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デジタルシフトは止まらない ぴあ株式会社 川端 俊宏 氏、株式会社エイチ・アイ・エス 髙野 清 氏

IIJ.news Vol.176 June 2023

リーディングカンパニーの情報部門のキーパーソンにご登場いただき、各社のICTに対する取り組みや課題をうかがうとともに、今後も加速し続けるデジタルシフトへの対応についてお話しいただく「デジタルシフトは止まらない」。
第5回では、ぴあ株式会社の川端俊宏氏と、株式会社エイチ・アイ・エスの髙野清氏をお招きし、新たな“体験価値”を創出するうえでのDXの役割や活用法について対談していただきました。

ぴあ

ぴあ株式会社
取締役執行役員

川端 俊宏 氏

1997年、ぴあ株式会社入社。20年以上、ITに関わり、チケッティングのWEBシフト、ITソリューション化と国際大会への提供、新規開発のプロジェクト統括などに従事。2019年、同社執行役員。22年6月より同社取締役(現任)。システム統括とDXを担当。23年2月、PIA DAIMANI Hospitality Experience 株式会社代表取締役社長に就任。

エイチ・アイ・エス

株式会社エイチ・アイ・エス
執行役員
本社情報システム本部長/本社DX推進本部長

髙野 清 氏

1993年、株式会社エイチ・アイ・エス入社。95年よりインターネットビジネスに関わり、翌年ホームページを開設。eビジネス事業部を立ち上げ、オンライン化を推進。2008年、情報システム本部長。16年よりロンドン駐在、海外システム担当。22年11月より現職。

モデレーター

IIJ執行役員
第二事業部長、第三事業部所管

井手 隆裕

――最初に、ぴあの川端さまから、簡単な自己紹介をお願いします。

川端:
現場を含む全社的なシステム領域の管掌、DX戦略、グローバルビジネスなど、まさにデジタル“ど真ん中”を担当しています。

――次に、エイチ・アイ・エス(以下、HIS)の髙野さま、お願いします。

髙野:
インターネットビジネスを立ち上げて、その流れでシステムを担当するようになりました。2016年から四年間、海外システム戦略担当としてロンドンに駐在し、2020年に帰国してからは、システムとDXを担当しています。

DXによる新たなビジネス・リソースの創出

ぴあ 川端さまからHIS 髙野さまへ
【質問1】HISさんは、旅行・観光産業における“個人”に着目し、ビジネスを変革してきましたが、どのような狙いを持って、IT・デジタル技術を活用されてきましたか?

髙野:
1980年代後半から、格安航空券が認知されてきて、『地球の歩き方』を片手に個人で自由に旅行する人が増えてきました。そのなかでHISは、スタッフ個々の知識や経験を活かした、コンサルティング的なサービスを重視してきました。
しかしながら、店舗のようにさまざまなシチュエーションに対応したサービスを目指してシステムを構築すると、どうしても複雑になるので、当時はインターネットで旅行をアレンジできるようなサービスを提供する旅行会社は多くなかった。そこで弊社では、お客さまに喜ばれ、他社と差別化できるなら、デジタルを駆使して可能な限り店舗と同等のサービスをインターネットでも提供できるよう心がけてきました。
川端:
個人がエンターテインメントに近づこうとすると、アナログのままだとムダが多くなるので、情報をデータベース化したり、チケットの販売をオンライン化して、距離感を縮めようとしてきたのが、我々の業界のIT化の流れでした。
髙野:
航空券をオンラインで購入できるようにするといったことはぴあさんとまったく同じで、もともと「券」というフォーマットがデジタル化と相性が良かった。ただ、いざやってみると、半分アナログが混じったような非常に複雑なかたちになったのですが、やっているうちに社員の発想もデジタルに順応して、効率化や自動化を望むようになっていった。そして、SNSなどでスタッフの知見を発信できるようになると、お客さまに情報が届くスピードも量も増して、デジタル化の意味合いが、商品の販売からコミュニケーションへと変わっていった感じです。
川端:
具体的な成果は出ていますか?
髙野:
旅行手配以外の成果はこれからですが、メタバースを試してみたり、自宅でオンライン相談を受けられるようにしたり、ロボットが働く「変なホテル」の運営など、積極的にトライしている最中です。
そうしたチャレンジの根底にあるのは、お客さまにとって「安くて買いやすい代理店」から「付き合いやすいHIS」に変えていき、個々のサービスが自然とつながり、お客さまのワクワク感がどんどん上昇していくようにしたいという思いです。我々の出番はココまでで、次はエアラインさん、その次はホテルさん……ではなく、一連のサービスをデジタルでうまくつないでいきたい。
川端:
旅って、「体験」がともなわないと、単なる移動になってしまいますが、近年、情報の入手が簡便になり、旅がより身近になったなあと感じています。
髙野:
旅行ビジネスは、プランニングを経て、旅行商品を購入していただくわけですが、その段階ではまだ旅は始まっていない。お客さまとのタッチポイントが非常に長くて多い業種なので、モノを買っていただいたあとも、展開の仕方によってサービス内容を大きく高めていくことができる。
我々の仕事は、お客さまの一生のうちの数日間をお預かりするので、ある意味、人生のステージの一部を提供しているとも言えます。旅の過程では、デジタル(情報)が果たす役割がとても大きく、出番も多い。多くの旅行会社は、出発前の予約代行業務がメインのサービスでしょうが、HISは地上手配(目的地におけるサービス)までサポートしているので、ITを有効活用して、先ほどお話のあったトータルな「体験」の提供つなげていきたいと考えています。
川端:
体験をつなぐ「接点」も大事ですね。
髙野:
アクティビティや飲食はもちろん、保険、決済手段、Wi–Fi、地図、カレンダーなど、さまざまな業種が組み合わさって1つの旅が成立するので、よりつながりやすく、オープンな環境にしておくうえでもデジタル化は必須です。

