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春は冷たくとも

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

 

 今年は、いつになく春の訪れが遅いようだ。桜の蕾がほころび、すぐにもあらゆる景色が艶やかな桜の色に包まれそうになってから、冷たい風が吹き込んで、なかなか満開にならない。音楽祭を主宰していることで、早春から桜吹雪となって、花が舞うまで、毎日のように上野公園に通うのだが、靄がかかったような春の青空が広がる日も少ない。五分咲きのまま、重たげな雲が垂れ込め、花冷えの日々が続いている。江戸以来、花見の名所として知られる上野公園は、夕方になると花見の酒宴で賑わうのだが、なんとなく寒々としている。

 春の温みが訪れなくとも、季節の行事は進んでいく。今年の入社式は、4月1日が土曜日ということで、3日の月曜日だった。自由奔放な若者ばかりが集まって、服装もまちまちと言うか、いい加減だったIIJも、入社式の光景はすっかり変わり、いかにも入社式らしく、一様にダークスーツに身を固めた若者が、行儀よく神妙な姿で座っている。創業から25年を経て、インターネットもすっかり当たり前の通信インフラとなり、IIJもマトモな会社と若者から認知されていることを、歓迎すべきなのかどうかわからない。儀式は儀式であり、弁えた服装で行事に臨むという常識を持った若者が入社してくれる企業になったことを、不満に思うわけではないのだが、会場を見渡すと、つい「なんだかなあ」と呟きたくなる。余計な心配かも知れないのだが。

 「インターネットという巨大な技術革新のイニシアティブをとり続けることで、超巨大企業である電話会社にIIJが取って代る」。役所から認可も取れず、社員に対して給与の支払いもままならなかった時代、ネクタイを締めて、社会常識をわずかでも身につけていたのは私くらいのものだった。安酒を飲んでは、朝まで議論を交わしていた若者ばかりだった。会社も四半世紀を過ぎると、大人の振る舞いをするようになる。大人の振る舞いをしながらも、バーバルに突き進む。いつまでもそれが可能な企業文化を残したいという思いは変わらないのだが、入社式を迎えるたびに、ふと、心配になる。猫をかぶる程度の常識を持った若者が増えただけで、それは杞憂なのかも知れないのだが、世の中の趨勢は、細目に至るまで規則が積み重なっていくばかりである。ひとりの人間が社会人として、なんらかの自己実現をしていくには、ルールを守りながら、日々を過ごすだけでは難しいことも確かである。

 「やりたいことを社会人として企業でやれば、それが失敗しても、個人ならば破産しかねないようなことでも、その損失は企業が面倒を見てくれる。自己実現をする場としての企業がなければ、自己実現の場を見つけることは難しい」。IIJを創業した頃から、そんなことを言い続けてきた。もちろん、誰もが損失を出すような仕事をしたら、会社ごと倒産の憂き目にあうことは必至である。簡単な話ではないけれど、ひとり一人の自己実現を目指す動きが、会社に利益をもたらすことになり、個人にとっても、会社にとっても、それがもっとも望ましい姿であることは言うまでもない。

 当然のことながら、自己実現と言っても、ひとり一人、目指す方向や内容は違うので、できる限り、それぞれ異なる個性を持った人が納得できる仕組みをつくり、個人も会社も将来に膨らみを持ち続けられるような集まりになることが、IIJという会社の理想なのである。常識に捉われず、ITという分野でイニシアティブをとり続ける企業であるという創業以来の思いが変わることはない。


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