ページの先頭です


ページ内移動用のリンクです

  1. ホーム
  2. IIJについて
  3. 情報発信
  4. 広報誌(IIJ.news)
  5. IIJ.news Vol.178 October 2023
  6. 現場部門による人材育成の取り組み

IIJアカデミーとIT人材教育 現場部門による人材育成の取り組み

IIJ.news Vol.178 October 2023

各企業のIT人材が潤沢とは言い難い現状、基盤やネットワークなどインフラシステム領域では、ITベンダが不足分を支える必要性が高まっている。
IIJはこれまで約30年間、革新性や効率性を追求したITサービスを提供してきたが、その一方で、事業を支える社員の育成についても試行錯誤を重ねてきた。本稿ではその概要を紹介する。

執筆者プロフィール

IIJプロフェッショナルサービス第一本部 本部長

中 嘉一郎

IIJの人材育成

二十数年前、筆者が新卒入社した当時のIIJは、従業員数も四百名程度と、今よりずっと小さい会社でしたが、社員一人ひとりが能動的に専門性を突き詰めていく力や探究心を持ち合わせ、各分野をリードする技術者をはじめ、お客さまに対応するアカウントセールスやコンサルティング、プロジェクトマネージメント、さらにはビジネスやソリューションなどを作り上げていく企画開発力のある社員が集まり、創造的にチャレンジする風土が根付いていました。

その後、会社が成長するにつれ、ビジネスユニットやテクノロジーユニット、バックオフィス系など、組織や部門が広がりましたが、各組織のミッション、業務特性、個人のスキルレベルや成長目標が異なるなか、全社統一の人事評価制度や施策だけでは、人材育成に限界を感じるようになってきました。そして、そうした組織・制度のもと、若手社員が行き詰まるケースも散見されるようになりました。

約10年前、現場のマネジャーとしてこうした課題に直面した筆者は、組織の人材育成に取り組むことにしました。IIJのカルチャーを大事にしつつ、優秀な人材の成長を後押ししたいという思いから、現在は主業務と兼務するかたちで、ビジネスユニットにおける現場の人材育成施策を担当しています。

現場部門の人材育成

当時の人事制度は、いわゆる職能等級の考え方が適用され、社員の保有能力を評価する傾向がありました。しかし、各現場で実際に発揮されている能力とは異なる場合もあり、制度や定義内容を画一的に捉えるマネジャーのもとでは問題が起こることもありました。

これはむずかしい課題であり、制度を運用するマネジャーの裁量で是正できる部分もありましたが、個人の裁量に任せるだけでは不完全で、やはり組織として改善しなければ、優秀な人材を育成することも、適切に評価することもままならないので、改善の主眼を人材育成における「マネージメント強化」に置くようにしました。

着手したのは下記の2点です。

  • マネジャーの考え方・価値観を合わせる(会社や事業の方向性を踏まえて、重視する要素とレベルや段階を定義する)
  • マネジャーに自組織に閉じない会社目線を持たせる(自組織以外への視野を広げ、相対評価を可能にする)

1つ目は、役員へのヒアリングを通して重視すべき人材像を分析し、スキルやコンピテンシー(リーダーシップや責任感などの人間の行動特性を示すもの)を定めた「人材モデル」としてマネジャーに展開しました。

2つ目では、策定した「人材モデル」をシステムに実装し、社員一人ひとりの強みや成長度合いを明確にするために、アセスメントを実施しました。合わせて、業務経歴なども収集・蓄積しながら、年に一度、評価補正情報としてレポートを作成し、マネジャーに展開しました。

このサイクルを何年か回すなかで人事制度も改定され、保有能力から「発揮能力」を評価するミッショングレードに変わるとともに、「人材モデル」から重複する要素を削除しながら、より具体的な業務(タスク)レベルを把握するためのモデルへと進化させています。

また、従来は年に一度だけアセスメントを行ない、マネジャーごとに個別レポートを作成・展開していましたが、年間を通じて常時アセスメントでき、マネジャー側でも常時レポートを参照できるよう、タレントマネージメントシステムへと刷新しています。

マネージメント強化への新しい展開

人事制度を刷新し、現場部門のタレントマネージメントシステムも整備したものの、主眼である「人材育成におけるマネージメント強化」には課題も多く、人事グレードや年齢、スキルとの相関分析、自部門社員と全社員とのスキル分布・比較、若手技術者の知識力テストや業界比較、各アセスメントデータの時系列分析など、蓄積する人材データや分析機能の拡充なども進めています。これら新たなモデルを用いたアセスメントは、今年で三年目を迎え、昨年は営業職390名、技術職650名他を含む1060名の社員が受講しました。

