業務用の玉子焼きやかに風味かまぼこ、ごぼう茶などの製造販売を手掛けるあじかん。広島市の本社とデータセンターに加え、全国に51の事務所、工場、営業所の拠点を持つ。そのネットワークに1つの課題が生じた。WAN回線として多くの拠点で利用していたNTTの「Bフレッツ ベーシックタイプ」のサービス終了である。
後継サービスであるフレッツ 光ネクストの中でコスト的に見合うものは、家庭向けのファミリータイプだけだった。情報システム課の石井孝徳氏は「ファミリータイプに回線を切り替えたところ、時間帯によって回線の速度低下や遅延が発生して、業務に影響が及びました」と話す。
原因は、通信プロトコルに従来型のIPv4を使うネットワークを経由するため、一般利用者の通信の増減の影響を受けてしまうこと。IPv4後継のIPv6を使えば他の通信の影響を受けにくいが、システム全体のIPv6対応が必要で実現は難しかった。
さらに、情報システム課課長の岸本利則氏は「バックアップの回線がない拠点も多く、事業継続計画(BCP)の面で課題がありました。また、今後のクラウド対応に親和性が高いネットワークの構築をコストダウンと両立させていくことも課題でした」と語る。
2018年夏、これまでもネットワークやセキュリティ対策の構築で関係があったIIJとの打ち合わせがあった。「そこでネットワークの課題を話題にしたところ、クラウド型ネットワークサービスのIIJ Omnibusで解決できるのでは? と話がありました」と情報システム課の樋岡幹司氏は振り返る。ここから話は急速に進む。
Omnibusを使うと、既存の足回り回線を使いながらWAN内の通信をIPv6化できる。これならば機器やシステムはそのままで空いているIPv6インターネットを利用でき、回線品質の向上が期待できる。また、全国各地に拠点があるあじかんでは、コストと性能の双方の観点から地域系通信事業者を含めたさまざまな回線を使っている。Omnibusでは多様な回線を収容できる上、IIJのモバイル回線も含めたバックアップ回線を低コストで用意できることも分かった。
さらに、OmnibusにするとWANが高速化・低遅延化されることで、約30拠点に配置されていたNAS(ネットワークアタッチトストレージ)をクラウド化できる。NASは拠点に実機を設置していたが、更新やメンテナンスには手間とコストがかかる。岸本氏は「拠点のNASをクラウドのストレージに置き換えれば、コストと手間の大きな削減につながります」と語る。
Omnibusは、IIJ GIO以外にも、AWS(Amazon Web Service)やMicrosoft Azureなど多様なクラウドサービスに閉域接続が可能で、今後のクラウドサービスの利用拡大にも十分な準備になることも決め手の1つだった。
あじかんのネットワークのOmnibus化は、まず広島市の本社とデータセンターの2カ所をOmnibusに接続。その後、2019年10月から51拠点の移行に取り掛かった。
拠点にはOmnibusのWANユニット対応ルータ(サービスアダプタ)のSA-W2を配置した。拠点の通信の重要度によって、回線とSA-W2をいずれも二重化する形態と、1台のSA-W2にメイン回線とバックアップのモバイル回線の2つの回線を収容する形態の2つを使い分けている。
SA-W2は回線に接続するだけで設定が完了するが、バックアップへの切り替え試験や現地でのトラブル対応を考えて、全国に拠点を持つUSEN-NEXT GROUPの株式会社 USEN ICT Solutionsの現場力を活用。同社がIIJのサポートの下、設置から開通までを担当した。
それでも、営業中の拠点のネットワーク更新には苦労が多かったという。情報システム課で拠点の工事スケジュール調整に当たった波夛順子氏は次のように話す。「12月の繁忙期を控え、10月から11月に入れ替えを終えるスケジュールを立てました。最多で1日6拠点の工事を並行して進める作業になりましたが、IIJ様による密なフォローにより、11月には調整しきれなかった数拠点の作業が残るだけというスピード移行が実現できました」
Omnibusへの移行後の回線品質は安定しており、回線の負荷が格段に減ったことも社内調査から明らかになった。2020年の正月明けに静岡の拠点でメイン回線が不通になったが、バックアップのモバイル回線に切り替わって事なきを得た。樋岡氏は、「バックアップ回線の重要性をすぐに実証することになりました」と語る。
約30拠点のNASのクラウド上のファイルサーバへの移行は、2020年度にかけて順次進めている。「NASの廃止だけでも年間180万円のコスト削減が見込めることから、トータルで大幅なコスト削減が実現できます」(岸本氏)。さらに、想定していなかったメリットが拠点のWi-Fi対応だった。石井氏は「SA-W2のアクセスポイント機能を使うことで集中管理できる拠点Wi-Fiが簡単に実現できます。拠点をまたいでも同じSSIDで接続でき、利便性も高いです」と評価する。
クラウド型ネットワークとしてのクラウドとの閉域接続では、Microsoft 365との連携構想を持っているほか、マネージドファイアウォールやWebゲートウェイ、メールゲートウェイなどIIJのサービスを利用したインターネットゲートウェイのクラウド化も検討を始めている。IIJのOmnibusは、「期待を超えて100%以上の評価です」(石井氏)というように、あじかんの新しいネットワーク基盤になっている。
※ 本記事は2020年1月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。