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眠り病

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

 

 IIJを設立して以来、お盆休みをとったことがない。別にお盆休みを禁じているわけではなく、休みをとらないのは、私くらいのものである。振り返ってみれば、お盆休みをとったのは、サラリーマン生活を始めてから7、8年のあいだだけだった。

 生来、あらゆる行動において怠惰な私だが、サラリーマンとなり、結婚をすると、お盆休みには必ず旅に出た記憶がある。上野から夜行列車に長いこと揺られて、東北の鄙びた温泉など、二度と行かないような場所に、毎夏、奥さんの緻密な経費削減案にもとづく計画に従って旅をした。一年に一度の休暇となると、経費削減を前提としても、旅の案は広がって、肉体的には疲れ切るような旅程になる。お盆が明けて、オフィスに出勤する日には疲労困憊となっていて、仕事など手につく状態ではないのだが、その晩、仲間と飲み会などすると、翌日はすぐに元気になったものである。

 IIJの創業以来、苦しい時期が長すぎたせいか、多忙でいつも疲労感があったせいか、ほとんど休みをとらない習慣が身についてしまったが、昼間、オフィスの机に頬杖をついて、居眠りをしていることも多い。休みをとらない、睡眠時間が少ない日常の欠陥をどこかで勝手に補っているのである。

 今年は株主総会が終わった翌日から、20日間近く欧州を回っていたのだが、出張の半ば過ぎの土日にスイスの保養地に寄って、身体を休めようという計画が裏目に出たのか、ホテルに着くなり、眠り続けることになった。

 チューリッヒの投資家にIIJの現状を説明して、夕暮れに保養地に着いた。元気であるという想定をもとに計画していたことを始めようと、部屋の机に資料を広げ、軽い食事をとりに行った。部屋に戻り、机に向かった途端、猛烈な眠気に襲われ、とりあえずベッドに横になった。それからが大変だった。部屋いっぱいに明るすぎる高原の光が溢れるようになっても、ベッドから出られない。目を瞑ると、あっという間に眠っている。昼前になって、さすがにベッドから抜け出して、ホテルの食堂で珈琲を飲みながら、湖が広がる景色を眺める。目はあけているのだが、目覚めているのかよくわからないまま、一時間ほど座り込んで、やっとの思いで部屋に戻る。ベッドに横になる誘惑には逆らうこともできず、ばったりと眠る。次に目をあけると、すでに長い夏の陽が暮れている。慌ててルームサービスで軽い食事をとるのだが、またそのまま眠ってしまう。翌日もまったく似たような時間を過ごす。朝になり、資料をバッグに入れて、イタリアに向かう。条件反射なのか、その晩、イタリアで知人とディナーをする時には、目を覚まし元気そうだったらしい。そのまま数日間は、慌ただしく知人や友人と話があって、眠ってしまうことはなかった。初めてお目にかかったナポリの歌劇場のチャーミングな総裁と食事をし、オペラの案内を受けた折も元気だったようだ。

 帰りはフランクフルト経由で羽田に戻ったのだが、その便では離陸すると同時に眠り、着陸一時間前に起こされるまで眠り続けていたようだ。その後は、誰彼となく「眠り病に罹った」と喧伝していた。帰国後、20日を経て、ようやく「眠り病」が軽くなったようで、ほっとしているのである。


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