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  6. 1. 定期観測レポート IIJインフラから 見たインターネットの傾向~2021年

Internet Infrastructure Review(IIR)Vol.53
2021年12月24日発行
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目次

1. 定期観測レポート

IIJインフラから見たインターネットの傾向~2021年

インターネットサービスを提供するIIJは、国内でも有数規模のネットワーク・サーバインフラを運用しています。ここでは、その運用によって得られた情報から、この1年間のインターネットの動向について報告します。今回は、BGP経路、DNSクエリ解析、IPv6、モバイルの各視点から変化の傾向を分析しました。またIIJバックボーンにおけるBGP ROV導入後の状況についても解説します。

Theme 01 BGP・経路数

最初に、IIJ網から他組織に広報している「IPv4フルルート」の情報(表-1)及び「IPv4フルルート」に含まれるunique IPv4アドレス数の情報(表-3)を確認します。ちなみに「2021年初め」と予測されていたAPNICのIPv4アドレス在庫完全枯渇はこの1年の間には発生しませんでした。

経路の年間増加数は10年ぶりに+4万を下回りました。/21から/24までの経路の増加数も昨年を下回っており、85万超となった経路総数もそろそろピークを迎えるのかも知れません。なお/8経路数とuniqueアドレス数の大幅増加が目を引きますが、/8経路の増加分はすべてAS8003が広報元でした。AS8003(後にAS749に変更)の広報経路は特殊な目的によるものとの情報があるため、仮にそれら(計765経路)の影響を除去すると/8経路数は減少(-2)、uniqueアドレス数は増加ではあるもののごくわずか(約28.6億)という結果になっています。

表-1 「IPv4フルルート」に含まれるプレフィクス長ごとの経路数の推移

表-2 「IPv6フルルート」に含まれるプレフィクス長ごとの経路数の推移

次に「IPv6フルルート」の情報(表-2)及び「IPv6フルルート」に含まれるunique IPv6 /64ブロック数の情報(表-3)を確認します。

経路総数は昨年の予想を大きく超えて約1.5倍の13万超となりました。IPv4と合わせるとほぼ100万経路に達したことでネットワーク機器の対応に苦労された方もいらっしゃるかも知れません。一方でunique /64ブロック数の増加は5%弱しかありませんでした。経路総数の58.6%、増加数の79.1%がuniqueブロック数の加算に寄与しない、プレフィクス長のより短い経路情報が他に存在する経路であったことが、主な理由と考えられます。エンドサイトへのIPv6導入が更に進んでいると推測できる結果ではあるのですが、集約されない経路広報が今後の経路数増加の主流になるとなれば少々残念でもあります。

表-3 「IPv4フルルート」に含まれる unique IPv4アドレス総数及び「IPv6フルルート」に含まれる unique IPv6 /64ブロック総数の推移

最後に「IPv4/IPv6フルルート」広報元AS(Origin AS)数を確認します(表-4)。なおこの1年の間にAPNICに6144、ARINに2048の32-bit only AS番号が追加割り振りされています。

表-4 「IPv4/IPv6フルルート」の広報元AS数の推移

16-bit AS番号Origin ASの減少及び32-bit only AS番号Origin ASの増加は共に昨年の2倍程度となりました。Origin AS総数の46.7%は32-bit only ASであり、来年には50%を超えると予測されます。またIPv6経路を広報するAS("IPv6-enabled")も大きく増加し全体の34.5%を占めるに至りました。中でもIPv6経路のみを広報する32-bit only ASの増加が顕著であり、その9割はAPNIC地域のASでした。このようなASの増加がIPv6導入が進む中での一時的な現象であるのか、または昨今のIPv4アドレス価格高騰などによって生じた必然的な流れであり継続していくのか、来年も注目したいと思います。

Theme 02 DNSクエリ解析

IIJでは利用者がDNSの名前解決を利用できるようフルリゾルバを提供しています。ここでは、名前解決の情況を解説し、IIJで2021年10月6日に行ったフルリゾルバの1日分の観測データから、主にコンシューマサービス向けに提供しているサーバのデータに基づいて分析と考察を行います。

