである。入社式でそんな話をしようと思ったのだが、「頑張ってください」の一言で終わってしまった。


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