さえりさん【インターネット最高!】
クリエイターの「検索履歴」を見せてもらった

みなさんこんにちは! ライターのさえりです。

突然ですが、他人の"検索履歴"って気になりませんか?

わたしは普段から気になったことをすぐインターネットで検索しているのですが、自分でも引くくらい検索ワードが偏っているんです。たとえば、「彼女 結婚 その気にさせる」「彼氏 好き 別れたい」「子ども 別れた旦那 似ている」とか。または振り切って、「ヘビ 進み方」「アダム リンゴ なぜ」「生き物 頂点」とか……。

検索ワードのきっかけは、友人から聞いた話やテレビで見たもの、街中で見かけた人など様々ですが、これがわたしの興味関心に紐付いていることは明らかですよね。検索したいと思う事柄は人それぞれ。となると、脳みそが面白い人の検索履歴は、きっと面白いはず……。

そこで思ったんです。

普段から面白いものをつくっているクリエイターって、どんなことを検索しているのか……? と。

んんんん、検索履歴見たい! 見たすぎる! あわよくば、彼らが普段どんな風にアイディアを出しているのかも知りたい(なにかのヒントになるかも)!!

今回は、株式会社ブルーパドルのプランナー&デザイナーの佐藤ねじさんと、コピーライターの長谷川哲士さんにお話を伺ってきました。

と、その前に。

本記事は、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)の25周年を記念した記事です。IIJさんは、なんと日本企業でインターネットを初めて商用化した会社。

今、私たちが息をするようにインターネットを使えているのは、IIJさんのおかげです。検索履歴を知りたい~! などという企画が実現したのも、そもそもIIJさんがインターネットを普及させてくれたから。インターネットがなければ、この企画も、検索履歴も、そしてこの仕事さえありませんでした。

ああなんとありがたい。ありがとう! という気持ちを込めて執筆いたします。最後までぜひお楽しみください!

佐藤ねじさんの"検索履歴"

アートディレクター/プランナー佐藤ねじ

1982年生まれ。アートディレクター/プランナー。面白法人カヤックから独立し、2016年7月に株式会社ブルーパドルを設立。『変なWEBメディア』『5歳児が値段を決める美術館』『Kocri』『くらしのひらがな』『レシートレター』『しゃべる名刺』『貞子3D2』など、様々なデジタルコンテンツを量産中。2016年10月に著書「超ノート術」を出版。主な受賞歴に、文化庁メディア芸術祭・審査員推薦作品、Yahoo Creative Award グランプリ、グッドデザイン賞BEST100、TDC賞など。

─今日はよろしくお願いいたします! ねじさんといえば、「5歳児が値段を決める美術館」や資生堂INTEGRATEさんとのコラボ「みんなの編集(メイク)で変化する恋愛漫画」という企画がありますよね。

▲「5歳児が値段を決める美術館」。こどもが4~5歳のあいだにつくった作品を、こどもが決めた値段で販売するECショップ。152円から1億円や無量大数円まで、個性的な値段が並ぶ。
▲「みんなの編集(メイク)で変化する恋愛漫画」。資生堂INTEGRATEの企画。セリフやキスの距離など、漫画を自分好みに編集できる新しいWeb漫画。

─わかりやすく言うと、普段はどんなお仕事をされているのでしょうか?

佐藤:僕は「新しさ」を重要視したデジタルコンテンツをつくっています。僕たちは、小さなアイディアをたくさん生んで「水たまり(パドル)サイズ」の新しい場所を見つけていこうと思い、ブルーパドルという会社をつくりました。外部から依頼を受けて、僕はプランニングやデザインを請け負っています。

─普段どんなことを検索しているのか気になります。早速ですが、検索履歴を見せてもらえますか……?!