フルリゾルバは利用者からの問い合わせに応じて名前解決機能を提供します。具体的には、名前を解決するためrootと呼ばれる最上位のゾーン情報を提供する権威ネームサーバのIPアドレスを手がかりとして、問い合わせを行い、適宜権威ネームサーバをたどって必要なレコードを探します。フルリゾルバで毎回反復問い合わせを行っていると負荷や遅延の影響が問題となるため、得られた情報はしばらくキャッシュしておいて再び同じ問い合わせを受けた場合にはそのキャッシュから応答しています。最近はこの他にも家庭用ルータやファイアウォールなど、通信経路上の機器にもDNS関連の機能が実装されており、DNS問い合わせの中継や制御ポリシーの適用に関わっている場合があります。また、Webブラウザなど一部アプリケーションでは独自の名前解決機能を実装している場合があり、OSの設定に依存しない名前解決を行っている場合もあります。

ISPは接続種別に応じてPPPやDHCP、RA、PCOなどの通知手段を利用してフルリゾルバのIPアドレスを利用者に伝え、利用者端末が名前解決用のフルリゾルバを自動設定できるようにしています。ISPは複数のフルリゾルバを利用者に伝えられる他、利用者は自身でOSやWebブラウザなどの設定を変更して利用するフルリゾルバを指定、追加することもできます。端末に複数のフルリゾルバが設定されている場合、どれを利用するかは端末の実装やアプリケーションに依存するため、フルリゾルバ側では利用者が総量としてどの程度の問い合わせを行っているか分かりません。このため、フルリゾルバでは問い合わせ動向を注視しながら、常に処理能力に余裕を持たせた運用を心がける必要があります。

IIJが提供するフルリゾルバの観測データを見てみると、利用者の利用傾向を示すように時間帯によって問い合わせ量が変動し、朝4時20分ごろに問い合わせ元のIPアドレス当たり最小の0.12query/sec、夜21時ごろにピークを迎えて0.30query/sec程度になり、昨年と比べてどちらも+0.06ポイントの伸びを見せています。昨年の傾向と比べると、利用が増える日中帯はそれほど傾向に違いが見られない時間帯もありますが、深夜帯で1.8倍前後の問い合わせ数の伸びとなっており、傾向の変化が見て取れます。ほぼ全時間帯で伸びを示しているため、端末の制御や生死確認、定期的な作業など、何らか自動的な機構による問い合わせが数値を押し上げていることが考えられます。

問い合わせ傾向を通信に使われたIPv4とIPv6のIPプロトコル別に見てみると、昨年と比較してIPv4でのIPアドレス当たりの問い合わせが増えています。これは前述した自動的な機構による問い合わせが数値を押し上げている可能性や、実装の変化などが要因として考えられます。また問い合わせ元IP数の傾向で見ると、日中帯はIPv6による問い合わせ元IP数がIPv4より多く、深夜帯はIPv4の問い合わせ元IP数がIPv6による問い合わせを上回っています。朝は6時50分ごろにほぼ同数となり、夜は22時10分ごろにほぼ同数となっています。問い合わせ数全体での傾向もIPv4による問い合わせ数増加の影響を受けており、昨年までと異なり、IPv4を通信に使った問い合わせが全体の約59%、IPv6が約41%となっています。

近年の特徴的な傾向として、朝方の毎正時などキリの良い時刻に一時的に問い合わせが増加しています。問い合わせ元数も同時に増えていますし、特に朝7時には顕著に傾向が見られるため、利用者の端末でタスクをスケジュールしたり、目覚まし機能などで端末が起動したりすることに伴う機械的なアクセスが原因ではないかと推測しています。昨年は毎正時の20秒前と14秒前、10秒前に問い合わせが増加していましたが、今年は20秒前の問い合わせ増加があまり見えなくなり、一昨年と同様に毎正時の14秒前と10秒前の問い合わせが増加しています。毎正時に増加する問い合わせ量では急な増加後、緩やかに問い合わせ量が減っていくのに比べて、毎正時前の増加では急な増加の直後にそれまでの問い合わせ量程度に戻っています。つまり多くの端末が綺麗に同期して問い合わせを行っていることから、何かすぐに完了する軽量なタスクが実行されているのではないかと推測しています。例えば接続確認や時刻同期など基本的なタスクを本格的なスリープ解除前に終わらせるような機構があり、これに利用されている問い合わせが影響していると予想しています。

