ページの先頭です


ページ内移動用のリンクです

  1. ホーム
  2. IIJについて
  3. 情報発信
  4. 広報誌(IIJ.news)
  5. IIJ.news Vol.164 June 2021
  6. 三井不動産 古田 貴 氏、パソナグループ 河野 一 氏

デジタルシフトは止まらない 三井不動産 古田 貴 氏、パソナグループ 河野 一 氏

IIJ.news vol.164 June 2021

リーディングカンパニーの情報部門のキーパーソンにご登場いただき、各社のICTに対する取り組み・課題をうかがうとともに、今後も加速し続けるデジタルシフトへの対応についてお話しいただく新企画「デジタルシフトは止まらない」。
初回は、三井不動産株式会社の古田 貴氏と、株式会社パソナグループの河野 一氏に、両社のDX推進の話題を中心に対談していただきました。

三井不動産

三井不動産株式会社 執行役員 DX本部 副本部長

古田 貴 氏

1987年、三井不動産入社。新規事業部、ビルディング営業部、不動産ソリューション本部事業開発部を経て、2009年から情報システム部。現職は執行役員 DX 本部副本部長。

パソナグループ

株式会社パソナグループ 常務執行役員CIO・CCO IT グループDX統括本部長

河野 一 氏

2007年、株式会社パソナ入社。業務基幹システム構築をはじめとする主要プロジェクトの責任者、グループITシェアード会社の取締役を経て、16年9月より株式会社パソナグループ グループIT統括部長、18年9月より現職。株式会社パソナ専務執行役員CIOを兼務。

モデレーター

IIJ専務執行役員

北村 公一

守りのITから攻めのITへ

――最初に自己紹介を兼ねて、現在、注力されている分野・事業などをお話しいただけますか。

古田:
三井不動産DX本部の副本部長を務めています古田です。新卒で入社後、新規事業開発、法人営業・マーケティングを経て、現在のIT・DX部門は13年目になります。
DX本部は、情報システム部を進化させた組織で、セキュリティなどの「守りのIT」と、デジタルマーケティング、事業変革、新規事業といった「攻めのIT」の両方をやっています。また、技術人材を採用・育成して、事業本部が進める各プロジェクトに人材をアサインするのもDX本部の役割です。
河野:
パソナグループのグループDX統括本部長の河野です。グループ全体のIT・デジタル施策の責任者を務めております。
現在、注力している分野は4つありまして、「社内ITの強化」、「既存事業の競争力強化に資するデジタル化」、「淡路エリアのスマートアイランド化に向けた取り組み」、「現場社員のデジタル技術のリスキリング(Reskilling)」になります。

――両社とも、人々のライフステージや働き方など、社会や時代の変化に沿った事業を展開されていますが、ICTと自社の強みを掛け合わせて、どのような価値を生み出そうとされているのでしょうか?

河野:
働き方に対する考え方、求められていることが多様化しています。これまで働くということは、ある企業に就職して正社員として定年まで勤めるというのが常識でしたが、近年は、転職が当たり前になり、フリーランスや副業など、さまざまなスタイルが出てきました。そうしたなか、雇用のプラットホームづくりを行なうという当社のミッションにバリューをもたらすうえで、ICT活用が大きなテーマになっています。
ICTは当社の業務に欠かせない「インフラ」であり、「守り」だけでなく、多様な働き方を支えつつ、個々人の能力を最大化させる「攻め」のインフラにしていかなければならないと強く感じています。
古田:
ICTを活用することで可能になることがたくさんありますよね。多様なコミュニケーションのあり方、リモートワークなどの働き方、データサイエンスもそうでしょう。人間があきらめていたことがデジタルによって可能になる。そういう意味で、人のためにICTを活用していきたいと考えています。

三井不動産古田さまからパソナグループ河野さまへ
【質問1】まず「淡路島」についてうかがいたいです。淡路島と東京という「二拠点化」の狙いは何ですか?

