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  6. 3. フォーカス・リサーチ(2) 新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響

Internet Infrastructure Review(IIR)Vol.47
2020年6月25日発行
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目次

3. フォーカス・リサーチ(2)

新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響

3.1 はじめに

新型コロナウイルスCOVID-19の影響で、今年の3月から全国の学校が臨時休校になり、それに伴って在宅でリモートワークをする人が急増しました。多くの人のインターネット利用パターンが変わったために個別のサービスや回線が逼迫している所があり、その観測や不満がSNSで拡散されています。一方で、マクロな状況についてはあまり情報がありません。そうした状況を踏まえ、ここでは、主に家庭で利用されるブロードバンドサービスの代表として、IIJのフレッツ対応サービスのトラフィックへの影響について報告します。

新型コロナウイルスは2月中旬から国内での感染拡大が始まりました。この時点ではリモートワークはまだ実験的でしたが、2月下旬になると電通や資生堂などの企業が大規模なリモートワークを開始します。3月2日に全国の学校が臨時休校を開始し、この週から多くの企業がリモートワークを実施、外出を控える人が増えて街から急に人が減りました。フレッツのトラフィックは明らかに3月2日から傾向が変わりました。その後、3月25日の東京都の外出自粛要請、4月7日の7都府県への緊急事態宣言発令、更に4月16日の緊急事態宣言の全国への拡大などを経て、社会の状況は大きく変わりました。それに伴い、家で過ごす人は増えたはずですが、フレッツのトラフィック量にはそこまでの大きな変化は見られませんでした。

3.2 データについて

トラフィック量のデータは、IIJが提供する個人及び法人向けのブロードバンド接続サービスの光回線とADSLを収容するルータのインタフェースカウンタの値を集計したものです。送信元の事業者調査については、Sampled NetFlowで収集した調査データを利用しています。こちらのデータについては、昨年のブロードバンドトラフィックレポート(注1)で詳しく解説しています。

3.3 トラフィック状況

IIJのフレッツサービスには、従来からのPPPoEの他にIPv6 IPoEがあります。IIJのIPv6 IPoEサービスはインターネットマルチフィード社のtransixサービスを利用していて、そのトラフィックは直接IIJの網を通りません。量的には現状でPPPoE の20%程です。ここ数年、PPPoEは終端装置での輻輳が問題となっていて、最近ではIPoEの利用を勧めるISPが増えています。

3.3.1 フレッツトラフィック(PPPoE)

図-1と図-2にIIJのフレッツトラフィック総量の推移を1週間ごとに重ねて示します。これはIPv6 IPoEを含まないPPPoEのトラフィックになります。図-1がダウンロード、図-2がアップロードです。

図-1 フレッツトラフィック推移
ダウンロード:2/17-3/15(上) 3/16-4/12(中) 4/13-5/10(下)

図-2 フレッツトラフィック推移
アップロード:2/17-3/15(上) 3/16-4/12(中) 4/13-5/10(下)

グラフは2月17日の週からの12週間分を4週間ごとに3つのグラフに分けて推移を示します。2番目以降のグラフでは比較のためにその前週も加えた5週間分を示しています。この間の休日は、2月24日( 月)、3月20日( 金)、4月29日( 水)、5月4日(月)、5月5日(火)、5月6日(水)で、トラフィックパターンも他の平日とは異なっています。

通常、ダウンロード量は、夕方からピークを迎え、夜中を過ぎると急速に減って早朝に最も少なくなります。休日には昼間のトラフィックが多くなります。アップロードはダウンロードより1桁近く少なく、また、はっきりしたピークもありません。

まず、図-1のダウンロードに着目します。上図、3月2日前後の赤色と橙色の2週間と水色と青色の2週間を比較すると、3月2 日以降はダウンロード側で平日昼間のトラフィックが増えていることが分かります。量的にはまだ通常の休日より少ない程度です。ピーク値も僅かながら増えています。中図ではあまり変化が見られませんが、下図の4月に入って平日昼間が再度増えてきています。ただし、ピークはほとんど変わっていません。後述するように、下図の月曜昼間の増加は天気の影響もあると思われます。なお、3月11日(水)早朝から午前のトラフィック増は人気ゲーム“Call of Duty:Warzone”の配信の影響だと思われます。この日にはマイクロソフトの月例アップデートもあったのでその影響も含まれているはずです。