佐藤:この企画を聞いて、なんだかちょっと恥ずかしいなと思ったのですが……。こんな感じでしょうか。

佐藤:僕が検索をするときって2パターンに分かれるなと思っていて。

ひとつは「なんとなく思いついたアイディアがすでにあるかどうかのチェック」として。もうひとつは「型を探すとき」ですね。

過去につくられてきた面白いものには、ある程度の型があると思うんです。だから、「テレビ番組 wiki」とインターネットで検索して、過去の番組と今持っているアイディアを組み合わせて何かできないか見ています。たとえば「ロンドンハーツ」という番組の"ブラックメール"と自分の持っているアイディアを組み合わせられないか、みたいな考え方ですね。

─気になるワードがいくつかありますね……。検索ワードについて教えてもらえますか?

佐藤:「A2 出口 ポスター」は、紙の会社の広告として面白いアイディアになるんじゃないかと思って検索したんです。たとえば、駅のA1出口にはA1サイズのポスターを、A2出口にはA2サイズのポスターを貼って、A6出口になるとA6サイズで小さくてかわいい、とか。そういうアイディアって既に使われてるのかな? と思って検索しました。

「リアル解約ゲーム」は……、「解約」って難しいじゃないですか。もはや脱出ゲームみたいだなと思って。じゃあいっそ、解約をもっと難しくしてゲームにしたら、解約するために登録する人が生まれて面白いかなと。

あと、「URLまたはキーワード」っていうのは、検索部分にいつも書かれているワードなんですが……。この文章をそのまま検索してみたら何が出るのかな? と思ったんです。実際に検索してみたら真面目なものしか出てこなくて。ということは、この検索ワードは、まだ誰も見つけていない「ブルーパドル」ですよね。

ブルーパドルを探すためにも、気になったワードは検索する。そしてそこで「面白いものが出てこなかった」というのが、僕にとっては収穫でもあります。

─なるほど……! 検索をして面白い結果が出てこないことが、アイディアの種になるというのは面白いですね。アイディアは普段、どのように出しているのでしょうか?

佐藤:アイディアは一人で出すことが多いです。朝起きてすぐか、昼寝から起きた時にアイディアを出す時間をつくるようにしています。

秘密の場所をいくつか持っていて、「今日はどこでアイディアを出そうかな」と考えるところから始めます。霊感みたいな感じで「出るカフェ・出ないカフェ」があるので(笑)。カフェの特徴として、天井が高い場所のほうがアイディアは出やすく、天井が低く狭いほうが作業に集中できると思うんです。作業にあったカフェで、一人でブレストしていますね。

佐藤:アイディアは、iPadノートを使ってメモしています。

普段から気になったものを検索したり、SNSで目についた話題をきっかけにしたりしてアイディア出しをして、こんな風に1軍、2軍、3軍 と分けておくんです。ストックしておいて、案件によって「これが当てはまるんじゃないか」と企画のショートカットとして使うこともよくあります。
「今週のアイディア」というメモも毎週残していて、だいたい8年くらい続けていますね。何か面白かったものや、気になったことをメモするようにしています。

毎日たくさんのメモをしているので、絶対死ぬまでに終わらない量のアイディアがあるんですよね。これをどこに、どのタイミングで、いかにインターネットという場を使って消化していくか……。そういうことをずっと考えています。

─ストックしたアイディアをいつ出すかタイミングを見計らっているなんて、手持ちカードをいつきるか虎視眈々と狙っているようでかっこいいです。アイディアを出すうえでのポリシーや大事にしていることはありますか?

佐藤:僕は、やはり「文脈として新しいもの」を大切にしていきたいと思っています。まだインターネットに出ていない、あの人もこの人もやらない、というブルーパドルを見つけること。ちっちゃな新しさを必ず見出すことを大事にしています。

─インプットは意識的にされているのでしょうか?

佐藤:特別なことはしていませんね……。普段からインターネットを見て、SNSで話題になっているものをチェックしたり、気になるサービスを見たり……。あとは、できるだけ日常の違和感を収集するようにはしていますね。実際に場所を変えるとアイディアが出やすい気がしているので、旅や展覧会などに行くこともあります。

意識的に取り組むよりは単純に見たいものを見るのが大事なんじゃないかと思っていますね。

─IIJさんが25周年を迎えたんです。もしこの世に検索やインターネットがなかったら……どうなっていたと思いますか?

