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1968年

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

 

 頼まれて、なにかとモノを書くことも多いのだが、書く中身は、おおよそいい加減である。思考の跡を示すはずの脳の働きが、痕跡として残っていることはない。そもそも、なんら考えもないまま、つまり脳が働く前に書き始めるのだから、書いた内容すら、記憶に留まるはずもない。なにかを書こうとする時は、とりあえずソファに座り、ひとしきり考えごとをする真似をするのだが、およそ考えが浮かんだことはなく、気がつけば、転寝をしている。私の場合、なにかを書くというのは、なにも考えずパソコンに向かい、あてどなくキーボードをたたき始め、気がつくと、なにやらよしなしごとが書かれている。読み返すのも、恥ずかしい類の文章が残っているだけである。

 「家はみな杖にしら髪の墓参」(芭蕉)。墓参りではないのだが、10年に一度も顔を合わすことのない親族の集まりがあり、顔だけ出したのだが、「高齢者」として括られるようになった私が、いちばん若いようだ。昔なら白髪どころか、歩くのも難儀なはずの老人ばかりであるが、子供の少ない家系ということもあるのか、若い人がいない。80歳を過ぎたはずの老人ばかりだが、足腰もしっかりして、顔の色つやもいい。本来ならもっとも似合うはずの「無常」という言葉すら不似合いな場になっている。もちろん、人は歳をとるに従い、脳の働き、記憶力、肉体など、若そうに見えても、老いの悲哀を身近に感じることになる。ただし、生きることの無常を覚える年齢が、昔なら50歳前後だったのが、70歳、80歳と、年々、百歳に近づいている。そうなると、無常も違ったものになっていくのかも知れない。

 新年会で一緒した新聞社の記者さんから、「IT時代を読む」というテーマで「この三冊」を挙げてくださいと頼まれた。気軽に「わかりました」と答えて、すっかり忘れていたのだが、締め切り日が来て、慌ててその三冊を選ぼうとして、難しくなったのである。ITについて理解を深める、あるいはITが変えていく世界について書かれた本は無数にあって、今さら私が紹介するまでもないだろうと、袋小路に入ってしまったのである。世界的にも、もっとも早い段階でインターネットの接続サービスを始めたのだが、私が、所謂、インターネットという技術革新の目指すところに感動したのは、50年以上も前、1968年にエンゲルバートが行なった、大きなプレゼンテーションの記事を読んで以来である。

 コンピュータは、第二次世界大戦時、英国ではナチス・ドイツの暗号を解読し、米国では原子力爆弾を開発するために、膨大な計算・処理を行なう目的で発展したものである。私にとってコンピュータは、数字の計算・処理を主目的としていたものが、情報検索のツールに利用されることで、メディアのあり方を根本から変えてしまう、20世紀最後の巨大な技術革新になるといった興味だった。それは、今でもITを考える時の基本である。そんなことが頭をめぐっているうちに、コンピュータを生んだ20世紀、そのコンピュータがITという巨大な技術革新を起こし、世界の仕組みを変えてしまうことがテーマになってしまった。三冊の本と内容については、次号にでも紹介できるかも知れない。


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