古田:
今、話題になっている「淡路島」への本社機能の一部移転ですが、当社でもコロナ禍以前から、場所にとらわれない働き方を、自社の社員に対しても、お客さまに対するビジネスとしても、提案してきました。
その一環として、ABW(Activity BasedWorking)と言われる「時間と場所を自由に選択できる働き方」に力を入れていて、例えば、シェアオフィス事業などを全国展開しています。それによって結果的に、生産性があがり、個人の快適さも高まるという世界観を目指しています。
そうした考え方を推し進めたものとして、パソナさんの淡路島プロジェクトは「ワーケーション」(「ワーク:仕事」と「バケーション:休暇」を組み合わせた造語。仕事と休暇を両立させた働き方・生き方)に近いイメージなのかなと思うのですが、いかがでしょうか?
河野:
三井不動産さんと同じように、当社でもリモートワークやサテライトオフィスなど、時間と場所にとらわれない働き方を試行してきたのですが、なかなか定着には至らず、結局、大手町のオフィスに集まっていました。
そうしたなかコロナ禍が起きて、東京がロックダウンに近い状況になり、会社に来ることがむずかしくなった。そこで昨年9月、兵庫県の淡路に本社機能を分散移転する構想を発表し、現在、急ピッチで準備を進めています。
これまで淡路では、地方創生事業の一環として観光や農業を振興してきましたが、ビジネス拠点を設けるといった発想はあまりなかったと思います。
私も月の半分は淡路で働いていて、当初は移動に要する時間を考えるともったいないなと感じたりもしたのですが(笑)、実際に行ってみると海はキレイですし、仕事中にふと瀬戸内海に沈む夕陽を眺めていると、パソコンのなかではストレスがたまるようなことがあっても、素晴らしい風景のおかげで、一瞬、視座が高まったというのでしょうか、喫緊の課題にも新たな気分で取り組める――そんな実感を持ち始めています。
古田:
リフレッシュ効果がそれほど大きいのですか?
河野:
それは想像以上でした。
古田:
移転はどれくらい進んでいるのですか?
河野:
今は数百名が淡路で働いています。本社機能としては、1800人の社員のうち約120人です。そして向こう3年で東京と同等の機能が果たせるようにしていく予定です。

パソナグループのオフィス「ワーケーションハブ」(兵庫県淡路島)
大阪と神戸から近い淡路島北部エリアの瀬戸内海を一望できる新オフィス「ワーケーションハブ」。
グループ各社のオフィスが入居するほか、外部企業向けにワーケーションという新しい働き方を通じた人材育成や事業創造、
地域企業・人材との交流の場となるサービスも提供していく予定。

パソナグループ河野さまから三井不動産古田さまへ
【質問2】三井不動産のブランド力は、どのように確立・成長・維持されているのですか?

河野:
日本橋界隈をはじめ、三井不動産さんが開発されたオフィス、商業施設、住宅設備などは、その建物に入った瞬間、「これは三井不動産さんの物件だな」と明確に認識できる雰囲気を持っています。そうしたブランド力は、どのように確立・成長・維持されているのですか?
古田:
質問的には、すごくうれしいのですが、お答えするのは、むずかしいなあ、と。同僚にも聞いてみたのですが、みんな困っていて……(笑)。正直なところ、明確なガイドラインみたいなものは、まったくないのです。「人の三井」と言われるように、中央集権の要素が非常に少ない会社なので、けっこうバラバラなのです(笑)。
基本は、各プロジェクトの担当者が「個性・違いを出そう。今までのなかでいちばんいい物件にしよう」と考えて企画しています。それにもかかわらず、全ての物件に三井不動産らしさがあるとするなら、ものづくりや街づくりに関する「哲学」みたいなものがあるのかなと思います。例えば、今、「街は人とともに」というCMを流していますが――
河野:
拝見しています。いいCMですよね。
古田:
ありがとうございます! あれは、「人間が中心にある」というコンセプトにもとづいています。そのほかには、「経年劣化」のアンチテーゼとして「経年優化」という言葉が我々のなかに浸透していて、「古くなればなるほど良さが出てくる」ということですね。あとは、私の名刺にも入っている「BE THE CHANGE」というキャッチフレーズ、これはガンジーの言葉でして、「街から世界を変えていく」、「新しいことへの挑戦」といった意味で使っています。
こうした理念みたいなものがあって、それをもとに社員が一生懸命やった結果、三井不動産らしさが出ているのかなと思います。
河野:
中途採用の方など、さまざまなバックグラウンドを持った人材が会社に入ってくるなか、フィロソフィーや理念といったものを息づかせていく具体的な方法などはありますか?
古田:
実際、うちでも苦労していますよ。以前は全社員の顔と名前が一致するような会社だったので、「暗黙知」でやっていた部分もありました。ただ、近年は中途採用も増えてきて、いろいろな試みをやっている段階です。
例えば、「会長塾」と銘打って、会長自らが会社の歴史や文化を若い世代に語る機会を設けたり、私も参加しているのですが、執行役員と中堅社員が対話する「MEET 21」という意見交換の場を設けたりしています。

