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コラム|Column

(1)ASEANの上がり続けるGDPと消費意欲

ASEANの特徴はメガシティと大都市と地方都市の経済格差です。ジャカルタ2600万人(全人口比約11%)、マニラ2200万人(23%)、バンコク1500万人(23%)、クアラルンプール700万人(25%)と、大都市への人口集中が大きいことがメガシティといわれる所以です。この大都市に住む人々がその国の消費を支えているといっても過言ではありません。GDPも以前ほどの伸びではありませんが、毎年確実に上昇しています。
最近、タイのMRT(地下鉄)やBTS(新交通システム)に乗っていると、ほとんどの乗客がAppleのiPhone/iPad、SAMSUNGのギャラクシーに興じ、Facebook、Lineを活用しています。タイの所得は日本の1/3から1/4といわれますが、これらの商品は日本円で比較するとほぼ同額で販売されています。それでも飛ぶように売れているということはタイの中間層の購買意欲はとても高いといえます。
ASEANの今後の発展のキーとなるのが、AEC:ASEAN Economic Community(ASEAN経済共同体)と前回お話ししました。本号ではこのAECをふまえ、バンコクにおけるショッピングモール/スーパーマーケット等にどのような変化が見られるか、また親日といわれるタイにおける食生活、日本製品のブランド力に着目し、レポートを行います。

(2)AEC締結に伴うビジネス・チャンスとリスク

今後、ASEANではAECのアクションが実施されることで新たに起こり得るビジネス・チャンスとリスクと、様々な分野での技術と融合して起こり得るビジネス・チャンスとリスクの両面が発生すると考えられます。 日本企業は自国の景気低迷、高年齢化、チャイナ・リスク(チャイナ・プラス・ワン)等に伴い、最近、積極的にASEANにビシネス・チャンスを求めて進出を加速させています。これまでは自動車産業や食品業の大手を中心に製造拠点としてのASEAN進出が多かったのが、今後は他産業の進出はもちろん、マーケットとしてのASEANを見据えた進出加速が予想されます。 本格進出にあたっては、マーケティング活動が必須である事はいうまでもありませんが、そのマーケティング情報の一つとして、AECの動きを見据えていくことは重要です。また、この情報からいかに、自社のビジネス環境に影響があるか、そのために自社はどのような手を打つべきかの検討を継続して行う必要があります。

2-1)AECのアクションが実施されることで起こり得るビジネス・チャンスとリスク

AECのアクションが実施されることで起こり得るビジネス・チャンスとリスクを考えるにあたり、関連性が強いパラメータは各国間の賃金差とその国の主要産業です。インフラが整備されることにより、人の行き来が激しくなり、かつ職業資格の国家間相互承認がなされれば、低賃金国の人が高賃金国に流れ、雇用が生まれます。また、高賃金国の雇用を奪うということも考えられます。これは高賃金国にとってはリスクとなります。しかし、低賃金国の人に対する語学教育、住居・サービス等はもちろん、人口流入・増加によるビジネス・チャンスが生まれるはずです。
これらの検討にあたっては、これまでの先進国で起こってきた過去からのトレンド分析は大いに役立つはずです。図1は日本が1970年代の所得向上に伴い、どのような商品の購入が喚起されてきたかと中国の沿岸部・内陸部の所得の変化を比較したものです。あるGDPや所得を超えると、急に生活水準が向上し、消費が喚起されるともいわれています。