次に図-2のアップロードを見ると、3月中旬までの上図では平日昼間に僅かに増えていますが、この増加分は夕方には収まっており、ビデオ会議などのリモートワーク関連と推測されます。4月以降の中図と下図では、平日昼間が段々増えて来ており、徐々にリモートワークの体制が整ってきたためと考えられます。昼休みの時間に落ち込むのはビデオ会議が行われないからと推測できます。また、アップロードは3月中旬までは平日昼間だけが増加していましたが、それ以降は夕方や休日にも増えています。これは、利用者がビデオ会議ツールを使い慣れるにつれ、飲み会などのプライベートな集まりにも利用するようになってきたためではないかと推測できます。しかし、アップロード量のピーク値はダウンロード量のピーク値の1/7程度で、ダウンロードに比べてそれほど量的に大きく増加しているわけではありません。

平日昼間のトラフィック増加が特定のサービスに起因しているかを調べるために、トラフィック量以外にSampled NetFlowのデータを調べました。2月26日(水)と3月4日(水) の東京都分のデータを比較すると、ダウンロード量は全体で1.19倍に増えており、送信元事業者(AS)別に比較すると、CDN事業者からの割合が多少増えている程度で、主なコンテンツ事業者の構成比は殆ど同じでした。具体的には、Google が1.16倍、Amazonが1.16倍、Appleが1.14倍、Netflixが1.17 倍、Facebookが1.10倍、Microsoftが1.23倍となっています。つまり、人気コンテンツはほぼ同様に伸びていて、特定のサービスが突出して増えたのではなく、全体が増えています。

その後の変化を見るために、2月26日(水)と4月22日(水)を比較すると、ダウンロード量は全体で1.20倍と3月4日からわずかに増えている程度ですが、主なコンテンツ事業者の構成比には少し変化が見られます。具体的には、Googleは1.16倍と変化なしですが、Amazonが1.63倍、Appleが1.00倍、Netflix が1.36倍、Facebookが1.32倍、Microsoftが2.40倍となっています。映画などの長編動画コンテンツと、ビジネス用途のコンテンツが伸びていることがうかがえます。

3.3.2 IPv6 IPoEトラフィック

PPPoEのピークトラフィックが増えていないのはフレッツ網が輻輳しているからとも考えられるので、容量に余裕があるはずのIPv6 IPoEの様子も見ておきます。図-3と図-4にIPv6 IPoEのトラフィック量の推移を示します。ダウンロードを見ると確かにピークも伸びていて、上図では数パーセント、中図ではほとんど増えずに、下図でまた数パーセント増えています。そして、ピークに対する平日昼間の量はPPPoEに比べて少ない状況です。また、アップロードに関しても平日昼間の増加はPPPoEより少なくなっています。

図-3 IPv6 IPoEトラフィック推移
ダウンロード:2/17-3/15(上) 3/16-4/12(中) 4/13-5/10(下)

図-4 IPv6 IPoEトラフィック推移
アップロード:2/17-3/15(上) 3/16-4/12(中) 4/13-5/10(下)

3.4 考察

今回観測できているのはIIJのサービスだけで、ここから他社の動向は分かりません。一方で、4月中旬には、NTT東日本(注2)、NTT西日本(注3)、NTTコミュニケーションズ(注4)からもフレッツのトラフィック量について発表がありました。NTT各社の公表したグラフと同様に、IIJのPPPoEのデータをもとに平日のトラフィック量の変化を示すと図-5のようになります。ここでは、2 月25日の週と4月20日の週の平日の平均トラフィック量をダウンロード(DL)とアップロード(UL)で示しています。この図はNTT各社の観測とほぼ一致していますので、フレッツを使ったブロードバンドサービスでは大体同じような傾向だと思われます。また、非フレッツで帯域に余裕があるところではIPoE の傾向に近いのではないかと推測しています。

図-5 平日の時間別平均トラフィック量:2月と4月の比較

マクロにみると、3月2日を境に明らかに平日昼間のトラフィックが増えています。平日の1日のトラフィック量でみるとアップロードで6%、ダウンロードで15%程増えています。1日のダウンロードで15%増というのは、平日と休日の違いぐらいとも言えますが、通常半年から1年ぐらいかかる増加が1 日で起こったと捉えることもできます。ただし、ピーク値はあまり増えていないので、ISP視点では前者の感覚です。PPPoE のピーク値が伸びていないのは、フレッツ網のPPPoE終端装置における容量不足が考えられます。また、フレッツ網の光分岐あるいは集合住宅の宅内機器や配線で輻輳している可能性もあります。しかし、これらの問題は装置単位で発生するので、余裕のあるところではピークが増えているはずですが、観測した範囲ではそのような違いは確認できていません。