問い合わせレコードタイプに注目すると、ホスト名に対応するIPv4アドレスを問い合わせるAレコードとIPv6アドレスを問い合わせるAAAAレコードが全体の約8割を占めています。AとAAAAの問い合わせ傾向は通信に利用されるIPプロトコルで違いが見られ、IPv6での問い合わせではより多くのAAAAレコード問い合わせが見られます。IPv4での問い合わせでは、全体の64%程度がAレコード問い合わせ、21%程度がAAAAレコード問い合わせです(図-1)。一方IPv6での問い合わせでは、全体の44%程度がAレコード問い合わせ、36%程度がAAAAレコード問い合わせとAAAAレコード問い合わせの比率が高まっています(図-2)。昨年と比べるとIPv4で-15ポイント、 IPv6で-7ポイント程度Aレコードの問い合わせが減少しています。昨年から観測され始めたHTTPSタイプのDNS問い合わせがIPv4で11%、IPv6で18%程度を占めており、昨年と比べるとIPv4で+9ポイント、IPv6では+12ポイントと大きな伸びを示しています。HTTPSレコードの問い合わせ傾向はAAAAレコードと相関があるように見え、すべての時間帯でHTTPレコードの問い合わせはAAAAレコードの問い合わせの約半数となる傾向が見えています。

図-1 クライアントからのIPv4による問い合わせ

図-2 クライアントからのIPv6による問い合わせ

Theme 03 IPv6

今回もIIJバックボーンのIPv6トラフィック量、送信元AS、主なプロトコルについて見ていきます。

トラフィック

IIJのコアPOP(東京3ヵ所、大阪2ヵ所、名古屋2ヵ所)のバックボーンルータで計測したトラフィックを図-3に示します。なお、今回はシステムの都合上、1年分のデータではなく、2021年初頭から9月30日までの9ヵ月間のデータとなっています。

図-3 IIJコアPOPのバックボーンルータで計測したトラフィック

2021年のトラフィック量は、昨年あまり増加しなかった反動からか、IPv6もIPv4も右肩上がりで伸び、特に後半に大きく増加しています。図-4の正規化グラフ(仕事始めの1月4日を1として正規化)を見ると分かるとおり、IPv6が年初比で1.7倍以上、IPv4で1.2倍以上となりました。また8月中旬から9月上旬にかけて山があり、IPv6が一時的ではありますが年初比で2.2倍近く、IPv4でも1.5倍のトラフィックが計測された時期もありました。

図-4 1月4日のトラフィックを1としたときの変動状況

全体に占めるIPv6比率を図-5に示します。IPv6トラフィックは年々増加を続けていますが、まだIPv4と比べると絶対的な量としては大分少ない状況です。ただ、この報告が始まった2017年は地を這うようなトラフィックグラフだったことを考えると、4年で随分と伸びてきているとも思います。今回このレポートは5回目になりますので、1回目からのIPv6/IPv4比率を表-5にまとめてみます。

図-5 トラフィック全体に占めるIPv6の比率

2020年はCOVID-19による影響と思われる伸びの鈍化がありましたが、今回の計測結果を見ると、年々順調にIPv6の利用が増加していることは確かです。

表-5 IPv6比率の推移

送信元組織(BGP AS)

次に、2021年1月1日から2021年9月30日までのIPv6とIPv4の平均トラフィック送信元組織(BGP AS番号)の上位を図-6と図-7に示します。

図-6 IPv6の平均トラフィック送信元組織(BGP AS番号)

図-7 IPv4の平均トラフィック送信元組織(BGP AS番号)

IPv6の送信元最上位は変わらずA社となっています。占有率は3ポイント下がり、11%となりました。今回は2位以下の組織が大きく変わっており、2位は日本の大手コンテンツ業者のB社で8%、3位が米国大手CDN事業者であるC社で4%、4位米国大手デジタル機器メーカのD社で3%となっています。

今回2位となったB社については、7月中旬ごろから急激にトラフィック量が伸び、2ヵ月ほどで2位に上がってくるほど利用が激増しました。かなり大規模にIPv6の利用推進を実行したことが想像されます。いよいよ日本の大手コンテンツ事業者でもIPv6推進の具体的な動きが見えるようになり、今後の他社動向も注目してみたいと思います。

利用プロトコル

IPv6トラフィックのProtocol番号(Next-Header)と送信元ポート番号で解析したグラフを図-8に、IPv4トラフィックのProtocol番号と送信元ポート番号のグラフを図-9に示します。期間は2021年10月4日(月)から10月10日(日)までの1週間です。

図-8 IPv6トラフィックの送信元ポート解析

図-9 IPv4トラフィックの送信元ポート解析

IPv6、IPv4共に昨年とほぼ同じ利用プロトコル構成となっており、あまり大きな変化はありませんが、引き続きTCP 80が減少傾向で、HTTPからHTTPSまたはQUICへの移行が進んでいると思われます。QUICは2021年5月に正式にRFC9000となりましたので、今後更に利用が伸びていくことでしょう。

