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コラム|Column

農村部でもスマートフォンは普及しているのか?

筆者が2015年春に訪ねた雲南の農村

知られがちな中国のステレオタイプのひとつに、「都市部は豊かで農村部は貧しい」「沿岸部は豊かで内陸部は貧しい」が挙げられよう。中国を行脚しているとだいたいこれはあっていて、同じ農村でも沿岸部の農村と内陸部の農村では別の雰囲気だ。

筆者が拠点とする雲南省の山間部の農村ともなれば、集落に個人商店が1、2店、少数民族の人々が鶏や豚を放し飼いにし、未舗装の道を歩んで数キロ先の学校まで行くような、そんな集落もある。そこまで小さくなく、もう少し大きめの集落となると、中国移動(China Mobile)、中国電信(China Telecom)、中国聯通(China Unicom)の3キャリアがキャリアショップを構え、そこでは名もない中国メーカーの低価格機種から、小米(Xiaomi)や華為(Huawei)、そして最新のiPhoneまで揃え販売している。農村部のキャリアショップだけを見れば、都市部の住宅地にあるキャリアショップと変わらないようにも見える。

キャリアショップのほかにも個人経営による安価なフィーチャーフォンやスマートフォンを扱ったモバイルショップが街に点在する。都市部ではあまりみないフィーチャーフォンは農村部では現役だ。パソコンショップはあるにはあるが、モバイルショップに比べて勢いはない。パソコン以上にタブレットは見かけない。インターネットカフェもあるが、スマートフォン登場以前よりだいぶ減っている印象を受ける。

中国でのネットデバイスの普及は、はじめにパソコンと固定回線が普及した上で、スマートフォンが普及した(フィーチャーフォンでのインターネット利用はないといっていい)。それは都市部の話で、農村部においては、パソコンと固定回線は普及せずスマートフォンが普及しつつある。農村部の中でも町においては、スマートフォンユーザーは増え、スマートフォンを触って時間をつぶす人々を都市部ほどではないが見るようになった。パソコンを通り越してスマートフォンから普及がはじまる新興国もあるが、ちょうどそんな感じである。

農村のモバイルショップ

農村内にある中国移動のキャリアショップ

スマートフォンを手にした農村部の老人たち

農村部のインターネット利用者数は1億7800万人で普及率は2割にいかず、ネット人口が4億7000万人で普及率が5割に迫る都市部とは対照的で、しかも目立った増加もしていない(CNNIC調べ)。農村部でインターネットが普及しない理由は所得面の理由もあるが、ネットリテラシーが都市部よりも低いということが最も大きな理由だ。

都市部と農村部の所得比較

都市部と農村部のインターネットユーザー数の推移

農村部の町でも集落でも歩けばわかるが、平時は農村には老人と子供ばかりがいる(老人について中国では「留守老人」と呼ばれ、社会問題のひとつとなっている)。働き盛りの人々は、都市部に出稼ぎに行きブルーワーカーとして働くのが一般的だ。彼らは農民の労働者であることから農民工、略して民工と呼ばれる。働き盛りの世代は農村部の人々であろうと比較的インターネットリテラシーは高く、都市部にいて人々と情報交換を行うことから、スマートフォンの使い方やおすすめのアプリを口コミを通じて聞くことができる。ところが農村に残された老人や子供は、人々が集ってインターネット使い方について話題にあがらないことから、スマートフォンを持ったところで写真を撮って見て音楽を聴いて電話をかけるくらいしかできない。

スマートフォンを使わず時間をつぶす人々

スマートフォンを使いこなせたほうが便利で楽しくなれることを、農民工として生きる人々は都市部で生活している中で気づかされる。そこで春節や国慶節などの大型連休のときに、都市部で働いた人々が故郷の親のためにスマートフォンを購入し、故郷で4Gや3G回線を契約する。これはデータにも出ている。春節や国慶節での農村からのアクセスが急上昇し、かつ大型連休が終わってからも数日は農村部からのアクセスが平時より多い状態が続くのだ。大型連休終了後もスマートフォンが農村で使われているという意味は、どうも息子娘が出稼ぎ先から帰り、お勧めのアプリがインストールされたスマートフォンをもらい、息子娘が出稼ぎ先に行ってしまった後も使ってみたけれど、よくわからなくてやめてしまった、という人が多いらしい。

対照的なのが都市部の老人で、彼らも農村部の老人同様スマートフォン普及まで使わなかったのだが、中国株があがるや老人たちの間でスマートフォンで株価チェックができるということが知られ、株価チェックからスタートしてスマートフォンでチャットをしたりニュースを読んだりゲームをしたりと、ネットリテラシーを高めていった。スマートフォンで中国どこにいてもインターネットは身近になったが、リアルなユーザーが近くにいないとわからないものだ。

農村部にもネットリテラシーの高い人はいる

農村部でスマートフォンは売られているし、スマートフォンを普及させようと出稼ぎに行った若者たちが故郷の親にも渡している。しかしスマートフォンが普及し始めてから都市部と対照的にインターネットユーザーは伸び悩んでいる。CNNICによる農村のインターネットユーザーの収入を見ると、貧しくはない人がそこそこいることに気付く。また利用用途についても、チャットやゲームをやる人が多いものの、それ以外のオンラインバンキングやオンラインショッピングなどビジネス用途の利用者も都市部よりは少ないだけで、それなりの割合でいる。どうも農村部にも、そこそこ都市部同様のネットリテラシーの高い人々がいるようなのだ。都市部同様パソコンからインターネットを利用しだしたネットリテラシーの高い農村部の住民を中心として、スマートフォンも買ったと考えれば、農村でのネット人口が増えないことも説明がつく。

ハイアールの店は中国の田舎でもある。それが同社の強み

農村部でのオンラインショッピング利用者は7700万人、農村部のインターネット利用者全体の43%が利用している。企鵝智酷が発表した農村電商用戸報告(農村オンラインショッピング利用者レポート)によれば、農村部オンラインショッピング利用者の43.5%が1週間に1度以上の高頻度で利用しているとし、サイトでは阿里巴巴(Alibaba)系の淘宝(Taobao)や天猫(Tmall)を利用しているという。商品別では、「家電や電子製品(48.3%)」「服(27.4%)」「農業用品(10.0%)」「日用品(9.0%)」「美容(5.9%)」「書籍CD(4.9%)」「食べ物(1.5%)」となった。配送は若干不便で、「家まで届く(38.0%)」と「近所の指定された場所で受け取る(38.3%)」とほぼ同率となった。

このように農村部では未整備な面もあるが、都市部と同じような使い方をするネットリテラシーの高いインターネットユーザーもいる。農村部では新規インターネットユーザーが増えないのは課題ではあるが、まだ未開拓の農村市場は、中国国内の新興市場として注目されている。

山谷 剛史

1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。
現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすくをモットーとし、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。2002年より中国雲南省昆明を拠点とし、現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。