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1万人超が集まるスタジアムで発生する電波の輻輳をどうさばくか? プロサッカークラブ水戸ホーリーホックのホームゲームにおいて、衛星ブロードバンドを活用して、会場運営の安定化に加え、来場者のUX向上に資する通信環境を実現した。ここではその舞台裏を紹介する。
2025年シーズンの終盤、ケーズデンキスタジアム水戸は、それまでとは異なる雰囲気に包まれていました。クラブ史上初のJ1昇格が現実味を帯び、収容1万人を超えるスタンドには熱気が溢れていました。ゴールの瞬間を撮って、すぐSNSに投稿したい! その通信が、同じ時間帯にいっせいに発生します。
普段は人の少ない場所に、一時的に1万人が集まれば、携帯キャリアの電波は輻輳します。観客のスマートフォンがつながりにくくなるだけではありません。入場ゲートの電子チケット読み取り端末や、売店のキャッシュレス決済端末が同じ電波を使っていれば、反応が鈍くなり、お客さまの行列は延びていきます。
ブロードバンド回線を引き込めば解決する。通常ならそう考えるでしょうし、現にそれが正解の会場もあります。一方、今回のケースは、通信が必要な場所が建物のなかではなく、ゲート、グッズ売り場、キッチンカーなど、屋外に点在しています。広大な敷地の各所に固定回線を届ける経路確保には手間がかかり、スタジアムのような公共施設では常設設備を置くこともままなりません。
そこで選んだのが衛星ブロードバンドでした。低軌道衛星を経由するStarlinkは、携帯キャリア網の輻輳の影響を受けず、空が開けてさえいれば、任意の場所で通信を確保できます。
本プロジェクトには、従来の単発イベントとは異なる2つの条件がありました。運営業務の端末だけでなく、来場者にもWi-Fiを提供することと、1試合限りではなく、継続して提供することです。昇格争いで来場者が増えていった2025年シーズンの終盤に始まり、年が明けて開催された明治安田J1 100年構想リーグでは、ホームゲーム全試合で実施することになりました。
試合のたびに設営し、終われば撤去する。その繰り返しです。1度きりの本番なら勢いで乗り切ることもできますが、全試合となると、効率的な仕組みを考える必要があります。こうした条件が、シーズンを通じて私たちの設計と段取りを変えていくことになりました。
観客にWi-Fiを提供することには、運営を守るのとは別の意味があります。スタンドの熱量がSNSを通じて外へ拡散すれば、それはクラブの発信力そのものになりますが、もしつながらなければ、せっかくの熱量がスタジアム内に閉じてしまいます。今回のプロジェクトでは、守りの通信に、攻めの要素を加えることが求められました。
スタジアムとその周辺は、8基のアンテナを用いてエリアを分割しました。1基が収容できる端末数と速度には限りがあり、1箇所から遠くまでケーブルを延ばすほど、費用と手間が増えるためです。入場のピークが最も鋭いメインゲートに3基、バックゲートとアウェイゲートに1基ずつ、サブグラウンドに3基を分散配置しました。アンテナの位置は、そのまま人の集まる場所の地図でもあります。入場待ちの列ができるゲート、飲食を求める人が滞留するエリア――「通信を渡したい相手がどこにいるのか」から逆算してアンテナの位置を決めていきました。
大変だったのはサブグラウンドです。試合当日はキッチンカーが並ぶ飲食エリアになるのですが、その広さはサッカーコート半面ほどもあります。屋外でこの面積を、アクセスポイント1、2台でカバーできるはずがありません。しかもキッチンカーの決済端末には、試合開始前に注文が殺到します。もしここで詰まってしまうと、行列はそのまま売上の取りこぼしになります。そこで、ここには3基を割り当てました。1基は業務用で、複数のアクセスポイントを無線で数珠つなぎにするメッシュWi-Fiで面を作り、決済端末とスタッフ端末を収容します。残り2基は、来場者向けフリーWi-Fi専用としました。フリーWi-Fiに何100台つながろうと、決済側の帯域にはいっさい影響しません。上流でStarlink回線ごと分けてあるからです。
一方、接続端末が数台程度のバックゲートとアウェイゲートには、可搬型のStarlink Miniを単体で設置しました。A4サイズほどの本体にWi-Fi機能まで入っており、空の見える場所と電源さえあれば、小規模なアクセスポイントになります。
このように、すべての場所に同じ構成を配するのではなく、場所ごとに必要な端末数に応じて機材を選ぶ。全試合を回し続けるうえで、この割り切りが功を奏しました。
シーズンを通してもっとも改善されたのは、設計ではなく、設営のやり方でした。当初、機材は段ボールやキャリーケースに分けて運んでいたため、設置場所と車両のあいだを何往復もしました。これだと、疲労が蓄積するだけでなく、電波の調整に使える時間が減ってしまいます。試合前の限られた時間で最終調整までやり切るには、機材の運搬で消耗している場合ではないのです。そこでシーズン途中から、物流現場で使うカゴ台車を導入しました。アンテナ、ルータ、Wi-Fi AP、ケーブルをあらかじめカゴ台車にセッティングしておき、そのまま設置場所まで運んで、電源を入れるだけ! こうすることで、設営と撤去に要する時間は、半分以下になりました。
もう1つ重宝したのがポータブルバッテリーです。イベント会場では、欲しい場所にコンセントがあるとは限りません。屋外のゲートやサブグラウンドまでドラム電源で商用電源を引き回すと、養生の手間もかかり、時間を取られます。Starlink Miniであれば、消費電力は約40W程度と小さいため、出力500W程度のポータブルバッテリーがあれば、試合前後の数時間は十分にまかなえます。これを屋外用の防水ボックスに収めておけば、雨のなかでも安心して使用できます。
こうして、設置場所を「コンセントのある場所」ではなく、「電波が取れて、人に近い場所」から決められるようになりました。観客の動線やテントの位置を見ながら、試合ごとに置き場所を変える。段取りの工夫が、設置の自由度を広げてくれました。
試合数を重ねるごとに設営は速くなりました。運営を止めないためだけだった通信が、試合を経るなかで、観客の体験のための通信にもなっていきました。工事が要らず、電源ごと運べて、短時間で立ち上がる。この性質を活かせる場所は、スタジアムの外にもあります。サーキット、音楽フェス、花火大会、そして有線が断たれた被災地。警備会社の方からは、イベントで一時的に設置する監視カメラの映像も送りたいという要望もいただいています。
ネットワークがなければ業務が成り立たない現場が増えている昨今、どこでもストレスなく使えるネットワークを提供できるよう、今後も改善を続けていきます。

©MITOHOLLYHOCK
水戸ホーリーホック
茨城県水戸市をはじめとした18市町村をホームタウンとするプロサッカークラブ。1994年に創設され、地域とともに歩むクラブとして発展。「人が育ち、クラブが育ち、街が育つ」をミッションに掲げ、トップチームの強化だけでなく、地域貢献や人材育成にも注力している。2025シーズンにはJ2優勝を果たし、悲願だったJ1昇格を実現した。
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