図1.日本、中国の消費トレンド動向

しかし、この消費トレンドに学ぶだけでは成り立たないケースがあります。これは破壊的イノベーションで創造されるような製品やシステムが該当します。例えば、新興国では固定電話網が整備される前に市場を席巻した携帯電話や、バンコク市内における日本とほぼ同等の立地件数率を誇るコンビニエンス・ストアです。また、リバース・イノベーションのような新興国向けに商品・サービス開発が新たな価値を創出し、先進国へ逆輸入されるようなケースも多数存在します。中国のHuawei社が積極的に開発している太陽電池、ディーゼル、風力等を活用し、電力が脆弱な場所においてもバックアップ電源が作動するハイブリッド型の携帯電話基地局は、現在、アフリカ向けから逆輸入して、先進国に設置が開始されています。このような事例は、これまでのトレンドから読みにくいケースです。また、所得が日本人の1/3から1/10といわれるASEANの各地域で、日本とほぼ同等の値段のiPhoneが爆発的にヒットしていること、世界中でほぼ同価格のスターバックス・コーヒーもASEANに進出を加速し、ASEANのおしゃれな若者の人気店となっています。このように所得のトレンドだけでは読めないことも多数存在することをふまえたマーケティング活動が必要なことはいうまでもありません(図2)。

図2.所得のトレンドだけでは読めないことがある

2-2)今後、様々な分野での技術と融合して起こり得るビジネス・チャンスとリスク

今後、様々な分野での技術と融合して起こり得るビジネス・チャンスとリスクを検討する際は、Phaal氏が提唱しているテクノロジー・ロードマッピング、AEC施策と様々な技術分野の技術開発動向とのマトリクスによる検討が有効と思われます。Phaal氏は将来の技術動向を見据え、今後、どのようなアクションを起こすかの検討プロセスをロードマッピングとしています。このロードマッピングを実施する際の重要なインプットに、AECの施策と他分野の技術動向を入れ、同時検討することが必要です。

(3)日本企業の進出加速とタイの外食事情

看板まで日本語のモスバーカー

店構えが日本そっくり、
メニューもほぼ日本と
変わらないCoCo壱番屋

吉野屋の鳥天ぷら丼

タイは親日国といわれます。道路はトヨタ車があふれ、バンコクの街中はセブンイレブン、ファミリーマートが乱立しています。最近はローソンも進出し、日本同様、スイーツやおにぎりを積極的に販売しています。セブンイレブンやファミリーマートのように日用品をベースとしているのではなく、日本の食生活をそのまま販売するスタイルがとても評判となっています。

サイアム・パラゴン、エンポリアム、ターミナル21といった大型ショッピングモールに入ると、日本の外食チェーンが並び、ここは日本ではないかと錯覚します。大戸屋、吉野屋、8番ラーメン、モスバーガー、CoCo壱番屋、ペッパーランチなど。それぞれの店にタイ人の若いカップルが並び、通常はフォークとスプーンを用いる慣習を持つタイの人々が、上手に箸を操り、おいしいそうにお皿をつついています。お店の看板、雰囲気は日本のお店そのものです。看板は日本語で書かれているので我々日本人にとってはなじみやすく、タイでも平然と風景の中に溶け込んでいます。店員は“いらっしゃいませ!”と大きな声で客引きをしています。店内に入っても日本風のサービスは続きます。席に着くと再び、“いらっしゃいませ、ご注文は?”。本当にここはタイなのかと錯覚します。メニューはタイ語、日本語、英語が併記されています。日系のお店では日本風のサービスをすることがブランドなのでしょうか。メニューは日本と全く同じ店もある反面、現地メニューが多い店もあります。吉野屋は日本で見たことのないメニューが多く、例えば、鳥天ぷら丼がそうです。日本ほど牛丼を主力製品として売り込んでいないような気がします。どの店も、飲料水は別料金、会計はテーブルの場合とレジの場合があります。テーブルのお店では多少のチップを払うというシステムは日本と異なるところです。

外食において、日本のお店はブランド力が高く、安心、安全というイメージで売り出し、かつ日本のサービスを導入することで、高級感を醸し出し、成功させている企業が多いです。大戸屋はタイ大手食品メーカーのBetagro社にのれんを貸し出し、年1、2回、サービス・レベルの監査チェックも含め、日本から確認しに来ているようです。

