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コラム|Column

筆者は中国の地方都市に長年住んでいるが、ネットの利用については、日本と繋がっているため日本で人気のサービスを利用する一方、中国のサービスも積極的に利用している。中国のサービスを利用するのは、中国人のネットの使い方を理解したいというのもあるが、中国独自のサービスを使わないと便利に暮らすことができないからだ。普段どのように生活に必要なネットを使うか紹介したうえで、本連載の趣旨の通り、近未来はどうなるかを論じていきたい。

広い世代に普及したスマートフォンとデータ通信量無制限の影響

都市部では誰もがスマートフォンを持っているといっていい。よほどのこだわりがない限りはスマートフォンを所持している。日本の「2年縛り」のようなものはなく「格安スマホ」のように、本体とSIMカードを別々に買う中国では、スマートフォンを1年半ほどで買い替え、使わなくなったそれを両親に渡すことがよくある。パソコンしかない頃から、20代、30代の人々が買い替えては親に譲っていた。学生は、小学生すらも放課後に、仲の良いクラスメートとコミュニケーションをとるのにチャットアプリの微信(WeChat)やQQが欠かせない。外の子供の一人歩きは交通事故や誘拐などのリスクがあり、また宿題も多いことから家にこもるしかなく、直接のコミュニケーションが難しいからだ。

都市部では世代問わず所得を問わず
スマートフォンに見入る

vivoやOPPOは巨大広告で
スマホに慣れていない層を狙う

スマートテレビの起動時にも
ネットサービスなどの広告が出る

パソコンは21世紀に入ってから普及しだした。スマートフォンも2011年より普及が加速した。それから現在に至るまで年月が経過したため、家には使い古したスマートフォンやパソコンが何台もある。スマートフォンやパソコンが何台もあれば無線LANルーターもある。今は通信キャリアの中国移動(ChinaMobile)、中国聯通(ChinaUnicom)、中国電信(ChinaTelecom)のいずれかと契約すると、FTTHの固定回線と、移動回線数回線がセットで利用できる上に、ブロードバンドルーターをつけてくれる。都市部では核家族から3世代の大家族構成が多いが、ネットを活用する若い世代がいる場合、最低限でも家には無線LANルーターがあり、それを繋ぐスマートフォンやパソコンがあり、家によってはスマートデバイスが置かれている。中国でのスマートデバイスの代表といえばスマートテレビだ。

ところで中国では、5か年計画に沿って産業が成長していく。2018年は2016~20年の5か年計画の中間年で、この年を目途とした3か年計画がある。IT・ネット系の3か年計画では、工場自動化とスマート機器の技術力向上と一定の普及が目標として挙げられている。すると今年には様々なスマート家電製品が発表されるはずである。だとすれば数年内に少しスマート機器が普及しそうだ。

一方でこの1年でようやくデータ通信無制限プランが登場し、一般的になってきた。今後はさらに利用者は無制限プランに移行し、外でデータ通信量を気にせずスマートフォンでネットを利用することだろう。固定回線は不要というようになれば、スマート家電の普及が進まないストーリーもありうる。実際スマートテレビが様々なメーカーからリリースされ、家電量販店やスーパーでよくみるようになったとはいえ、スマートテレビがパソコンほど普及しているとはいい難い。中高年はテレビに依存する一方、テレビをそもそも導入しないという核家族世帯もある。

外出時、移動中のスマートフォンの活用

上海の地下鉄ではあらゆるところに
ネットサービスの広告が

エレベーターにも広告が。これは扉に照射する広告

外出時にはスマートフォンが欠かせない。スマートフォンをただ通話やメッセンジャーなどのコミュニケーションデバイスとして使っている人もそれなりにいる一方で、「大衆点評」や「美団」の口コミサイトや、「支付宝(Alipay)」や「微信支付(WeChatpay)」などの電子決済を使ってお得に様々な経験をしようとする人々もいる。電子決済アプリを持っていれば「mobike」や「ofo」などのシェアサイクルや、配車サービス「滴滴(didi)」を利用して移動が可能になる。

