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「思い」があれば

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

 東欧への旅から戻ると、国内出張、今はアメリカと、オフィスの席に座る時間もなく、なんとなく社内のことが心配になる。IIJを設立して間もない頃は、一年に200日以上も国内外を駆けずり回っていたのだが、その頃は、社内のことなど、あまり心配したことがなかった。社内を心配する余裕もなく、次々と大きな課題にぶつかっていたのである。当時は、社員の数も400人程度で、全員と個人面談をして、年俸もすべて私が決めていた。個性の強い人間ばかりで、会議といえば激しい議論になって、飲みかけのペットボトルを投げつけるといったこともあったのだが、それでもみんなの「思い」が同じというだけで、心配することもなかった。社内が同じ「思い」で突っ走っているときは、そんなものである。

 出張の移動中は、ひたすら本を読み続けている。書評を頼まれていた本のなかに、ホイットマンの言葉が引用されていて、その言葉が妙に残った。

「共感なくして歩む者は皆、死装束を身にまとって自分の葬式に向かっているのだ」(ぼく自身の歌)

 これを組織に言い換えてみると、「思い」を共有しないで歩む会社は、早晩、滅びる道を自ら選択する、ということになる。大企業が苦境に陥る過程でよく見受けるのが、あらゆる事象に対して事実認識を欠き、最後には共感を得られないテーマに向かって、「思い」もバラバラに進み、長い時間をかけて苦境に陥って行く姿である。現在のように激しい時代であれば、一気に破滅の道に向かうことだってあるのだが、その前段には、必ず共感を得ないで歩む群れの状態があるはずである。

 午前中に出張から戻り、終日、バタバタした夜、10人ほどの中堅エンジニアとオフィス近くの店で飲む。そんなことはないだろうと思いながらも、ホイットマンの言葉がひっかかっていたのだが、飲みだすと議論の中身はともかく、会社の成すべきことへの「思い」が共有されて、わいわいと盛り上がった。なんだかホッとしたのである。30代半ばのエンジニアが集まったわけで、知っている社員ばかりといえばそうなのだが、それでも「思い」の強さがどんどん膨らむような会話になっていたことが嬉しかった。

 2000人を超えて、議論をしたこともない社員が増えてくると、心配は心配なのである。「若い子も頑張っていますよ」と言われるのだが、貧乏性なのか、自分で接触し、話してみないと、信用できないのだ。「2000人と会って、話し込む時間なんてないでしょう。ぼくらがやりますよ」と、私の妄想をたしなめてくれる。

 翌朝、ニューヨークに発つ。年々、時差に弱くなっているのだが、時差がなくとも、年々、脳の働きが鈍るのだから同じであると、理屈にもならないことを自ら言い聞かせては、海外を回り続ける。ニューヨークはすっかり秋で、朝晩は冷え込んで寒いほどである。ニューヨークの空港からマンハッタンに入る光景を見ても、何の感動もなくなっていることに気付く。見慣れた光景なのである。東京も超高層ビルが乱立するようになったからだろうか。10日ほど前まで回っていた東欧の都市の印象が強かったせいだろうか。ブダペストやプラハの光景は、行くたびに感動するのに、不思議なものだ。

 ホテルのロビーは国連総会の開催で、ごった返している。世界が米国を中心に動いていることは間違いないのだが。

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