佐藤:うーん。困りますね。もしインターネットがなかったら当然、今のような仕事にはならないでしょうし、アイディアを実現する場所もなくなってしまうので……。インターネットがあって本当に良かったと思っています。

まあそれでももし、インターネットがない世界に生きていたら……おもしろアイディアグッズとかをつくっていたかもしれないですね(笑)。

佐藤:僕、あるとき思ったんですよ。「インターネット、ありがとう」って。

一度、インターネットのすごさを運動会で例えようと思ったことがあるんです。僕たちって、データ通信でバンバン重たいものを送るじゃないですか。それをリアルの場で、たとえば誰かが文字を打ったら、誰かがそのパケット量の重さをリアルに表現したものを、届けたい人のところまで運ぶという……。こんなに重たいものをインターネットは運んでいるんだありがとう! っていう企画です(笑)。

そういうことを考えるくらいには、インターネットに感謝していますね。ありがとう! って思ってます!

─ありがとうございました!

長谷川哲士さんの"検索履歴"

長谷川哲士

「噂の長谷川です」と名刺交換をする株式会社噂の代表と、コピーライターで検索すると1ページ目に出る株式会社コピーライターの代表を務める。最近ググった言葉は「チーズタッカルビ」と「◯◯◯◯(高校の同級生でさほど目立ってなかったがセンスがいいと思っていたクラスメイトの名前)」。

─今日はよろしくお願いします! 長谷川さんはコピーライターをされているんですよね。

長谷川:はい。僕は「株式会社コピーライター」という会社と「株式会社 噂」という2つの会社を持っていて、コピーを書いたり、企画を考えたりしています。仕事をもらって、打ち合わせに行って資料つくってプレゼンして、という感じですかね。

─長谷川さんといえば、「NANBOYA」さんのコピーが有名ですよね。

▲クリスマスの時期に合わせたブランド品買取の電車内広告。村上春樹さんがコラムの中で紹介したことでも噂になった。

長谷川:NAMBOYAさんのコピーは、松任谷由実さんの『恋人がサンタクロース』をもじったものですが、「もうすぐクリスマスだし、元カレにもらったものを換金して新しいブランドを買いましょう」という意味を込めて書きました。出稿後、ツイッターで2,000件を超えるツイートがされるなど、かなりの反響がありましたね。

他にも、西武園ゆうえんちさんのコピーも書きました。

▲"疲れる" と "浸かれる" で心を "つかれる" つもりでつくった、プールのコピー。

─言葉を扱う人の検索履歴、すごく気になります。見せてもらえますか……?!

長谷川:検索、僕は普通の人よりすごく頻繁にしているなということに気づきました。

長谷川:基本的には、コピーを思いついたときに「すでにあるかな?」とチェックの意味で検索していますね。

─いくつか検索ワードについて教えてもらいたいのですが……!

長谷川:ママだけのマラソン「ママソン」とか、勝海舟に対して「負海舟」とか、「景品東北線」とかって誰かもう書いてるかな〜と……。基本的にはダジャレのようなものですね(笑)。でもたまに面白いものに出会ったりもして。

(引用:Yahoo!知恵袋

長谷川:こういうものも、アイディアのきっかけにしていることが多いですね。面白いなぁと思ったら頭のどこかに置いておいて、いつかコピーのネタにしたり……。

あとは、「新雪 英語」のようにコピーのために英語を調べることも多いです。スキー場のお仕事だったのですが、新雪は英語で「new snow」。じゃあ、それをかけて「new snow news」みたいな言葉をつくってみようとか。

「スマホ、高すぎ新作」というメルカリのコピーを書くときに検索したワードもありますね(「高杉晋作」「スマホ 高杉」)。新しいスマホって「高すぎる!」という声が多かったので、じゃあ今持ってるそのスマホを売って、「新作」を買ってみたらどうですか? というコピーですね。

長谷川:そのほかで言えば……、直接コピーにつながっているわけではありませんが、今みんなが何を考えているのか? を検索することもあります。この時期、僕が一番検索するのは「ヒートテック デビュー」ですね(笑)。今日ヒートテックデビューした人が何人いるかをよくTwitter検索しています。

あとは「死にたい」で検索して、「化粧失敗した。死にたい」とか「眠すぎて死にたい」とか、みんながどんな風にその言葉を使っているのかを見ることもあります。

僕にとって、検索はアイディアの源になっているかもしれませんね。

─リアルタイムでみんなが考えていることを知るのも、アイディアの源になるんですね。アイディアを出すうえで、大事にしていることはありますか?

