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  6. 1. 定期観測レポート ブロードバンドトラフィックレポート~コロナ禍を経てトラフィックは安定増加傾向~

Internet Infrastructure Review(IIR)Vol.60
2023年9月26日発行
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目次

1. 定期観測レポート

ブロードバンドトラフィックレポート~コロナ禍を経てトラフィックは安定増加傾向~

1.1 概要

このレポートでは、毎年IIJが運用しているブロードバンド接続サービスのトラフィックを分析して、その結果を報告しています(注1)(注2)(注3)(注4)(注5)。今回も、利用者の1日のトラフィック量やポート別使用量などを基に、この1年間のトラフィック傾向の変化を報告します。コロナ禍を経て、トラフィックは安定した成長が続いていて、今のところその傾向に目立った変化は見られません。

図-1は、IIJの固定ブロードバンドサービス及びモバイルサービス全体について、月ごとの平均トラフィック量の推移を示したグラフです。トラフィックのIN/OUTはISPから見た方向を表し、INは利用者からのアップロード、OUTは利用者へのダウンロードとなります。トラフィック量の数値は開示できないため、新型コロナ感染拡大前の2020年1月の両サービスのOUTの値を1として正規化しています。

図-1 ブロードバンド及びモバイルの月間トラフィック量の推移

この1年のブロードバンドトラフィック量は、INは11%の増加、OUTは18%の増加となっています。1年前はそれぞれ13%と17%でした。

ブロードバンドに関しては、IPv6・IPoEのトラフィック量も含めて示しています。IIJのブロードバンドにおけるIPv6は、IPoE方式とPPPoE方式があります。2023年6月時点で、IPoEのブロードバンドトラフィック量の全体に占める割合は、INで42%、OUTで44%と、昨年同月よりそれぞれ3ポイント増えていて、全体の4割強がIPoEとなっています。コロナ禍で顕著になったPPPoEの輻輳を避けて、IPoEへ移行する利用者が増えていて、IPoEの利用拡大が続いています。

モバイルサービスは2021年以降増加傾向が続いています。モバイルはこの1年でINは27%、OUTは31%の増加となっています。

次に、この1年の平日の時間別ブロードバンドトラフィック量の推移を見ていきます。図-2に、昨年5月末の週から約4ヵ月おきに4つの週を選んで、各週の月曜から金曜の各時間の平均トラフィック量を示します。ここ数年学校が休みの時期は平日昼間のトラフィック量が増えるようになったので、学期途中の週を選んでいます。ここでのトラフィック量はPPPoEとIPoEの合計値です。下側の波線はそれぞれの週のアップロード量ですが、今回もダウンロード量に注目すると、どの時間帯においても着実にトラフィック量が増えてきていることが分かります。昼間の増分と夜のピーク時間の増分は量的には同じぐらいなので、増加割合では昼間の方が大きくなっています。

図-2 この1年の平日時間別ブロードバンドトラフィック量の推移

1.2 データについて

今回も前回までと同様に、ブロードバンドに関しては、個人及び法人向けのブロードバンド接続サービスについて、ファイバーとDSLによるブロードバンド顧客を収容するルータで、Sampled NetFlowにより収集した調査データを利用しています。モバイルに関しては、個人及び法人向けのモバイルサービスについて、使用量にはアクセスゲートウェイの課金用情報を、使用ポートにはサービス収容ルータでのSampled NetFlowデータを利用しています。

トラフィックは平日と休日で傾向が異なるため、1週間分のトラフィックを解析します。今回は、2023年5月29日~6月4日の1週間分のデータを解析して、前回解析した2022年5月30日~6月5日の1週間分と比較します。

ブロードバンドの集計は契約ごとに行い、一方モバイルでは複数電話番号の契約があるので電話番号ごとの集計となっています。ブロードバンド各利用者の使用量は、利用者に割り当てられたIPアドレスと、観測されたIPアドレスを照合して求めています。また、NetFlowではパケットをサンプリングして統計情報を取得しています。サンプリングレートは、ルータの性能や負荷を考慮して、1/8192程度に設定されています。観測された使用量に、サンプリングレートの逆数を掛けることで全体の使用量を推定しています。なお、IPoEトラフィックはインターネットマルチフィード社のtransixサービスを利用していて詳細なデータが取得できていないため、ポート別解析の対象にはなっていません。

1.3 利用者の1日の使用量

まずは、ブロードバンド及びモバイル利用者の1日の利用量をいくつかの切り口から見ていきます。ここでの1日の利用量は各利用者の1週間分のデータの1日平均です。

2019年のレポートから、利用者の1日の使用量は個人向けサービス利用者のデータのみを使っています。これは、利用形態が多様な法人向けサービスを含めると分布の歪みが大きくなってしまうため、全体の利用傾向を掴むには個人向けサービス分だけを対象にした方が、より一般性があり分かりやすいと判断したからです。なお、次節のポート別使用量の解析では区別が難しいため法人向けも含めたデータを使っています。また、2021年からブロードバンドにはIPoEの利用者のデータも加えています。前回のレポートでは、PPPoE分とIPoE分を分けて示しましたが、今回から両者を統合してブロードバンドとして示しています(注6)