「ワークスタイリング」
全国100拠点以上に展開する三井不動産の法人向けシェアオフィス。
コロナ禍以前から毎日、同じ場所に出社するのではなく、その日の仕事にあわせてオフィスを選ぶ「新しい働き方」を提案している。

三井不動産古田さまからパソナグループ河野さまへ
【質問3】DXで事業を進める際、戦略立案、グループのDX統括本部と事業部門の役割、また、推進にあたっての課題などをお聞かせください。

古田:
パソナさんは、DXで事業を進めるにあたって、どのような戦略や課題を持っているのですか?
河野:
当社の事業は、人材派遣、人材紹介、アウトソーシング(業務委託)サービスが大きな柱になっていますが、これまでは人材派遣のウエイトが大きかった。それが最近の外部環境の変化もありまして、派遣とは別の選択肢を求めるお客さまが多くなっています。
例えば、従来の受付業務ですと、当社の人材を受付の席に派遣するかたちでしたが、最近では、受付という業務全体を当社が請け負わせていただくケースが増えています。これは、業務をジョブ単位で区切って、単位ごとにアウトソーシングしたいというご要望にもとづくもので、業務全体の管理やパフォーマンスを含めた「ソリューション」としてご提供しております。
同時に、派遣で働く人の意識も変わりつつあります。特にアウトソーシングで働く場合、専門性がないと自分のキャリアも積み上げていけません。さらには「AIの進化にともなって仕事がなくなる」といったことも言われていますが、新しい仕事のあり方も徐々に見えてきましたので、今後、必要とされるスキル形成をサポートしていくことが求められていると感じています。

パソナグループ河野さまから三井不動産古田さまへ
【質問4】DXを進めるにあたり、例えば、VISION2025の戦略内容などについて、全社的なコンセンサスを得るまでの過程や、苦労された点などを教えていただけますか?

河野:
DXを進めるにあたっては、人材や資金などが必要になります。それらに関する社内的なコンセンサスを得るには、ご苦労も多いのではないですか?
古田:
当社では、IT活用を重視してコストもかなり増やしています。私が情報システム部にきたのは12年前ですが、その時のメンバーは16名でした。それが今では96名、つまり6倍になっています。そういう意味では、お金も人も社内的な了解は得られている状態にあります。
これまでの流れを簡単に振り返りますと、情報システム部時代の2014年に「攻めのIT」への転換を宣言して、そこからいろいろな流れが変わり始めました。そして2017年に「ITイノベーション部」に改称して、同年の終わりに長期経営方針「VISION 2025」*1を打ち出しました。さらに2020年に「DX本部」を新設したのですが、これは事業部との連携をより緊密にしたいという狙いと、これからは「DX」の時代だという思いを込めて、この名称を会社に提案したところ、スムーズに承認を得ることができ、現在に至っています。
河野:
当社も5年前と比べると、人員も予算も2倍程度を要する規模になっています。
以前なら予算を獲得するためには、ROI(投資対効果)の具体化や妥当性が求められていましたが、近年はスピード感や機動性のほうが重視されるようになってきました。検討に時間を費やすより、まずはスモールスタートして、実物をもとにフィージビリティを見ていくといった空気が定着しつつあります。そうした背景には「現場の危機感」があって、DXを「コスト」と考えたり、リターンを期待する「投資」という見方はもはや皆無で、「やらなければ生き残れない」という状況に変わったのだと思います。
その一方で、我々IT部門がスピード感についていけず、足かせになってしまうといった問題も起こり得るので、そのあたりは現場の危機感を共有しながら進めていかなければならないと感じています。

三井不動産古田さまからパソナグループ河野さまへ
【質問5】各社がITやDXの人材獲得を強化していますが、他社に競り勝てるヒントを(こっそり……)教えてください!