シェアサイクルや配車サービスが利用できるものの、それらはあくまでタクシーの置き換えであり、バスや地下鉄を主に活用して移動する人は多い。バスや地下鉄に乗り、立ち続けたり座り続けたりする際に、動画サイトを見る乗客は少なくない。データ通信料金が抵抗ない価格まで下がったこともあり、動画系サイトは利用者を増やしているが、特に乗り物内での利用者が増えたという実感がある。動画サービスの中でも「短視頻」と呼ばれる数分以内の短時間動画ジャンルの人気があがり、いくつもの短視頻アプリが人気となっている。短視頻の人気に合わせて、有名人を活用した広告も続々と登場した。

口コミアプリに左右されるモールの人気度

大型ショッピングモール万達広場

口コミアプリで今日の行動を決める人は少なくない

休日や夜は人気の最新モールに人が集う。全国展開で有名なところでは例えば万達(Wanda)などが挙げられるが、ほかにも無数のモールが次々と誕生している。日本のようにいくつかのモールに集約するということは今のところない。新しい話題のモールができれば、そこに人は集まるが、話題のモールというのはSNSの話というよりも実際口コミで伝わり多くの人が集まっていくように感じる。モールにはアパレル、スーパー、レストラン、映画館、雑貨屋、家族向けのゲームセンター、子供向け学習教室などが入っている。日本人にも身近なものではユニクロがあり無印良品があり、ZARAやH&Mがある。スーパーでは、例えばカルフールやウォルマートや大潤発(RT-MART)が定番だ。

スマホのサービスを使いこなす人々はモールに集った上で、ショッピングを楽しみつつ、美団や大衆点評でお得なクーポンを配布する店や高評価のレストランを見つけ食事したり、支付宝や微信支付であらかじめ安くなった映画チケットを購入したうえで、時間に合わせて映画館に行くという動きをする。

さらに美団や大衆点評を通じて、マンションの一室で営業するカフェやリアル脱出ゲームや各種教室の存在を知り、利用する人もいる。マンションの一室での営業の実態は「第4回:中国のシェアブームとO2Oブームを考える」で詳しく書いたのでそちらを参照してほしい。


微信支付(左)や支付宝(右)から様々なアプリが利用できる

今回挙げた支付宝、微信、美団、大衆点評などといった定番のアプリは、多くの中国のスマートフォンにプリインストールされている。また微信には、それぞれクラウド型の小アプリ「小程序」がインストールせずに起動できる。例えば各社シェアサイクルや配車サービスの「滴滴」をはじめ、鉄道切符の予約などができる。最近では身分証がカードレスとなる電子身分証アプリも登場した。

アプリのインストールに消極的な人のスマートフォンにも定番のアプリは入っている。中国でも歳をとればとるほど、新しいサービスを入れるのが面倒になるらしい。そうした前提で見れば、今回挙げた定番のアプリで見られたり使われたりすること、ないしは人気のモールに店を構えることが今、各地で比較的幅広い、そこそこスマートフォンを利用する層に対しブランド認知させる手段となる。

阿里巴巴(アリババ)や騰訊(テンセント)が行う “新小売”

支付宝の紅包(金一封)キャンペーンで客を呼び込む(左)
モールとネットの融合はさらに進んでいく(右)

人気のモールに人が集まること、多くの人は定番アプリの利用でとどまること。この2つの現状がある上で、阿里巴巴(Alibaba)と騰訊(Tencent)は、「新零售(新小売)」の言葉のもとに、小売大手に資金を投入し、提携を進めている。騰訊は万達やカルフールなどとの提携を、阿里巴巴は家電量販大手の蘇寧電機や大潤発などとの提携をこの数か月で続々と発表している。モール全体でお得なキャンペーンを消費者は享受できる一方で、顧客データを阿里巴巴や騰訊は得られることになる。前述したようにモールは無数の企業が参加しているため、大手と提携したところでまだまだカバーしきれていない。今後各地のモールの買収合戦となるのか、大手小売のみと提携して中小モールに圧力をかけていくか、または共存するのかは見えてこない。

一方で新零售という言葉に過剰に期待をしてはいけないと過去を振り返り思う。過去、様々な造語を作り、その言葉で盛り上がり、消費者が踊らされた一面もある。例えば過去のO2Oブーム(前述のURL)であったり、政府による家電買い替えキャンペーンが転じて民間の買い替えキャンペーンとなった「以旧換新」という言葉であったりする。「新零售」なる響きに引きずられることなく、各事象を冷静にとらえ分析することが重要だ。

山谷 剛史

1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。
現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすくをモットーとし、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。2002年より中国雲南省昆明を拠点とし、現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。