IPoEではピークトラフィックも増えていますが、IPoEはサービス事業者のIPv6サポート状況に依存したトラフィックとなるので、コンテンツ比がPPPoEとは異なり、直接比較することはできません。また、PPPoEの契約数が頭打ちなのに対して、PPPoEでの輻輳を避けるためにIPoEへ移行が進んでいることもあり、IPoEは契約数も伸びています。総合して考えると、IPoEのダウンロードではピークが伸びていることから、PPPoEでは容量不足が起きていることがうかがえるものの、PPPoEのピークの潜在的な増加分はIPoEの増加分より小さいのではないかと考えられます。

3月と4月でも少し変化が見られます。3月は、平日昼間に在宅している人が増えてインターネット利用全体が増えたと言えそうです。それに対して4月になると、利用者の環境整備が進み、また、ツールにも慣れてきたため、映画視聴やリモートワーク系と思われるトラフィックが増えてきたようです。リモートワーク特有の影響として、平日昼間のアップロードの増加分は主にビデオ会議によるものと推測できます。しかし、3月後半までは量的にも大きくなく、これは自宅でビデオ会議をしている人はまだ限られていたからだと推測します。リモートワークを効率良く行うには、自宅のネットワーク環境やPCなどの機材の整備に加えて、経験の蓄積も必要です。企業側でもVPNのライセンスや帯域が足りないなどの問題が起きていたようです。当初はビデオ会議をやろうとしても環境が整わなかった人も多かったと思われます。それが4月以降、徐々に改善されてきたのだと推測できます。事業者別の伸びを見ても、3月には主なコンテンツ事業者からのトラフィックが一様に増えていますが、4月には映画コンテンツを提供する事業者やリモートワーク関連サービスの事業者が伸びています。

また、季節柄か天気が良いとトラフィックが減り、天気が悪いと増える傾向も見えます。3月20日(金)から22日(日)の三連休は全国的に天気に恵まれ、人々の気持ちが緩んで外出が増えたとされていますが、それを裏付けるようにトラフィックも少なくなっています。4月18日(土)は東日本や東北で大荒れの天気となり、この日はトラフィックが増加しています。4月13 日と4月20日は関東で2週続けて雨の月曜だったためかトラフィックも多めとなっています。

実は、ブロードバンドトラフィックは新型コロナウイルス感染拡大以前から増加速度が加速傾向でした。その背景には、Windows7のサポート終了や消費増税前の駆け込み需要で古いPCのリプレースが進み家庭の動画再生環境が良くなっていたこと、企業の働き方改革とオリンピック対策でリモートワークの導入が進んでいたこと、更に、オリンピックや放送のネット送信や5Gモバイルサービスなどへの期待から動画視聴への関心が高まってきていることが挙げられます。

ただし、トラフィック量の観測では、動画が量的に他のコンテンツより圧倒的に大きいため、ダウンロードではビデオ視聴の、またアップロードではビデオ会議の割合が支配的になってしまい、動画以外の利用傾向はなかなか見えてきません。トラフィック量だけでインターネットの利用動向を説明するには限界があります。

3.5 まとめ

新型コロナウイルスの感染拡大によって、急速なリモートワークへのシフトが起こりました。それによって、個別の回線やサービスで問題が顕在化している一方で、マクロレベルでは平日昼間のトラフィックが増えたものの現状ではなんとか既存の容量に収まっている状況です。

この3月からはリモートワークやリモート教育が大規模に行われるようになりました。これまではリモートワークは一部の人が実施する実験だったのが、今や誰もが一斉にできるかが試されています。インターネットを使ったビデオ会議、リモート授業、動画視聴などについても、現状一部の人が利用している分には十分な品質が出ますが、多くの人が一斉に使えるだけの環境を整えるにはこの先何年もかかります。今回、いざというときには社会全体がオンライン頼みになることも明らかになりました。これがインターネットインフラ整備の重要性を再認識する大きなきっかけになることを期待しています。

  1. (注1)長健二朗 .ブロードバンドトラフィックレポート :トラフィック量は緩やかな伸びが継続 . Internet Infrastructure Review. vol.44. pp4-9. September 2019.
  2. (注2)NTT東日本、「新型コロナウイルス(COVID-19)に対するNTT東日本の取り組み」ネットワークの運営について(https://www.ntt-east.co.jp/aboutus/COVID-19.html#traffic)。
  3. (注3)NTT西日本、「NTT西日本 全エリアダウンロードトラフィック」(https://www.ntt.co.jp/topics/important/pdf/important_west.pdf)。
  4. (注4)NTTコミュニケーションズ、「インターネットトラフィック(通信量)推移データ」(https://www.ntt.com/about-us/covid-19/traffic/)。

長 健二朗

執筆者プロフィール

長 健二朗(ちょう けんじろう)

IIJイノベーションインスティテュート技術研究所所長。

3. フォーカス・リサーチ(2) 新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響

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