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Internet Infrastructure Review(IIR)Vol.25
2014年11月25日発行
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目次

2.5 MPEG-DASH

一方、インターネットでの配信方法は大きな変革期を迎えました。2000年代はIETFで標準化されたRTSP(Real Time Streaming Protocol)や、メーカ独自方式であるMMS(Microsoft Media Server)、RTMP(Real Time Messaging Protocol)が広く使われていました。これらはデータのトランスポートには基本的にUDPを使い、ファイアウォールを越す必要がある際にはHTTPでカプセリングするということをしていました。しかし2010年代に入りストリーミングを直接HTTPを用いて配信する方法、つまりUDPを使わないプロトコルに移行してきました。

そもそも、HTTPでストリーミングを実装した先駆けはAppleが提案したHTTP Live Streaming(HLS)(※4)です。Appleはこの規格を2009年以来IETFで提案していますが、ワーキンググループでの採択はされておらず、個人名義でのインターネットドラフト(※5)が刊行され続けていますので、RFCにはなっていません。「ビデオデータを数秒に1度のセグメントに分割しWebサーバに配置。クライアントにはそのセグメントファイルを再生するためのURI(マニフェストと呼ばれる)をリストにして配布する」という非常にシンプルな構成で考えられています。実装はさほど難しくなく、多くのメーカがこの方式に対応しました。一方HLSはインターネットの基準であるRFCになっておらず、規格がAppleのみによって定められるという状態が続いています。ストリーミングで必要とされているDRMもその規定はなく、ごく単純な暗号化しか定義されていません。全面的に依存すると、Appleの方針に従うほかなくなります。私見ですが、Appleは時折自分でルールを変える行動を起こします。そのリスクがHLSに波及しないかどうかを多くの会社が注視しているのではないでしょうか。

例えば、Microsoftが提案したSmooth Streaming(※6)もやはりHTTPストリーミングを採用していました。しかし、同社がMPEG-DASHを推進するようになって、新たに採用される数は減っていきました。Smooth StreamingはRich Internet Application(RIA)であるSilverlightの一部として開発されていましたが、同アプリケーションの開発停止に伴いフォーマットとしての命運は尽きたと言えます。

Adobeが提案しているHTTP Dynamic Streaming(HDS)(※7)にあっても、状況は同じです。特定の会社が標準化を踏まえず提案する技術を全面的に採用すると、ベンダーロックインのリスクが発生します。ましてストリーミング業界はここ数年でプロプラエタリなプロトコルからHTTPへ移行を開始したばかりです。自分ですべてが見渡せるクリーンな技術を求める空気がより強いかもしれません。

MPEG-DASH(※8)はこのような状況に対するアンチテーゼとしてうまれてきました。似たような技術であるにも関わらず、HLS、Smooth Streaming、HDSはそれぞれ異なったセグメント方法とマニフェストを採用しています。すると、再生クライアントやSTBは似たようなHTTPストリーミング方式であるにも関わらずそれぞれを実装するか、あるいは取捨選択を迫られてしまいます。このような状況を見て、ISO/IECのワーキンググループであるMPEG(Moving Picture Experts Group)は特定メーカによるフォーマットによらない標準規格の策定に乗り出しました。2009年にRequest For Proposalが発行され、最終的に3GPP(Third Generation Partnership Project)が提案した方式が採用されました。MPEG-DASHとはDynamic Adaptive Streaming over HTTPの略です。ストリーミングプロトコルには標準化された規格であるHTTPを採用。更に、クライアントの受信状況に応じてストリームを選択できるAdaptive Bitrateを採用しています。サーバ側で複数の帯域のストリームを用意しておくだけで、クライアント主導でストリームを切り替えることができるようになります。サーバ側での実装はまったく不要であり、クライアント側の総合的な環境変化に細やかに応じることができるため、Adaptive Bitrateは広く受け入れられる方式になっています。また複数のDRM方式の適用が可能であるなど、MPEG-DASHは今日の配信に求められる要求を幅広く備えています。

図-3 MPEG-DASH

MPEG-DASHはまずヨーロッパで火が付き、今では世界的に採用が相次いでいます。普及促進を図るDASH IndustryForum(※9)という団体もあり、NAB ShowやIBCといった放送業界向けの大規模カンファレンスでセミナーを開催するなど精力的な活動が目立ちます。日本ではIIJが他に先駆け2014年3月に実施された「東京・春・音楽祭」においてMPEG-DASHとH.265を用いたストリーミング配信を実施しました。これは最新技術をいち早く現場に応用した最新鋭の試みであり、複数のメーカ技術を組み合わせて実現したものです。MPEG-DASHに対応したエンコーダやサーバの数は増えてきています。標準規格を選択することで多くのメーカが参入し、ユーザ側に選択の自由がうまれ、競争も促進されます。MPEG-DASHはマーケットを形成しつつあり、普及期に入ったといってよいでしょう。

  1. (※4)HLS:HTTP Live Streaming(https://developer.apple.com/streaming/blank)。
  2. (※5)HTTP Live Streaming draft-pantos-http-live-streaming(https://datatracker.ietf.org/doc/draft-pantos-http-live-streaming/blank)。
  3. (※6)IIS Smooth Streaming Technical Overview(http://www.microsoft.com/en-us/download/details.aspx?id=17678blank)。
  4. (※7)HDS:HTTP Dynamic Streaming(http://www.adobe.com/jp/products/hds-dynamic-streaming.htmlblank)。
  5. (※8)MPEG-DASH「ISO/IEC 23009-1:2014 Dynamic adaptive streaming over HTTP(DASH)-- Part 1: Media presentation description and segment formats」:(http://www.iso.org/iso/home/store/catalogue_tc/catalogue_detail.htm?csnumber=65274blank)。
  6. (※9)DASHIF:DASH Industry Forum(http://dashif.org/blank)。
2.コンテンツ配信

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