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“Will You Dance?”――AIと踊るということ

IIJ.news vol.196|October 2026

生成AIは単なるツールではなく、思考の柔軟性を鍛えてくれるダンスパートナーではないか?今回は、懐かしの名曲に想いを馳せながら、AIとの付き合い方を考える。

AIとダンスを踊る

生成AIと対話をしていると、ときどき不思議なことが起こります。

こちらが何かを問いかけ、AIが答える。その答えを読んでいるうちに、最初に考えていたこととは少し違うことを思いつく。それをまた投げ返すと、AIも別の角度から応答してくる。こんなやりとりを続けていると、いつの間にか出発点とはずいぶん違うところまで来てしまうのです。話が深まってうまくまとまることもありますが、発散してしまうことも多い。うまくまとめるためには、こちらの問いの出し方が大事なのでしょう。そう思うと、ふと、AIを使いこなすためにはコーチングスキルのようなものが要求されるのではないか、と思いました。

筆者は以前、「コアクティブ・コーチング」というコーチングメソッドを学んだことがあります。そして、コーチングを上手に進めるためのコツを表す言葉として、“Dance in the Moment”という考え方を学びました。これは、あらかじめ決めた筋書きに沿って相手を導くのではなく、その瞬間瞬間に相手とのあいだに起きたことを受け取り、それに応答しながら一緒に進んでいく、ということを表す言葉です。そうすることにより、コーチングを受ける側も、コーチする側も、思いもよらなかった気づきを得られることがあるというのです。

こちらが1歩動く。相手がそれに反応する。その動きを感じて、こちらもまた動く。この繰り返しです。まさに「ダンスを踊るような気持ち」で臨む。実は、生成AIの活用法もこれに似ているのかな、と感じました。

自分自身が少し変わる

先日も、こんな対話をしていました。

生成AIは、単に便利な道具であるだけでなく、人間の知能を拡張するものだとも思える。でも、使うばかりでは、人間の知能は退化してしまわないか? そんなやりとりをしているうちに、ふと“Will You Dance?”というジャニス・イアンの歌を思い出しました。八千草薫主演の『岸辺のアルバム』というTVドラマの主題歌で、川が氾濫して家が押し流されているタイトル映像のバックに、とてもゆったりとしたリズムのこの歌が流れていました。中学くらいの時にそれを観ていて、映像と音楽のイメージの食い違いに少し当惑し、また、とても不思議な感覚を持ちました。ただ正直いうと、歌詞の意味をちゃんと調べたことはありませんでした。

あらためて歌詞を眺めてみると(生成AIに解説してもらったのですが……笑)、やはり不思議な歌でした。街では人が泣き、社会には不安や混乱があり、華やかさと暴力、恋愛と死の気配が1つの情景として置かれています。そんな、けっして穏やかとはいえない世相のなか、静かに繰り返される問いが“Will You Dance?”なのです。世界には不条理があふれ、何が起きるかも分からない。誰が正しいかもわからない。それでも、世界に身を置き、誰かと関係を結び、動いていくしかないじゃない! そんな少し醒めた呼びかけにも聞こえます。

生成AIとの対話も、実はこれに近いのではないか、と思いました。全てを理解してから始めるわけではない。どこへ行くのか、最初から決めているわけでもない。こちらが1歩動くと、相手も動く。その動きを受けて、また少し違う方向へ動く。AIとの対話は、このような「ダンス」と捉えるのが良いのではないか? そんなふうに感じました。

生成AIの使い方というと、プロンプトの書き方がよく話題になります。できるだけ的確な指示を出し、1度で望ましい答えを得る。その技術が大切なのは間違いありません。しかし、筆者が面白いと感じているのは、その先です。AIの回答を読んで、「いや、そこは少し違う」と返す。 「それより、こちらのほうが面白い」と方向を変える。「そういえば、昔こんなことを考えた」と思い出す。するとAIもまた、それを受けて新たなコンテクストで答えを返してきます。そうしているうちに、最初には思ってもいなかった考えが、対話のなかから立ち上がってくるのです。

ここで大切なのは、自分の代わりに、AIに考えてもらっているわけではない、ということです。むしろAIとの対話によって、自分自身の考えのほうが動いているのではないか。AIが答えをくれたというより、AIの言葉が小さな刺激になって、こちらの記憶や経験や知識のあいだに、それまでなかった結びつきが生まれ、新しい気づきにつながる。

そう考えると、生成AIをうまく使うというのは、単にAIに仕事を代行してもらうだけではなさそうです。AIとの関係のなかで、自分自身が少し変わること。すると、問いが変わる、見方が変わる、忘れていたことを思い出す、意識していなかった自分の前提や思い込みに気づく……そのような使い方ができれば、AIは単なる便利な回答生成装置ではなく、思考のパートナーになってくれます。

踊り方のコツは――

ただし、踊り方にはコツがあります。

相手を完全にコントロールしようとしたら、ダンスになりません。反対に、全て相手任せにしても踊れません。AIとの関係も同じで、AIの言うことをそのまま受け入れるのではなく、自分の考えを持って応答する。しかし、自分の考えだけを正しいものとしてAIにただ確認させるのではなく、少し揺さぶられる余地を残しておく。筆者は、この「揺さぶられること」こそ、生成AIを使ううえで、とても大切なのではないかと思い始めています。ジャニス・イアンの“Will You Dance?”は、世界は不条理だらけだが、だからこそ一緒に踊りませんか? と、それを引き受けて、前に進もうとしているようにも聞こえます。

AIとの関係も、少し似ていると思います。全てをAIに説明してもらうのではなく、わからなさを残したまま、一緒に動いてみると、AIの答えに違和感を持ったり、思いがけない言葉に揺さぶられる。また、忘れていた記憶が戻ってきたり、別々だった考えがつながる。そうやって踊っているうちに、最初には見えていなかったものが少しずつ見えてくるのではないでしょうか。

しかし、最後に答えを出すのはAIではありません。どれだけ優れたAIであっても、自分の代わりに世界を生きることはできません。何を大切にするのか、どちらへ進むのか、目の前の出来事をどう受け止めるのか……これらには、最終的に自分を通じて答えを出すしかありません。だから、AIと良い対話をするためには、まず自分自身の意思で「踊る」ことが大事なのだと思います。

AIに連れていってもらうだけではない。こちらも動き、迷い、驚き、時には相手の手を引きながら、自分のステップを踏む。生成AIは、答えを預ける相手ではなく、自分の答えにたどり着くまで一緒に踊る相手なのかもしれません。

AIに対して“Will You Dance?”と問いかける。それは「誰かのありきたりの答えではなく、自分自身の答えに出会うまで、一緒に踊ってくれませんか」ということなのかもしれません。

執筆者プロフィール
IIJ 非常勤顧問 株式会社パロンゴ監査役、その他ICT関連企業のアドバイザー等を兼務
浅羽 登志也
平日は主に企業経営支援、研修講師、執筆活動など。土日は米と野菜作り。
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