HISのオンライン体験ツアー
コロナ禍中にはテレビなどで取り上げられ、一般の利用者以外にも社員旅行などで多くの企業に利用された。
現在も、海外へ出発する前の予習を兼ねて、現地の様子を楽しむなどの目的で利用されている。

HIS 髙野さまからぴあ 川端さまへ
【質問2】DXを進めることで新しい価値は創出されていますか?コンサートや映画のチケットを購入されるお客さまの目的や傾向に変化は生じていますか?

川端:
我々が生み出しているか否かは別として、ビジネス面での変化としては、かつて映画は映画館で観るものでしたが、今はインターネット経由で観る人が増えて、体験の仕方が広がりました。「推し活」のような現象も、一個人の活動でもデジタル化されることでコミュニケーションが可視化され、頻度が増えて距離も近くなり、接点が生み出す価値が多様化した結果だと言えます。そんなふうに、新しい価値は確実に生まれていますが、それがビジネスモデルになっているかというと、まだ流動的ですね。
髙野:
社内で新規事業を立ち上げる時など、デジタル化で既存業務が簡略化されて、新しいことに取り組む時間が確保できるようになったり、リソースを再配分できるようになったなどの効果は出ていますか?
川端:
十分ではありませんが、リソースは増えたと思います。ただ、デジタル化で捻出された“ゆとり”は、既存業務の工夫や改善のために使われがちで、なかなか新規事業の創出には割けてないかもしれません。特に日々お客さまに接していたりすると、新しい領域に行くより、どうしても足元を固めるほうに向かいがちで……。
髙野:
「本業があるので……」みたいに?
川端:
そうです。だから、新しい価値創出には、“意図的に”取り組む必要があるなあと痛感しています。当社では2025年までに、将来の期待事業の割合を3割に引き上げるといった目標を打ち出しています。DXに関しても2019年の段階で、会社のトップが役員に対し、「自分たちの部門でDXをどう展開していくのかリポートしなさい」と指示を出していました。
髙野:
トップからの発信は効果的ですね。
川端:
実は、私が次世代システムの戦略担当だった2016年に「DX推進」を提案した時は、誰も反応してくれなかったのですが(笑)。ただ、その3年後には「DXについて考えろ」という課題が出たので、会社としての意識はそちらを向いているんだな、と。
髙野:
「イノベーション」は、会議で決めるものではなく、普段から好奇心と改善の意欲を持っていないとなかなかむずかしいので、会社としてそういう文化を醸成していくことが大事ですね。

HIS 髙野さまからぴあ 川端さまへ
【質問3】ベテラン社員のリスキリングなどには取り組まれていますか?

