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コラム|Column

中国では「バックアップ」という概念が比較的薄い

では何のリムーバブルメディアで会社や店舗に運ぶのだろうか。

日本ではパソコン普及が中国よりも5年は早かったからだろうか、フロッピーディスクやMOがまだまだ現役だったころ、中国では早くもUSBメモリーだけが利用されている状態であった。フロッピーディスクもMOもZIPも普及しなかった。また日本ではCD-RWやDVD±RWドライブ(以降「書き込み可能な光学ドライブ」)でブランクメディアに書き込んでデータを運ぶ人が少なからずいたが、中国ではずっと少ない。

デスクトップパソコン・ノートパソコン問わず、DVD-ROMは搭載されていた。しかし書き込み可能な光学ドライブを搭載するパソコンは少なく、電脳街でもゼロではないが、ほとんど外付けの光学ドライブを見かけることはなかった。DVDビデオの再生や、DVDメディアにいっぱいいっぱいにデータが詰め込まれた海賊版ディスクを利用するニーズはあるため、DVD-ROMドライブだけはニーズがとてもあった。老人会や学校行事などでの写真がまるごとCD-Rメディアで渡されることもある。その背景から、日本では登場した光学ドライブ非搭載のミニノートPCや、薄型ノートPCが発売されたが、中国ではビジネス用のシンクライアントを除いて中国メーカーからは発売されることはなかった。例外的にソニーがミニノートPCや超薄型のノートPCを発売し、マニアの注目を集めていたことを覚えている。

日本では3.5インチHDDを内蔵した大容量の外付けHDDが売られているが、中国で見かけることはほとんどなく、2.5インチのHDDばかりが売られていた。持っている人は少なかったが、少数のユーザーは、写真や音楽やビデオをそこにため、データを特定のパソコンだけでなく、別の場所のパソコンへと持ち運べなければならない。10年前のHDDがより小容量だった時代、大容量の3.5インチより可搬性の2.5インチが選ばれたことは興味深い。というのも、たとえば中国ではZIPよりも圧縮率の高いRARで、資料などの受け渡しやサイト上のデータの公開をしている。会社説明資料のPDFファイルをRARで固めて公開することがよくあることなのだ。サイズ優先かと思いきや、HDDは2.5インチを選択することから、「大容量」<「可搬性」が暗にデータに求められているようだ。

中国人は写真好きで、フィルムカメラの時代から中国国産カメラを持っている家庭が少なくなく、家に客が来ればアルバムを見せて盛り上がることから、デジカメもスマートフォン前には普及を見せた。だが、USBメモリーこそもっていても、書き込み可能な光学ドライブも外付けHDDも所有していない人のほうが目立って多かったように思う。つまり当初はバックアップの概念はなく、パソコンのHDDにエラーが出たり、間違えて消えたらそれでおしまい、という保存方法だった。

スマートフォンの普及で、ルータは必需品へ

可搬性でいえば、デスクトップパソコンからノートパソコンへの移行によりルータは売れるようになった。ノートパソコンにより動けるようになるだけでなく、中古の売買があまりなく(中古が信用されていないので市場が発展しない)、また家族が利用するようになるためルータは必要になってくる。スマートフォン普及で、情報端末が一家に一台から一人に一台となると、ルータが必需品となっていった。こと最近では、本来の通信機器メーカーだけでなく、スマートフォンメーカーの「小米」やセキュリティベンダーの「奇虎360」からもルータが発売されるようになった。

パソコンユーザーの誰もが所有するUSBメモリーを駆逐せんばかりに出てきたのが、2011年ごろから普及したストレージはクラウドストレージである。2011年では数GB程度だったが、2014年には百度や騰訊(Tencent)や金山(Kingsoft)といったメジャー企業同士の競争によりTBクラス、実質容量無制限ともいえるサービスを提供した。微博(Weibo)や微信(WeChat)といったSNSとスマートフォンの普及に加え、前述のベンダーらが自社サービス利用者向けに紹介したことで一気にインターネットユーザーが流れ込んだ。日本よりもずっとクラウドストレージは普及したのである。まだバックアップの習慣ができているようには様々なユーザーを見ても、そうとは思えない。習慣構築には著名ベンダーの努力が必要なようだ。

中国人は日本人同様に周囲を気にしながらIT製品やサービスを使う。微博(Weibo)や微信(WeChat)を周りが使うから自分も使う、といったように、ストレージの習慣もプリンターの習慣も他人にあわせて使う。中国では常に新しい周辺機器が出ているが、それに飛びつく人は少ない。それでも新しい周辺機器が出るのは、中国人のビジネス魂なのか、それとも13億人のごく一部が買うだけでも開発量産してペイできるのか。

山谷 剛史

1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。
現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすくをモットーとし、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。2002年より中国雲南省昆明を拠点とし、現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。