図-3及び図-4は、ブロードバンドとモバイル利用者の1日の平均利用量の分布(確率密度関数)を示します。アップロード(IN)とダウンロード(OUT)に分け、利用者のトラフィック量をX軸に、その出現確率をY軸に示していて、2022年と2023年を比較しています。X軸はログスケールで、10KB(104)から100GB(1011)の範囲を示しています。一部の利用者はグラフの範囲外にありますが、おおむね100GB(1011)までの範囲に分布しています。

図-3 ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量分布
2022年と2023年の比較

図-4 モバイル利用者の1日のトラフィック量分布
2022年と2023年の比較

図中のINとOUTの各分布は、片対数グラフ上で正規分布となる対数正規分布に近い形をしています。これはリニアなグラフで見ると、左端近くにピークがあり右へなだらかに減少するいわゆるロングテールな分布です。OUTの分布はINの分布より右にずれていて、ダウンロード量がアップロード量より、ひと桁以上大きくなっています。

まず、図-3のブロードバンドの分布を見ます。2022年と2023年を比較すると、INとOUT共に分布全体がわずかながら右側に移動していて、全体的に利用量が増えていることが分かります。図-4のモバイルの場合も、分布の山が昨年に比べ少し右に移動していて、全体の利用量が増えていることが分かります。モバイルの利用量は、ブロードバンドに比べて大幅に少なく、また、使用量に制限があるため、分布右側のヘビーユーザの割合が少なくなっています。極端なヘビーユーザも存在しません。外出時のみの利用や、使用量の制限のため、各利用者の日ごとの利用量のばらつきはブロードバンドより大きくなります。

表-1は、ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量の平均値と中間値、分布の山の頂点にある最頻出値の推移を示します。分布の山に対して頂点が少しずれている場合は、最頻出値は分布の山の中央に来るように補正しています。分布の最頻出値を2022年と2023年で比較すると、INでは178MBから224MBに、OUTでは3981MBから5012MBに増えています。伸び率で見ると、INで1.26倍、OUTも1.26倍となっています。一方、平均値はグラフ右側のヘビーユーザの使用量に左右されるため、2023年には、INの平均は804MB、OUTの平均は5456MBと、最頻出値より大きな値になります。2022年には、それぞれ727MBと4610MBでした。なお、前述のように2020年分まではPPPoE利用者のみの数字で、2021年以降はPPPoE利用者とIPoE利用者を統合した数字になっています。

表-1 ブロードバンド個人利用者の1日のトラフィック量の平均値と最頻出値の推移

表-2はモバイルの値の推移で、2023年の最頻出値はINで11MB、OUTで100MB、平均値はINで14MB、OUTで129MBです。2022年の最頻出値はINで10MB、OUTで89MB、平均値はINで13MB、OUTで114MBでした。

表-2 モバイル個人利用者の1日のトラフィック量の平均値と最頻出値

図-5及び図-6では、利用者5,000人をランダムに抽出し、利用者ごとのIN/OUT使用量をプロットしています。X軸はOUT(ダウンロード量)、Y軸はIN(アップロード量)で、共にログスケールです。利用者のIN/OUTが同量であれば対角線上にプロットされます。

図-5 ブロードバンド利用者ごとのIN/OUT使用量

図-6 モバイル利用者ごとのIN/OUT使用量

対角線の下側に対角線に沿って広がるクラスタは、ダウンロード量がひと桁多い一般的なユーザです。各利用者の使用量やIN/OUT比率にも大きなばらつきがあり、多様な利用形態が存在することがうかがえます。モバイルでも、OUTがひと桁多い傾向は同じですが、ブロードバンドに比べて利用量は大幅に少なくなっています。ブロードバンド、モバイル共に、2022年との違いはほとんど分かりません。

利用者間のトラフィック使用量の偏りを見ると、使用量には大きな偏りがあり、結果として全体は一部利用者のトラフィックで占められています。例えば、ブロードバンド上位10%の利用者がOUTの49%、INの76%を占めています。更に、上位1%の利用者がOUTの16%、INの49%を占めています。モバイルでは上位10%の利用者がOUTの49%、INの47%を占めていて、上位1%の利用者がOUTの15%、INの15%を占めています。

1.4 ポート別使用量

次に、トラフィックの内訳をポート別の使用量から見ていきます。最近では、ポート番号からアプリケーションを特定することは困難です。P2P系アプリケーションには、双方が動的ポートを使うものが多く、また、多くのクライアント・サーバ型アプリケーションがファイアウォールを回避するため、HTTPが使う80番ポートなどを利用します。大まかに分けると、双方が1024番以上の動的ポートを使っていればP2P系のアプリケーションの可能性が高く、片方が1024番未満のいわゆるウェルノウンポートを使っていれば、クライアント・サーバ型のアプリケーションの可能性が高いと言えます。そこで、TCPとUDPで、ソースとデスティネーションのポート番号の小さい方を取り、ポート番号別の使用量を見てみます。