川端:
リスキリングは検討していますが、本格的にはこれからです。ところで、最近話題の「ChatGPT」が現れたことで、(人材活用に関しては)これまでの考えをいったんリセットしなければと思っているのですが、HISさんは、そのあたりいかがですか?
髙野:
一部の業務では、専門的なスキルや専門家そのものが必要なくなるかもしれませんね。旅のプランニングでも「どこへ行けばいい?」と尋ねたら、ChatGPTは答えを出してきますし、すでに活用している旅行会社も登場しています。危機感を持つ一方、我々も取り込んでいく必要があると考えていて、「どんな活用が有効か?」といったヒアリングを先日、社内で実施して、実用につなげると同時に、リスクを推し量りながらガバナンスを精査している段階です。
川端:
当社の取締役会メンバーの懇親において、IP(知的財産)に関して日本法の解釈では、AIによる分析結果の利用については問題ないが、元データの二次利用はNGという見解が示されている、との話題がありました。一方、社会的には、分析に使うことや似ているものはNGという動きもあり、注意深く議論していく必要があると考えています。気をつけてないと、自分たちも知らないうちに(他社のデータを)使っているかもしれず、知的財産のあり方に関しては、近い将来、議論が必要でしょうね。
髙野:
新しい技術をうまく活用できたところが生き残り、ほかは淘汰されていく時代になると思うので、会社のパーパスにつながる活用であるなら、AIも積極的に使っていきたいと考えています。

感動の現場とデジタル技術との結びつき

ぴあ 川端さまからHIS 髙野さまへ
【質問4】我々の業界に共通しているのは、現場の息づかいや、その場所に行かないとわからない空気感があって、それが体験価値を創出している点だと思います。デジタル技術は、そうした現場との接点を保っていることが重要だと考えているのですが、そのあたりを踏まえた取り組みなどはされていますか?

髙野:
提供しているものが時間と空気というのは、まったく同じですね。体験を連続させつつ、その価値を高めていくという。
旅行ビジネスは、飛行機のチケット、ホテルの部屋……など、個々のサプライヤーさんが提供するものを、我々が取りまとめて、演出しているとも言えます。もちろん旅をつくりあげているのは、一人ひとりの旅行者ですが、我々はその支えになっていきたい。その際、デジタル化されてないと、個々の要素をつなげていくことができません。
川端:
つながるということ自体、1つの価値ですね。例えば、ライブやスポーツ観戦は、そこだけ切り取ると2、3時間のイベントでしかないですが、その人の時間は前後にも広がっている。そういうところも含めてエンターテインメントの質を高めていかないと画一的になるし、体験も広がっていかない。となると、一つひとつの体験を掛け合わせるために、接点をどうつくっていくのか、それぞれのサプライヤーが意識を共有して体験価値を最大化していく努力が必要ですよね。その接点にデジタルがある。
髙野:
リアルの世界の魅力や価値はおっしゃる通りだと思うのですが、最近、少し危惧しているのが、ファミリーで旅行している最中でも、Z世代やα世代の子どもたちが「ゲームをしたいから、早くホテルの部屋に戻りたい」と言ったりするのは、もはや世界中で当たり前の状況になっていることです。そうした子どもたちがそのまま成長していくと、「昔はわざわざ飛行機に乗って現地に行っていたんだって!」と誰もが言う世界になっているかもしれない(笑)。だから、「バーチャルの世界にもリアルに遜色ない体験や感動は存在する」という視点も常に持ち合わせるようにはしています。
川端:
エンターテインメントは現場に行って、五感で感じるのが基本ですが、おっしゃる通り、興味の対象や時間の使い方の感覚が変わってきていますね。突き詰めると、哲学的な話になってしまうのかもしれませんが、人が人として活動していくなかで、デジタルの世界だけだと、何かが欠けていると感じませんか?
髙野:
到達までの過程の違いとその場の空気でしょうね。デジタル美術館みたいなものが実現すれば、日替わりで世界中の名画を飾ることができる。今の技術なら絵の具の質感なんて、リアルと遜色ないくらいに再現できるでしょう。でも、その絵を肉眼で見る夢が叶うまでの過程があるからこそ、感動するのではないのか……と。
川端:
一瞬は感動すると思いますよ。でも、どこか物足りないはずです。だからリアルさを追求する方向でデジタルを使うというのは、ちょっと違う。当社では「振り子」に喩えて、デジタルが進化して大きく振れると、その対極のリアルの世界の振れ幅も大きくなる、と言っています。
髙野:
そうですね。デジタルのなかで育った若い世代は、デジタルを使いたくて使っているというより、その効率の良さを知っていて、ムダな時間を過ごしたくないだけなのかもしれません。実際、その世代の方と話していると、ボランティア活動に熱心だったりして、けっしてデジタル一辺倒ではない。リアルのライブや旅行が完全には代替のきかないものであると気づく手前で止まっているだけで、何かキッカケがあれば、変わる可能性はありますよね。
川端:
情報過多になり、リアルの世界に行く必要性を感じなくなったというのはあるのかも。知ったつもりになれるから。
髙野:
それはあるでしょうね。
川端:
昔は知らないことがたくさんあったから、「観てみたい」という好奇心が煽られた。
髙野:
写真の世界を「確認しに行くためだけ」なら、体験価値としてはいくぶん弱くなってしまいます。行った先の環境のなかに溶け込む……みたいな体験がないと。
川端:
最近、参加型イベントがウケているのも、そのあたりと関連しているのかもしれませんね。音楽フェスがその典型で、仲間を募って行く時などにちょうどいいんですよ。「オレはこのアーティスト。わたしはあっち」みたいに一緒に参加しつつ、それぞれの嗜好が共存できる。
髙野:
(音楽フェスは)ちょっと遠くて、不便なところで、雨が降ったら最悪みたいな(笑)、そういう全てをひっくるめて体験なんですよね。で、そのリアルな世界をデジタルが覆い尽くして支えているところが、昔と変わった点でしょう。
川端:
リアルの世界で体験する時間を、デジタルを駆使していかに創出するかが、我々の業界におけるDXの本質だと思います。