長谷川:僕は、5秒で考えられる企画を大事にしています。考える時間が長くなるほどどんどん複雑になるし、5秒で考えるほうがわかりやすさに直結すると思うんですよね。もちろん、考えて考えて考え抜いた先のアイディアが良い! という人もいるのですが、僕にはそれはできないなと。

長谷川:たとえば、ロッテさんの『EATMINT(イート・ミント)』という商品の企画をしたときは、「いいとみんと」→「いい都民と」で、舛添さんを起用して猪瀬元都知事のバッグが当たります! というアイディアを出したり(笑)。
結局採用されなかったのですが、そういう5秒で思いつくものは"シンプル"でいいんじゃないかと思うんです。学生でも出せる企画じゃん! と馬鹿にされることもたまにあるのですが……、でも「わかりやすさ」って大事だと思うんですよね。

あとは、スイッチのオン・オフがないのでいつも何かしら考えていて、言葉遊びを普段からよくしています。それがコピーのきっかけになることも多いですね。インターネットで目にしたものや、日常生活で聞いた話などをきっかけに思いついたことは、こんな風にメモを取っています。

長谷川:たとえば……「アンチのみんな〜!」ってメモしているやつ。これは「おはようございます!」のツイートにさえクレームがくるTwitterアカウントがあって(笑)。そんなにアンチが多いんだったら、いっそ「アンチのみんな~!」ってあえて呼びかけたら面白いんじゃないかなって思ってメモしたものですね。……あ、でもこれ、今気づいたんですが全然おもしろくないですね(笑)。

─インプットは意識的にされているのでしょうか?

長谷川:特に時間はつくっていないですね。でも、SNS(Facebook/Twitter)はいつも見ていますよ。流行っているものや話題になっているものだけでなく、気になる人を見つけることもできますし。

あとはテレビも見るようにはしています。月~金曜だけ、朝9時にテレビが自動でつくようにしているのでいつも見ていますね。たまに企画のために映画をみよう! とか意識することもありますが、基本的には自分が興味のあることをしていますね。

─IIJさんが25周年を迎えました。もしこの世に検索やインターネットがなかったら……どうなっていたと思いますか?

長谷川:そもそも僕に仕事を依頼してくれる人は、検索で僕にたどり着いていることが多いと思うので、困りますね。インターネットを頑張っているネット系コピーライターって今はあまりいないんですよ。そんな中で、僕はSNSを上手に使えていたのかなと思っていて。それで、検索でたどり着いて僕に仕事をくれる人がいる。だから、検索がなかったらそもそもコピーを考える以前に、仕事がなかったかもしれません。

僕が言いたいのは、SNSありがとう、インターネットありがとう!ですね。

─今日はありがとうございました!

インターネットありがとう~!!

二人のクリエイターインタビュー、いかがでしたか? 二人の検索履歴には、彼らの仕事や興味分野、日々の思考回路がそのまま表れているようでした。

検索履歴を見たい! などという単純な発想から始まったこの企画ですが、お話を伺っているうちに「インターネットがなければ、この話のすべてが存在しないな」と思えてきました。インターネットがなければ検索も、アイディアの発端になるSNSもない……。クリエイターたちのアイディアを、アイディアのままで終わらせないでくれるのがインターネットという場所なのかもしれません。

最後に、どこかの誰かの検索履歴をお見せしながらお別れすることにしましょう。

▲24歳・女性
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▲24歳・女性
▲30歳・男性

人が変われば、検索履歴も変わる。あなたの検索履歴はどんなものですか?