トラフィックの絶対量は示せませんが、IPv6は昨年と比べ倍ほどに伸びていると共に、夕方から夜にかけての伸びが大きくなっています。先ほど送信元組織の中でも触れましたが、大手コンテンツ事業者やCDNのIPv6対応が進んでいることから、個人的な利用(ゲームやエンターテイメント)が伸びていると考えられます。

まとめ

昨年の停滞の反動で、今年はIPv6/IPv4共に大きくトラフィックが伸びることとなりました。IPv6は比率としても順調に伸びてきており、来年には2割を超えることも十分考えられる状況になりました。日本の大手コンテンツ事業者も本格的にIPv6利用を開始したようですし、CDN事業者が配信するトラフィックでもIPv6対応となっているものが増えているようです。

日本のISP事業者としては、第2第3の日本の大手コンテンツ事業者のIPv6対応を期待しながら、業界の動向を注視したいと思います。

Theme 04 モバイル業界状況とトラフィック傾向

昨年、菅政権下で行われた「携帯電話料金の値下げ」の政策により、ここ1年間のモバイル通信業界は様々な形でサービス体制の見直しを迫られることとなりました。IIJでも2021年4月1日より「IIJmioモバイルサービス ギガプラン(以下、ギガプラン)」をリリースしました。サービス提供者としては、どれだけ顧客を獲得していくかを課題として様々な施策を講じますが、ここでは設備の観点からどのような点に対して対応を進めたのかをまとめます。

設備観点では、安定的な品質を保ちつつ、コストに関してもできる限り抑えることを目標に進めました。品質を考える上では、「ユーザ数の増減はどうなるのか」「その予測に対していつまでに対応を進めておかなければならないか」が重要になります。通常ではトラフィック傾向(日次でどの時間帯にピークがくる、など)も考慮する必要はありますが、今回はIIJmioのお客様であることに変わりはないのでトラフィック傾向は考慮に入れません。

ユーザ数の予測に関してはサービスの企画を担当している部門から提供されます。平常時は、ユーザ数の予測に応じてMNOとの相接における帯域を検討し、増減速の対応を行っていますが、ギガプランリリース時においては、より精緻な予測値にするためにギガプランの申込数を注視し増速値を決めるという対応を行いました。その結果、ギガプランリリース時においても、品質面で大きな問題はありませんでした。

ギガプランリリース後、設備面では、今後拡充されていくサービスに対応し、ボトルネックとならない環境の構築が課題となります。実際に進めたのが、MNOとの相接の設備にあるPGW(Packet data network GateWay)における収容の見直しです。PGWはMNOに設置されているSGWと相接しており、弊社内でも複数のPGWが冗長化されて運用しています。PGWに関してはギガプランの企画が出る前から増強が計画されており設備の準備を進めていましたが、ギガプランのリリースの影響で急ぎIIJmioの対応を進めることになりました。

図-10 携帯電話からMVNOのネットワークへの接続シーケンス

2021年6月ごろ(図-11での中央付近)にIIJmioを収容するPGWを増設しています。その結果トラフィック量が1.4倍程度増加しました。これは単にPGWの増設だけが原因ではなく、次の要因があったと考えています。

  • 収容するPGWを増設しIIJmioの処理をさばける許容量が増加した
  • ギガプランのリリースによりユーザ数も増加した
  • ギガプランの容量プラン設定により1ユーザ当たりのトラフィック量が増加した

図-11 IIJmio インターネット向けトラフィック量の推移(2021年1月~ 10月)

ただ、ここまでトラフィック量の増加が顕著に出るというのは驚きではありました。また、2021年10月ごろ(グラフ右端付近)においても新たにIIJmioを収容するPGWを増設しました。増設した規模は6月に実施したものと同等ではありましたが、トラフィック量は直前に比べ1.3倍程度増加した状況になりました。こちらに関しては、ギガプランリリース直後のユーザ数増加の影響ではなくPGWの収容効率が上がったことが要因と考えています。

モバイル設備はどれだけコストをかけずに安定的な品質のサービスを提供するかが重要になっています。今後も必要に応じて様々な手法を考えながらモバイルサービスの品質を向上させていきたいと思います。

Theme 05 IIJバックボーン

昨年は、IIJにてRPKIを利用したROVの導入前の状況について紹介しました。その後昨年12月に予定通りIIJの対外接続ポイントでのROV導入が完了し、もうすぐ1年が経過しようとしています。

