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コラム|Column

ガバナンス・リスクマネジメント・コンプライアンス(GRC)とは

こうした難問を前にして、駐在員個人の頑張りだけで海外子会社マネジメントを実現しようとすることには限界があります。1つの有効な解決策としては、グローバル企業グループ総本山としての日本本社が全体を主導しつつ、グループ全体に理解され受け入れられるマネジメントの仕組みを、現地法人と協力しながら組織的に導入することです。仕組みの実際の運用は海外子会社に主体的にやってもらい、その運用が実際に意図したとおりに機能しているかを、本社が「ガバナンス(G)」「リスクマネジメント(R)」「コンプライアンス(C)」の切り口でモニタリングすることが求められるのです。

地域統括会社の存在

毛利氏は、地域統括会社の位置付けを次のように説明します。「前述の事業の軸と管理の軸を少し工夫する必要があるのではないかと思いますね。管理の軸は、地域統括会社を介しても良いと思います。ですから、ある程度軸を整理し、明確なレポーティングラインを設けて、地域統括会社を通すものと通さないものできちんと仕訳します。

ありがちな問題は、地域統括会社の性格があいまいなこと。きちんと仕訳する理由はここにあります。主たるレポーティングラインと副次的なレポーティングラインとを分けることをメールで例えれば、To(メイン)とCC(サブ)をはっきりさせるということです」

グローバル経営組織内部のレポーティングラインを複雑にしてしまう要素として、マトリックス組織が挙げられます。ここで問題となるマトリックス組織とは、グループ内に複数のレポーティングラインが混在しており、うまく機能していない場合です。

例えば、本社にダイレクトにつながる縦ラインの「事業の軸に沿った指揮命令系統」と、アジアパシフィックといった横ラインの「地域の指揮命令系統」の両方に海外子会社が属するといったケースです。海外子会社から本社にある案件を報告・協議したい場合、いったん横ラインの地域統括会社を経由するのが適当なのか、それともダイレクトに縦ラインでコンタクトするべきなのか曖昧になっている場合があります。こうした混乱を避けるためには、あらかじめ報告項目ごとにレポーティングラインを決めておくことが必要です。また複数の報告先が求められる場合には、メインの報告経路、サブの報告経路についても明確にする必要があります。

行き過ぎた文書化は組織の硬直化などの弊害を産んでしまいますが、基本的なレポーティングラインについては、指揮命令系統に混乱が生じないよう文書化した上で、全員に周知徹底することが重要です。

グローバル経営の進展にともない、北米地区統括、欧州中国統括、アジアパシフィック統括など、地域ごとに財務等の管理業務を統括する統括会社を置くケースが多くなります。この統括会社に本社の内部監査機能の権限を委譲し、統括会社経由で海外子会社を監査する体制もあります。本社は個々の子会社を直接的には監査せず、この地域統括会社のみを監査することになります。また、地域に設置された統括会社の担当エリアの子会社に対する内部監査の品質評価を定期的に実施します。こうした2段階の体制をとることで、きめ細かい海外内部監査が実施できるようになります。子会社の数が多くなった場合には、こうした2段階の体制が最も効率的だといえます。

ただし、監査の方針や水準が地域間で異なることのないよう、ガイドラインやマニュアルを作成するなどして、本社が適切なリーダーシップを発揮することが重要です。更に、地域統括会社内に現地企業各社の経理業務を集中管理するシェアードサービスセンターを設置することで、子会社各社の管理コストの削減、ガバナンス体制の強化のみならず、海外内部監査の効率化が期待できます。

毛利 正人 氏

東洋大学 国際学部 グローバル・イノベーション学科 教授
GRCアドバイザリー 毛利正人事務所代表
米国公認会計士、公認内部監査人、公認情報システム監査人

早稲田大学政治経済学部卒業(経済学)、米国ジョージワシントン大学修士課程修了(会計学)。国内大手企業、国際機関(在ワシントンDC)、大手監査法人エンタープライズリスクサービス部門ディレクター、外資系リスクコンサルティング会社代表を経て現職。日本企業の海外子会社に対するコーポレートガバナンスサービスを専門としており、欧州、米州、オセアニア、アフリカ、アジア、中国などの世界各地で、内部監査、リスクマネジメント、買収海外子会社の調査、コーポレートガバナンス体制導入のためのプロジェクトを数多く実施。著書に『リスクインテリジェンスカンパニー』(共著、日本経済新聞出版社、2009年)、『内部監査実務ハンドブック』(共著、中央経済社、初版:2009年、第2版:2013年)、『図解 海外子会社マネジメント入門』(東洋経済新報社、初版: 2014年)がある。