表-3はブロードバンド利用者のポート使用割合について過去5年間の推移を示します。2023年の全体トラフィックの71%はTCPで、昨年から1ポイント減りました。HTTPSのTCP443番ポートの割合は、57%で前回から1ポイント増加しました。HTTPのTCP80番ポートの割合は9%から7%に減っています。QUICプロトコルで使われるUDP443番ポートは、18%で2ポイント増えました。

表-3 ブロードバンド利用者のポート別使用量

TCPの動的ポートは、わずかに減少して6%を切りました。動的ポートでの個別のポート番号の割合はわずかで、最大の31000番でも1.1%となっています。

表-4はモバイル利用者のポート使用割合です。全体的にはブロードバンドの数字に近い値となっています。これは、スマートフォンでもPCと同様のアプリケーションを使うようになってきたことに加え、ブロードバンドにおけるスマートフォンの利用割合が増えているからだと考えられます。

表-4 モバイル利用者のポート別使用量

ブロードバンドのポート別データは、PPPoEだけでIPoEを含まないので、固定ブロードバンド全体の傾向を表しているとは限りません。モバイルでのIPv4とIPv6の違いを見ると、IPv6ではTCPもUDPも443番ポートの割合がより大きくなっていて、IPoEでも同様の傾向があると考えられます。

図-7は、ブロードバンド全体トラフィックにおける主要ポート利用の週間推移を、2022年と2023年で比較したものです。TCPポートの80番・443番・1024番以上の動的ポート、UDPポート443番の4つに分けてそれぞれの推移を示しています。グラフでは、ピーク時の総トラフィック量を1として正規化して表しています。全体のピークは19時~23時頃です。2022年と比較して、全体では大きな変化はありませんが、UDPポート443番が少し増えていて、また、図-2のところでも触れたように昼間のトラフィック割合が少し増えています。

図-7 ブロードバンド利用者のポート利用の週間推移
2022年(上)と2023年(下)

図-8のモバイルでは、トラフィックの大半を占めるTCP80番ポートと443番ポート、UDP443番ポートについて推移を示します。2022年と比べると、ブロードバンドと同様にUDPポート443番が少し増えています。また、昼休みのピークが相対的に少し低くなりその分横に広がっていることが確認できます。ブロードバンドに比べると、平日には、朝の通勤時間、昼休み、夕方と3つのピークがあるなど利用時間の違いがあります。

図-8 モバイル利用者のポート利用の週間推移
2022年(上)と2023年(下)

1.5 まとめ

コロナ禍を経てようやく普通の生活が戻ってきましたが、この間にインターネットの利用が生活の中に浸透して、生活インフラとして欠かせないものになりました。ビデオ会議やリモートワークが定着し、子供達も普通に家で動画視聴するようになりました。また、昨年のサッカーワールドカップや今年3月の野球のWBCで日本代表チームが活躍し、ネット中継によるスポーツ視聴も裾野が広がりました。数年前に比べると、SNSにおける動画割合も格段に増えています。一方で、ここ数年の利用者あたりの利用量を見ると、ブロードバンドもモバイルも、新型コロナ感染が始まった2020年は大きく増えましたが、その後は比較的安定した増加にとどまっています。全体のトラフィック量についても堅調な増加傾向が続いています。その要因として、2021年以降は在宅率が下がってきて利用時間が減っていること、これといった新しいサービスや使い方が出てきていないこと、ビデオ圧縮効率向上などの技術進化もあってビデオコンテンツの流通量ほどにはトラフィック量が増加していないことが挙げられます。

  1. (注1)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート:コロナ禍3年目のトラフィックは小康状態. Internet Infrastructure Review. vol.56. pp4-11. September 2022.
  2. (注2)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート:2年目に入ったコロナ禍の影響. Internet Infrastructure Review. vol.52. pp4-11. September 2021.
  3. (注3)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート:新型コロナウイルス感染拡大の影響. Internet Infrastructure Review. vol.48. pp4-9. September 2020.
  4. (注4)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート:トラフィック量は緩やかな伸びが継続. Internet Infrastructure Review. vol.44. pp4-9. September 2019.
  5. (注5)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート:ダウンロードの増加率は2年連続で減少. Internet Infrastructure Review. vol.40. pp4-9. September 2018.
  6. (注6)利用者がPPPoEとIPoEの両方を使っている場合はそれぞれ別の利用者として扱われています。

長 健二朗

執筆者プロフィール

長 健二朗 (ちょう けんじろう)

IIJ 技術研究所所長。

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