(4)日本語でアピールするローカルの外食店、小売店

ローカルのお店であっても日本語表記で訴求する店も多くあります。日本食はタイでの健康ブームに則り、とても人気が高くタイの若者と話をすると、日本食の店で食事をするのはおしゃれであるとのことです。FUJI Restaurantは、タイでも有名な和食チェーンであり、ペットボトルの日本茶も販売しています。レストランのメニューは日本語をローマ字表記してあります。最近はミャンマーにも進出しています。

FUJI Restaurantの入口

FUJI Restaurantの入口のメニュー

“角度まで掻こう“という
意味不明の看板があるお店

しかし、正しい日本語を使用している店もあれば意味不明の店もあります。日本人が見ると笑ってしまうものもあります。街中でも意味不明の日本語が書いてあるTシャツを見かけることもあります。先日屋台で見かけたTシャツには、“上大岡二中”、“片付ける”と書いてありました。日本語、漢字、ひらがな、カタカナが書いてあると、何となくおしゃれっぽいということなのでしょうか。
ローカル企業は、日本企業の良いイメージ、親日の国民ということをうまく利用し、日本語表記を効果的に活用してプロモーションに役立てているようです。

ドラえもんの影響だろうか。焼肉のびた

“かむ”という名のコーヒーショップ

(5)日本の食品と日本語表示が垣間見られるスーパーマーケット店内と商品

タイで流行の抹茶味の
コロンとキットカット

納豆、うどん、焼きそば、
ちくわ等のチルド食品が所狭しと
並ぶ風景は日本と同じ

様々な日本商品が棚に並ぶ

ポッカとOISHIのお茶。
どちらも砂糖が入っている。

外食産業同様、日本の食品メーカーも数多く進出し、現地向けの商品を提供しています。スーパーの棚を見ると、味の素、グリコ、ポッカ、紀文、明治、味覚糖、ブルボン、ネスレ(本来はスイスの企業であるが、日本ネスレ製と思われる製品も多々見られる)といった様々なメーカーの商品が所狭しと並んでいます。その中でも、日本向けの商品をそのまま輸入、提供している企業もあります。これは物流、調理も含め、冷凍・冷蔵技術や物流がタイでも確実に整ってきたためと思われます。 菓子類、ラーメン、生鮮食品(野菜、豆腐、練り物)等、様々な日本の商品がスーパーの棚に並んでいますが、値段はもちろんローカルメーカーの商品に比べ、高めです。日本での価格のほぼ倍であるため、現地の通貨水準からすると6倍程度の価値になると思われますが、これだけの商品が並んでいるのですから、それなりに売れているはずです。タイの中間層が購入していると思われます。
このように日本製品の持つ高品質、高級感というブランド力をベースに日本商品を高く売るという方法でビジネスを成功させているケースが見受けられます。
最近、タイ人が日本に渡航する際のビザが無くなり、日本で多数のタイ人観光客を見かけます。逆にタイでは、中国からの観光客が多数見られるようになってきたため、これまでの英語、日本語表記の看板だけでなく、中国語表記も増えてきました。ASEANの特徴は多民族、多言語、多宗教ですが、これはEUと比べると、特徴的です。 AECの影響か最近、タイではハラル対応の外食店も見られるようになってきました。AECが進むにつれ、イスラム圏向けの外食店が増え、マレーシア語、インドネシア語表記も増えるでしょうし、今後はミャンマー語、カンボジア語、ベトナム語の表記の店も確実に増加すると思われます。
現在は安心・安全イメージの高い日本商品が外国製品として店頭を賑わしていますが、ASEANの他国製品が店頭に並ぶ日もそう遠くないはずです。実際、ミャンマーのスーパーではタイの製品が数多く並んでいるのを見かけます。