IIJのROAキャッシュサーバで観測しているもので2020-10と2021-10現在を比べて、登録されているunique prefix数はIPv4で1.5倍、IPv6で1.75倍程度となり、また登録unique Origin AS数もIPv4で1.49倍、IPv6で1.4倍程度増加しており、着実に増加しています。IIJのBGP経路で観測できるOrigin ASを母数としてROAで登録されているunique AS数の割合を昨年と比べると、IPv4では11%程度、IPv6で1.8%程度上昇しているように見えます。一方でJPNIC管理のASリスト(https://www.nic.ad.jp/ja/ip/as-numbers.txt)に目を向けると、IIJのBGP経路で見えるJPNIC管理のAS数のうちROAとして登録されているAS数の割合は昨年よりも増加しているもののまだ15.5%程度となります。IIJで導入しているROVは世界的にも順次導入が進んでいるため、インターネットアドレスなどのリソースを保持している事業者はROAを登録するだけでも効果はありますので、今後国内の登録がより活発化していくことを期待したいと思います。

今年は東京オリンピックが開催されましたので、大会期間中のIIJのトラフィックの状況について触れたいと思います。新型コロナウイルスの影響により2020年から延期された今回の東京オリンピックですが、開会式も含めてほとんどの競技が無観客という異例の大会になりました。こうした一大イベントはイベントに直接関わらない通信事業者にとっても非常に気を遣うものとなります。様々なインシデントに向けた準備はもちろんですが、昨今リッチなコンテンツが簡単に利用できる環境が揃ってきているため、普段とは異なるトラフィックの動きや突発的なトラフィック変動に気を配る必要が出てきます。我々のインフラ設備もどれだけ用意しておけばよいかという答えが出ているわけではありませんので、普段のトラフィック傾向から推測してキャパシティを準備することになります。今回の大会はそれに加えて無観客試合の決定やパブリックビューイングの中止が、開催日を目前に控えて次々と発表されていきました。そうなると家庭などのテレビで視聴する人やインターネットを利用して中継を見る人などの増加が予想され、IIJでも大会の直前までもともと用意していた一部の設備のキャパシティの増強を実施したり、IIJ以外のISP事業者との連携を実施したりと、準備を進めていきました。

今回は7月11日から8月14日までの5週間の東阪のトラフィック及びIIJにおける国内の対外接続とのトラフィックデータを元に各週のトラフィックグラフを重ねて載せてみました(図-12、図-13)。オリンピック期間中の7月21日から8月8日までは実線、それ以外の期間は点線で示してあります。

図-12 東阪トラフィック

図-13 国内相互接続トラフィック

グラフにあるとおり、オリンピック期間中に大幅にトラフィックが増加または減少する変化は見られませんでした。すべて同じ傾向というわけではありませんが、昼間のトラフィックは普段と大きく変わらず、トラフィックの多い18:00から23:00までの時間帯においては普段より数%程度少ないという傾向となりました。7月23日の開会式20時台の東阪のトラフィックにおいては前週の同じ曜日の同時間と比べて17%程度低下していたようでした。この時間帯においては普段のインターネットの利用が減り開会式をテレビで視聴する人が少し多かったのかもしれません。

先に書いたROVの導入も含め、オリンピックというイベントに向けて様々な準備をしてきたわけですが、終わってみればトラフィックも普段と大きく変わらず、大会期間中大きなインシデントや障害などもなく落ち着いた期間であったように思えます。このようなイベント時に限らず、いつでも安心して利用できるインフラを目指し拡大していきたいと思います。

執筆者プロフィール

1.BGP・経路数

倉橋 智彦(くらはし ともひこ)

IIJ 基盤エンジニアリング本部 運用技術部 技術開発課

2.DNSクエリ解析

松崎 吉伸(まつざき よしのぶ)

IIJ 基盤エンジニアリング本部 運用技術部 技術開発課

3.IPv6

佐々木 泰介(ささき たいすけ)

IIJ 基盤エンジニアリング本部 ネットワーク技術部 副部長

4.1年のモバイル業界状況とトラフィック傾向

齋藤 毅(さいとう つよし)

IIJ 基盤エンジニアリング本部 ネットワーク技術部 モバイル技術課長

5.IIJバックボーンにおけるBGP ROV導入

津辻 文亮(つつじ ふみあき)

IIJ 基盤エンジニアリング本部 ネットワーク技術部 ネットワーク企画課長

1. 定期観測レポート IIJインフラから見たインターネットの傾向~2021年

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