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ぷろろーぐ AIは向こう岸

IIJ.news Vol.178 October 2023

株式会社インターネットイニシアティブ
代表取締役会長 鈴木幸一

50年以上も経ってしまった。私にとっては大昔の話になるのだが、コンピュータの技術開発、その導入競争が未来を決める、そんなことが言われ始めた時代のことである。

そうした競争の末端で、ささやかな飲み代稼ぎのために、授業を欠席し、コンピュータ関連のアルバイトに精を出していたのだが、自らの籍がある大学ではなく、友人が学んでいる大学の統計学の授業に通っていたことがある。授業をもっていた教授の明晰な著書を読んでいたのである。

コンピュータの発展が加速し、将来は人工知能のテクノロジーが進化することで、人間が行なっている仕事がコンピュータに肩代わりされるようになる。その変化は、作業者レベルから知的労働のレベルにまで及ぶようになる。人間の仕事が人工知能に取って代わられる時代が、近い将来、訪れるという話であった。

アルバイトながらコンピュータに関心があった私は推測統計学、あるいは推計統計学(Inferential Statistics)に興味があった。要は「実験や観察、調査などの統計的データをもとに、母集団について確率的に推測することを目的とする学問」である。恐ろしいスピードでコンピュータがデータを処理することで、膨大な統計データによる推測が精度を増す。最近は、コンピュータが自ら「構造化されていないデータセットをもとに学習し、新しいコンテンツを作成する」生成AIという言葉が流布している。その昔、中途半端な学習のみで終わった私なのだが、流行語になっている「生成AI」について、素直にその未来を楽観することはない。

学問とは縁遠い生活を続けていたので、アルバイト、バーのカウンター、乱読……等々、有り余る時間をひたすら浪費していた頃、20歳にして恋愛のメカニズムをすべて理解できるようになり、18歳で『肉体の悪魔』を、20歳にして『ドルジェル伯の舞踏会』を執筆し、夭折したレーモン・ラディゲの小説を読み耽った。「20歳にして、すべての恋愛のメカニズムをわかってしまった」というラディゲの言葉こそ、推測統計学を遥かに超える知能なのだと感嘆し、そのまま推測統計学に関する学習を放棄した記憶がある。単に怠け者の自己弁護のようなものだが、コンピュータと違い、わずかなデータからすべてのメカニズムが見通せてしまう「天才」の解析力や予測力には、「生成AI」が及ぶべくもない推理力があるようだ。

今に至るまで、この思いが変わることはない。コンピュータが恋愛のあらゆる局面におけるメカニズムを予測するのはむずかしいだろうが、20歳の若者がそのすべてを理解してしまうことは可能なのである。AIが持て囃されても、「うーん」と積極的な言葉が出てこないのは、生来の怠け者のささやかな抗弁なのかも知れない。

10月2日は来年の新入社員の内定式だった。懇親会に出席したら、ほとんどの内定者は、学生時代がコロナ禍に重なって、飲み会の経験が少ないという。経営者としては、喜ばしいことなのかなあ……と、口を閉じてしまったのだが。


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