古田:
競争に勝てる人材確保の秘訣を(私だけに……笑)教えていただけないでしょうか?
河野:
実は、人材ビジネスを営んでいる我々がいちばん採用に苦慮しています(笑)。
古田:
本当ですか! 優秀な人材を先に採ってしまっているのかと思っていました(笑)。
河野:
当社ならではの魅力など、明確なメッセージを出していかないと、昨今の売り手市場は、容易ではないですね。
古田:
そういう意味で「淡路島」はキャッチーでしょう?
河野:
おっしゃる通りです。「東京を出て、淡路で働きませんか?」といったセミナーを開くと、多くの人が集まります。また、関西圏で次のステップ・キャリアを探していた人も意外に多く、そういった方にも注目していただいています。
古田:
そして、入社してどれだけ面白い仕事ができるかが大事ですよね。当社でもそこの訴求に力を入れています。

DXで変わる未来

――世の中の流れ・変化が加速していますが、5年先、10年先のご自身の姿を想像した時、どんな仕事をされているとお考えですか?

古田:
これから起きる変化はすごく大きいと思います。当社が打ち出している「VISION 2025」や「DX VISION 2025」*2は、まさにそこを見据えているのですが、既存事業の変革はもちろん、不動産業がどうすればデジタルで新しい価値を提供できるのか――事業部とともにチャレンジを続けて、2025年までに花を咲かせたいです。
DX推進も2周目に入っていて、そろそろ成果を求められています。業務改革投資のようなものは可視化しやすいのですが、事業変革となると、そこへ向かう可能性やストーリーをきちんと示せるかどうかといったことが目下の課題です。
河野:
テクノロジーの進化に加え、今回のコロナ禍のような環境の変化にも対応できる働き方やキャリア形成のイニシアティブをとっていきたいというのがいちばんの思いです。そのために、現場のメンバーも含めて複数の引き出しを持ち合わせておく必要があり、社員のデジタルスキルを強化しています。
最近、強く感じるのは、社員ひとり一人が新しいテクノロジーについて自分の言葉で語れないと、お客さまにも適切なサジェスションができないので、そういった「素養」を身につけるのが非常に重要だということです。

――では、最後の質問です。お二人にとって「デジタルシフト」とは何ですか?

古田:
私は、デジタルシフトは「ワクワクだ」と言いたいです。まずは、自分たちが楽しみながらポジティブに取り組みたい。あと、これはデジタルシフトに限らず、あらゆることに共通しますが、全ての物事には「光と闇」がありますよね。その「光の面」を事業や働き方や社会のために活用していく、それがつまり「ワクワク」することだと思います。
河野:
私にとってのデジタルシフトは「人を活かす契機」です。「人を活かす」というのが当社のコーポレートミッションで、普遍的な理念でもあるのですが、デジタルシフトで世の中が変わっていっても、それをキャリアや人生に活かしていける契機につなげていきたいと考えています。

――素晴らしいお話をうかがうことができました。本日は、たいへんお忙しいなか、ありがとうございました。

対談を終えて

〈モデレーター〉IIJ専務執行役員 北村 公一

人生100年時代を迎えるにあたり、人間を中心とした新たな住空間のあり方や、時間と場所を自由に選択できる多様な働き方が追求される時代が到来しているかと思います。

この大きなパラダイムシフトの推進に向け、DX という攻めのI T 活用により、両社が積極果敢にチャレンジしておられる姿が印象的でした。

今回の対談は、日本橋室町三井タワーで行なわせていただきました。日経ニューオフィス賞を受賞された開放的で素晴らしい空間でした。次の機会があれば、ワーケーションを活用して、ぜひとも淡路島の青海波にお邪魔したいと願っています。

  1. *1三井不動産グループ長期経営方針「VISION 2025」
  2. *2長期経営方針 VISION 2025
  • ※ 本記事は、2021年4月に新型コロナウイルス感染症対策を行なったうえで取材した内容をもとに構成しています。また、記事内のデータ・組織名・役職などは取材時のものです。

ページの終わりです

ページの先頭へ戻る