日本メーカーの商品で現地対応している商品も見受けられます。タイを初めとするASEANはまだまだ浄水技術が遅れています。よって、通常の飲料水はペットボトル入りの水、ジュース、茶などです。タイで販売されているペットボトルのお茶はポッカやサントリー以外に前述したローカルのOISHI、ICHITAN、FUJI Restaurant等の商品をよく見かけます。砂糖入り緑茶、砂糖入り玄米茶、砂糖入りはちみつレモン味の茶等、様々な種類があり、ほとんどの商品が砂糖入りです。これは中国とよく似ています。中国でもほとんどのペットボトルのお茶は砂糖入りで、サントリーのウーロン茶も微糖と無糖の商品が売られています。タイにおけるポッカの緑茶もジャスミン風味の砂糖入りであったりします。一説にはタイの食文化で美味しい物の条件は、辛い、甘い、酸っぱいのどれかが必ず入っていることが重要なため、お茶も甘くしてあるとのことです。

ローカルのポテトチップスにも
日本語で商品名が書かれている。

また、ローカルのスナック菓子にも日本語が表記されているものをよく見かけます。これも日本風というイメージを消費者に植え付けるためのプロモーションと思われます。タイでよく売れているスナック菓子に味付けのりがあります。3×10cm程度の海苔に味をつけ、パッキングしたものです。有名なブランドには“タオケーノイ”というものがあります。パッケージには、“味付けのり”と書いてあり、塩味はもちろん、バーベキュー味、トムヤンクン味、天ぷら味、わさび味など、様々な種類があります。タイだけでなく、インドネシア、ラオス、ミャンマーでも非常に人気が高い商品です。今後、このようなタイ起点の商品がAECの流れに乗って、ASEANに拡大していくと思われます。

ミスター・ドーナツの
SUSHI Do Delight

最近タイのミスター・ドーナツではSUSHI DO Delightが人気です。寿司の形をしたドーナツで、飛ぶように売れています。タイの人は寿司が好きで特にサーモンの握りや刺身が好きです。よって、SUSHI DOもサーモンの握りを模したものを最も大きな写真でプロモーションしています。これもタイのミスター・ドーナツが企画した商品です。今後、タイはもちろん、進出した国独自の企画商品が拡大していくはずです。

(6)まとめ

本号では、タイのショッピングモールを中心とした日本関連のレストランや食品の現状と、AECがASEAN全体へ今後ビジネスの拡大を促すであろう事をふまえた今後の動向予測を紹介しました。

現在のタイでは日本の食品やレストランは、品質が良い、安全、健康志向、高級と非常に高いブランドイメージがあります。このイメージを大事に今後も日本の食品メーカー、外食産業ではますますのビジネスの発展を期待する一方、ローカル企業の技術力が確実に向上していることをふまえ、日本商品の展開以外に、ローカルの人々の嗜好を徹底的に調査し、趣味・嗜好に合う商品を現地に見合うコストで展開していく必要があることはいうまでもありません。

2015年のAEC:ASEAN経済共同体締結をふまえ、ASEAN市場域内の所得が拡大し、ますますの市場拡大、消費拡大が見込まれます。様々な文化、宗教、趣味・嗜好を持った多様性の民族を抱えるASEANの食品ビジネスでは、その多様性をうまくマネジメントし、ブランドをうまく活用した企業が生き残ると思われます。

※本文中の会社名、団体名、肩書きは連載当時のものです。

野元 伸一郎

元 株式会社 日本能率協会コンサルティング(JMAC)シニア・コンサルタント
グローバル開発革新センター センター長

現 みらい株式会社 統括ディレクター

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 博士後期課程修了。専門は開発設計マネジメント革新/イノベーション、技術ロードマップ、開発プロセス革新、プロジェクト・マネジメントでコンサルティング、研修等を推進。
2012年から2016年3月までASEANビジネスを拡大するためJMA HoldingsにてAEC(ASEAN経済共同体)発足以降を見据えたビジネス企画推進を行う。
現在はJMACでASEANの日系企業だけでなく、ローカルの企業・団体の研修やコンサルティング業務に携わるほか、様々な分野でのビジネス支援、研究、事業化に従事している。