――なるほど!

川端:
おじさん世代は、「昔はチケットをとるのが大変だった!」って語るんですよ。イベントに関する思い出って、そこに注いだ時間として前後にも広がっている。今はオンライン化されてチケットをとるのが簡単になった反面、感動それ自体も薄くなってしまったのかもしれない。そこで我々は、特別な空間で付加価値の高い体験を提供する「ホスピタリティ事業」に参入し、あえて時間をかけて体験することの価値をもう一度、見直してみませんかと再提案しているわけです。
髙野:
最近の旅は当たり前のように、モバイルで予約を確認したり、マップを見たり、ルートを検索したりするので、一瞬でもネットにつながらなくなると焦りますが、昔はバス停で時刻表を調べたりして、大した情報もないまま旅に出ていました。それでよくやっていたなあと思いますけど(笑)。要は、そういうアナログの世界が良かったということではなく、あの頃、もしデジタルツールがあれば、普通に活用していただろうなあと思うのです。
川端:
デジタルの時代だからこそ可能な、時間と体験を創出していきたいですね。

ぴあのホスピタリティプログラム
専用ラウンジでエンターテインメントや食事、トークショウを楽しんだり、試合終了後のピッチが見学できるなど、スペシャルなプログラムが用意されている。

――では最後の質問です。お二人にとって「デジタルシフト」とは何ですか?

川端:
肝心なのは、デジタルシフトすることで、新たな感動体験が生まれていますか? という点です。合理化とか効率化ではない、「感動体験の創出」こそ、私が考えるデジタルシフトなので、この言葉を選びました。
髙野:
旅行者はもちろん、旅行先で暮らす人々や他の業界も含めて、多くの人によって成り立っているのが旅行ビジネスなので、各サービスが自己完結するのではなく、さまざまなサービスがデジタル(データ)としてつながって体験価値が増幅していく――そのためのデジタルシフトという意味で「共創」という言葉にしました。

――素晴らしいお話をうかがうことができました。本日はありがとうございました。

デジタルシフトとは? HIS髙野さま 共創 ぴあ川端さま 感動体験の創出

対談を終えて

〈モデレーター〉
IIJ執行役員
井手 隆裕

両社は「お客さまの体験価値を最大化させる」というテーマを共有しており、イベントは短時間、旅行は長時間という体験時間の相違はあっても、DXで体験価値の満足度をいっそう高められるという共通点が多いこともよくわかりました。
待ちに待った行動制限の解除を経て、これからイベント、旅行といった両社の主力事業がさらに活発化するなか、デジタルコラボで、新たなビジネスに発展するチャンスもありそうです。例えば、旅行先で宿泊するホテルのフロントで、宿泊当日に体験できる各種イベントの紹介やチケット販売といった「共創」による「感動体験の創出」につながる事業も実現できそうです。今後の両社のDX戦略に注目しつつ、さらなる業績の拡大を待ち望みたいと思います。


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