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コラム|Column

短期的な問題解決型アプローチ

ジョコウィ政権の政策手法を見ていると、目の前の短期的な問題解決を優先する一方、中長期的な国家としての発展の方向性を示すといった面が極めて弱い印象を持ちます。このような短期的な問題解決型アプローチは、地方行政では常套的なやり方ですが、ジョコウィ大統領はそれを国家レベルに適用したのです。

短期的な問題でも中長期的な課題解決に不可欠なものはあります。たとえば、通貨ルピアの下落を抑えるために経常収支赤字を削減する必要があり、そのために輸入を減らして輸出を増大させる、といった考え方です。しかし、輸出の柱となるべき製造業で労働集約型から資本集約型への転換が進まず、農業においてさえも輸入農産品に国内市場が侵食され続ける状況では、抜本的な産業構造改善なしには中長期的な発展にはつなげられません。この産業構造改善を中長期的にどのように行っていくかという視点と戦略がジョコウィ政権には欠けています。

大統領の任期は5年間です。この5年の間に目に見える短期的な成果を上げないと、国民の信認を得られないため、短期的な問題解決型アプローチを取らざるをえないという側面もあります。実際、ジョコウィ大統領がソロ市長やジャカルタ首都特別州知事を務めた際には、この手法で住民から大きな支持を得ました。今回もそれを踏襲しているものと考えられます。

EC時代に国際競争力を高めるためには、中長期的かつ具体的な戦略が必要になりますが、政権成立から1年余しか経っていないこともあり、場当たり的な対応に終始している印象です。それを批判されると、ジョコウィ政権は、ユドヨノ前政権時代の準備不足を理由に挙げる傾向があります。たしかに、ユドヨノ時代には、市況のよかった一次産品輸出の増加によって国際収支が改善したため、かえって産業構造改善への取り組みが進みませんでした。さらに、ジョコウィ政権は、ユドヨノ前政権が策定した長期25年間のインフラ整備計画を踏襲しませんでした。

ASEAN全体の経済と人口の4割を占め、ASEAN本部事務局のあるインドネシアは、存在それ自体でASEANの主要アクターとなることはたしかなのですが、AECで積極的にリーダーシップを採るという動きを見せていません。国内産業や人材を守る時期はすでに終わりを迎えており、ジョコウィ政権には、産業構造改善のような身を切る政策を本格化しなければいけないという自覚を見せて欲しいものです。

微妙なバランスの上に乗るジョコウィ政権

そんなジョコウィ政権は、政権内グループ間の確執で、なかなか思うような政権運営ができないと言われており、こんな状態で5年もつのかという声も聞こえてきます。でも、汚職疑惑への対応などこれまでの様々な状況を見ると、政権内グループ間での確執は続くものの、それを徐々に鎮めながら微妙なバランスを作り上げ、その上に乗っているという構図が浮かび上がります。

大統領選挙でジョコウィ側に対抗した野党勢力では内紛が続き、一部は与党へ寝返るなど、着実に結束力が衰えてきました。与党内での利権争いでも、指導力に欠けるジョコウィ大統領を担いでおいたほうがむしろやりやすいという力学が働いている様子が伺えます。こうした状況が起きているのは、幸か不幸か、現時点ではジョコウィに対抗できる有力政治家がまだ見当たらないためです。

微妙なバランスの上に乗っているジョコウィ政権は、果たして独自の指導力をいずれ発揮できるようになるのでしょうか。スハルト元大統領のように、最初は未知数でも徐々にカリスマ性や指導力を強めていくといった場合もありえます。もしジョコウィ政権もそうなっていくならば、産業構造改善や人材育成への期待が持てるのですが、その兆しはまだ見えないのが現状です。

松井 和久 氏

松井グローカル 代表

1962年生まれ。一橋大学 社会学部卒業、インドネシア大学大学院修士課程修了(経済学)。1985年~2008年までアジア経済研究所(現ジェトロ・アジア経済研究所)にてインドネシア地域研究を担当。その前後、JICA長期専門家(地域開発政策アドバイザー)やJETRO専門家(インドネシア商工会議所アドバイザー)としてインドネシアで勤務。2012年7月からJACビジネスセンターのシニアアドバイザー、2013年9月から同シニアアソシエイト。2013年4月からは、スラバヤを拠点に、中小企業庁の中小企業海外展開現地支援プラットフォームコーディネーター(インドネシア)も務めた。2015年4月以降は日本に拠点を移し、インドネシアとの間を行き来しながら活動中。