また、スキルアセスメント以外にも、人事部門と共同で全社の人材開発体系において現場での取り組みを拡充し、部長職を対象とした人材育成強化施策なども展開しています。自部門の方針や戦略をもとにした部下の育成方針、年度計画を策定し、育成を目的とした会議に持ち寄り、社内外の第三者からアドバイスを受けながら、組織全体で適宜フォローしていく活動です。

2013年からスタートしたこれらの現場部門の人材育成は今年で10年目になりましたが、引き続き現場マネジャーの声を拾いながら施策の向上に努めています。

COLUMN

スキルマップ(人材モデル)策定において、マネジメント強化の観点から行なった工夫

① 自社カスタマイズしたタスク定義

社外比較・相関がわかるよう、IPA策定のiコンピテンシーディクショナリのタスクディクショナリをベースとして、自社に適したかたちにカスタマイズして利用。IIJでは、カスタマイズしたタスクには、基本的に新規の追加は行なわず、削除だけを行なっている。項目を追加すると外部指標で評価できなくなるが、削除なら(読み替えるなどして)工夫すれば外部指標で評価できることがその理由。

* タスクディクショナリはIPAのサイトからフリーでダウンロード可能
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/plus-it-ui/history/icd.html

② 複数部門に存在する同一の職種におけるタスクは“AND”をとって策定

A部門およびB部門のPMという職種に求められるタスクのなかから“AND”(共通要素)をとって策定。これにより、現場社員にとっては業務上、関係のないタスクが含まれることになるが、A部門およびB部門のマネジャーは、組織横断の視点からPMとしてAさん、Bさんを評価可能になり、タスクごとに設定したスキルレベルをもとに自部門、対象部門全体でメンバーをマネージメントできる。

デジタルワークプレイスな人材育成へ

コロナ禍以降、社員の働き方が大きく変化するなか、「ビジョンや方針を示す」「実現のための環境を整える」「トラブル時は自らリカバリに入る」といったマネジャーが執るべきリーダーシップにおいても、その前提としてメンバーの仕事に対する興味・関心や能動性を把握し、マネジャーがそれを正しく引き出すことが重要だと言えます。

コロナ禍以前なら、オフィス内での立ち話や終業後の飲み会などメンバー間の接点も多く、偶発的なコミュニケーションを通して「ちょっとやってみたい」という新たな興味の種を与えることもできました。しかしコロナ禍以降(リモートワーク環境)では、そうした機会が減少し、決められた時間でアジェンダをこなすコミュニケーションが多くなりました。最近では“1 on 1”や社内公募などを強化する企業も増えていますが、コロナ禍以前のオフィス時代のように隣人やチームがやっていることに気軽に入っていくといった雰囲気は依然、希薄なままです。

これに対し、冒頭で述べた「マネージメント強化」とは観点が異なりますが、目下、新たに検討しているのは、リモートワーク環境においてもメンバーが興味や関心の種を見つけられるようなデジタル環境を作る試みです。

具体的には、タレントマーケットプレイスの概念を取り入れた社内SNSの仕組み作りを進めています。InstagramやFacebookに慣れ親しんだ若手社員に向けた社内SNS上に、部門内のさまざまなアクティビティやビジネス関連の情報、新しいプロジェクトや新サービスにつながるアイデアの種などを会話ベースで流すといったイメージです。利用者(社員個人)のアカウントには、パーソナルデータとして自身が興味を持っている分野やタレントマネージメントシステム上のスキル情報などをタグ付けしておくことで、その分野に詳しい先輩社員を検索できたり、プロジェクト募集者側が必要とする人材を検索できたりします。加えて、取り組みたいプロジェクトなどに気軽にエントリーできる機能も入れていきたいと考えています。

このようにアイデアはいろいろあるものの、実現には課題も残っており、まだ企画・検討中ですが、これまでに蓄積してきた人材データを活用しながら、社員が自主的に新しいことにチャレンジできるデジタル環境を整備していきます。

国内IT業界を見ると、人材育成に重きを置いた制度や育成環境を整備できている企業は多くないように思われます。今後は、人事任せにせず、ITを知る現場が人材育成を主導する必要性が高まると思われますが、機微情報の取り扱いなどにも配慮しながら、適材適所に体制を作り、集中的かつ継続的に取り組んでいくことが重要だと考えます。


ページの終わりです

ページの先頭へ戻る