会長のことば

朝、誰もいないガランとしたオフィス空間。ひとり、机に置いた紙コップの珈琲を眺め、時折、啜る。飲み終わる頃に、誰かしら、社員が出社する。解体の期日が決まっているビルが、IIJ設立時のオフィスだった。

商用のインターネット接続サービスを始めようと、創業して、半年を経た頃の話だ。サービス開始のライセンスも取れず、資金は枯渇。「なんとかなるはずだ」と、役所、金融機関、大企業を回る。だれもインターネットに投資しようとはしなかった。「よく続きますね」。私の日々を話すと、「出口の見えない努力」、そんな言葉を耳にした。

IIJは、2022年12月、創業30年を迎える。

「20世紀最後の巨大な技術革新」、インターネットについて、その思いが変ることはなかった。月末になると、社員は、わずかな現金の入った茶封筒を渡される。生活費すら満たせないような額のはずだったが、「インターネットの将来」を疑う社員はいなかった。日々仕事に没頭しては、日が暮れて、安い飲み屋でIIJの将来を語り合った。過去を振りかえっても、未来は見えないのだが、30年のさまざまな出来事が走馬灯のように浮かぶ。

IIJは、次の未来を周到に考え続けるのである。