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東京大学医学部附属病院 様東京大学医学部附属病院

認知症の患者・家族と医療者を密につなぎ
個別化医療の実現を目指す「わすれなびと」

東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)は、認知症・軽度認知障害の患者・家族を対象に、ICTコミュニケーションツール「わすれなびと」のパイロットスタディを行った。iPad(※1)を使い、外来診療時間外でも医師と薬剤師に相談できるほか、定期アンケートの回答から次回の外来診療の準備などを可能にした。この非常に機密性の高い情報を安心・安全に使える医療情報向けクラウド環境を、IIJが提供している。
  1. (※1) IIJモバイルSIMを搭載し、モバイル通信可能なiPad miniを使用。

「わすれなびと」プロジェクトのポイント

  • 「わすれなびと」に参加した患者・家族は、外来診療時間外でも医師と薬剤師にタイムリーに相談可能
  • 薬剤師が患者の自宅を訪問して服薬支援を行い、医師と服薬状況を共有
  • iPadで定期アンケートを実施、患者の日常の様子を把握でき、次回の外来診療の予習に役立つ

短時間の外来診療では十分な情報収集ができない

認知症の患者は個々に原因や症状が異なるため、マニュアル的な対応では限界がある。医師は患者の日常の様子を正確に把握しようとするが、混雑する外来診療で患者1人にかけられる時間は10分程度しかないのが現状だ。

「外来は日常生活の問題点を抽出して助言する場です。それにはあらかじめ患者さんができないことやご家族が困っていることを知っておかないと、とても表層的なやりとりで終わってしまいます」と説明するのは、東大病院神経内科の認知症専門外来「メモリークリニック」で多くの認知症患者を診ている岩田淳先生だ。

外来の受診には1~3ヵ月の間隔が空く。医師はこの間の平均的な様子や代表的な出来事を聞き取りたい。一方、家族は昨日気になったことなど直近の話に集中しがちだ。また、患者本人の前では話しにくいこともある。家族に助言するときは患者にとって耳の痛いことにも触れなければならないため、「患者さんが嫌な思いをしないように、情報収集の相手と場を分ける必要があります」と岩田先生は話す。

高セキュリティのクラウド環境で、患者は院内の検査結果を自宅で閲覧

こうした課題を解決するべく構築されたのが、ICTコミュニケーションツール「わすれなびと」である。これは、約1,400の医療情報関連ガイドラインに準拠したIIJのクラウド環境で患者に関わる多職種が情報共有する「電子@連絡帳(※2)」をベースに、カスタマイズしたものである。

東大病院神経内科は、東京大学センター・オブ・イノベーション(COI)「自分で守る健康社会拠点」のサポートを受けて「わすれなびと」の予備的臨床研究となるパイロットスタディを行った(※3)。参加者は貸与されたiPadから「わすれなびと」の機能を利用できる。例えば、検査結果(血液、画像、認知機能など)の一部を、次回の受診を待たずに自宅のiPadで閲覧(※4)でき、過去のデータとも比較できる。

「わすれなびと」は東大病院にとって初の外部クラウドサービスである。通常の臨床研究の数倍も書類を用意するなど倫理審査に3ヵ月程度要したが、やるべきことが明確で、どうすればいいか戸惑うことはあまりなかったという。

パイロットスタディは約1年3ヵ月行われ、11組の患者・家族が参加した。「今困っていることを解決したいニーズが強い家族は、『わすれなびと』を使うモチベーションが高く、よく利用していました」と、岩田先生は振り返る。

患者・家族は「わすれなびと」を通して日々生じる問題を、医師と薬剤師にタイムリーに相談できるようになった。質問は「この症状が病気のせいなのかどうか」など日頃の症状に関するものが多かった。

医師にわざわざ聞くほどではないが気になることがあるとき、相談できる他の医療者がいるのは心強い。「わすれなびと」は服薬支援を希望すると薬剤師が直接患者の自宅を訪問しており、薬剤師に聞きたかった悩みも相談しやすくなった。このようにいろいろな職種が関わることで、患者・家族は「見守られている」という安心感を持てたのではないだろうか。

  1. (※2) 名古屋大学医学部附属病院 先端医療・臨床研究支援センターにより開発された多職種連携、医療、介護、家族をつなぐコミュニケーションツールを「IIJ電子@連絡帳サービス」として提供。
  2. (※3) 「わすれなびと」プロジェクトは、エーザイ株式会社が、東大COIの枠組みの中で東京大学医学部附属病院と連携して実施したものです。
  3. (※4) SS-MIX2連携を用い、東大病院の院内電子カルテシステム(EMR)より、一部の検査結果を取得し表示。

患者を中心とした遠隔医療で、医療の質を向上させる可能性

服薬支援で分かった服薬の状況は、「わすれなびと」を介して医師と共有される。ココカラファインヘルスケアの薬剤師である櫻井宏和氏がある独居の患者宅を訪問すると、残薬がかなりあった。早速iPadで残薬を撮影し岩田先生に報告。岩田先生の指導で患者は介護申請し、介護サービスを受け始めた。「飲み忘れ・飲み間違いを防ぐ配薬を工夫しながら、ケアマネジャーとも連携してヘルパーによる服薬介助をお願いしました」と櫻井氏。この患者はきちんと服薬するようになり、症状の改善も見られた。

「薬剤師により服薬状況が正確に把握できるので、薬の処方にとても助かります」と言う岩田氏は、「わすれなびと」の次のステップとして、ケアマネジャーやヘルパーなど関わる職種を増やすことを提案。これにはココカラファインヘルスケアの竹花瑛仁氏も賛同する。「患者さんの情報を多職種で共有できれば、他の職種の意見をヒントに、薬剤師としてより適切なアドバイスができるのではないかと思います」。

また、iPadを通して患者向け、家族向けに月1回アンケートを実施。同じ質問は3ヵ月に1回の頻度で行い、回答は時系列で記録された。「病態の進行は、顔つきやMRI画像から判断できるわけではありません。日常生活の変化が進行のサインですが、それを外来で聞き取るのは骨が折れます。アンケートの回答で予習できれば、次回の外来診療に役立ちます」と岩田先生は話す。

家族が提供する情報は家族がフィルターにかけたものであるため、実はふるい落とされた中に重要な情報があるかもしれない。「情報の正確性を担保するには、日常会話から情報を吸い上げるようなシステムが理想です。『わすれなびと』を始める前は実現は困難だと思っていましたが、最近はできそうな気がしています。このパイロットスタディはその出発点になったのではないでしょうか」と岩田氏は期待を寄せる。

東京大学医学部附属病院様へ導入したシステム概要図

導入したサービス・ソリューション

お客様プロフィール

東京大学センター・オブ・イノベーション(COI)
自分で守る健康社会拠点
所在地:東京都文京区本郷7-3-1
「入院を外来に、外来を家庭に、家庭で健康に」の理念に基づき、東大ならではの総合力と研究リソースを生かし、次世代健康医療産業の基盤となる「健康医療ICTの基盤作り」の研究開発を重点的に行う。

東京大学センター・オブ・イノベーション(COI)
自分で守る健康社会拠点

※ 本記事は2017年10月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。

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