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特別対談 モータースポーツは走る“IT”実験室

IIJ.news vol.196|October 2026

IIJグループは日本レースプロモーション(JRP)が統括・プロモートする国内最高峰のカーレース「SUPER FORMULA」において、ITソリューションパートナーとして現場に密着した無線・ネットワークを中心に通信技術面をサポートしている。今回は、JRP取締役会長の近藤真彦氏をお招きして、IIJとJRPの歩みを振り返りながら、日本のモータースポーツ界の現状や将来への展望、さらには40年以上におよぶ近藤氏とモータースポーツとの関わりなどをざっくばらんにうかがった。

ゲスト
株式会社日本レースプロモーション 取締役会長
株式会社エムケイカンパニー 代表取締役
近藤 真彦 氏
聞き手
IIJ 常務執行役員
IIJエンジニアリング 代表取締役社長
山井 美和
山井:
そもそものキッカケは、IIJグループ内の複数の社員から出た「モータースポーツをITで盛り上げたい」という声を受けて、2022年にJRPさんとの関係がスタートしました。そして2023年4月にITソリューションパートナー契約を結んで、NEXT50プロジェクトの初期からご一緒しています。
近藤:
NEXT50が始まった頃からIIJさんにはお世話になっています。IT企業がこれだけモータースポーツの現場に入り込んでくださるのは、当時としては珍しく、本当に心強かったです。

サーキットを疾走する「KONDO RACING」のマシン。鮮やかなブルーがサーキットに映える。(写真提供:JRP)

過酷な環境で鍛えられた技術

山井:
サーキットは通信にとって非常に過酷な環境で、サーキット特有のむずかしさがあります。レース開催時は数万人規模のお客さまが一時的に集中して通信が混雑する一方、平時は利用者も少ないため、必要な設備を常設することはできません。また、時速200キロ超で走るレーシングカーと複数のデータをやり取りするため、チームごとに専用の無線設備を用意するなど、さまざまな電波が飛び交っています。さらには、サーキットごとに異なる電波事情をはじめ、起伏の激しい地形、1発勝負のレース運営……等々、通信側にとっては“言い訳できない”シビアな条件のオンパレードなのです。そこで私たちは2025年1月、もてぎ(栃木県)でスポーツカーベースの車両を使った先行実証を実施し、時速200キロでの低遅延伝送、無線基地局間における時速150キロでのハンドオーバーに成功しました。それを受けて同年9月、富士スピードウェイ(静岡県)で行なわれたJRPさんのカーボンニュートラルテストに、開発車両「赤寅・白寅」を使って参加させていただき、時速290キロでの低遅延伝送、時速270キロでのハンドオーバー成功という結果を得ました。この時は夜間にアンテナを調整するなど、多くの地道な作業や試行錯誤を要しました。技術的な詳しい解説は他稿に譲りますが(12 頁「“走る実験室”で磨かれた技術」参照)、こうした成果は、時分割多重・低遅延で大容量の通信を行なえるローカル5Gの技術がなければ実現できなかったことです。
近藤:
サーキットという「実験室」があったからこそ、生まれた技術なのですね!

開発テスト車両「赤寅」の走行中の様子

実証実験を経て社会実装へ

山井:
一連の実証を通して(サーキットに限らず)大勢の人が一時的に集まる場所で通信環境を提供することのむずかしさに改めて気づかされました。観客と施設側の電波が同じ通信サービスに乗ると、グッズ販売や会場の運営管理の通信に影響が出ることがあり、専用のWi-Fi網が必要だということもわかりました。私たちはこうした知見を集約し、「サーキット向けローカル5Gソリューション」として事業化を進めています。加えて、ここスポーツランドSUGOだけでなく、他のサーキットでもコース全体をフルカバーできるローカル5Gネットワークの構築にも取り組んでいきます。
近藤:
僕はよく「モータースポーツは走る実験室」と言っています。サーキットは通信にとって非常にタフな環境です。だからこそ、ここで鍛えられた技術は、他のどんな現場でも通用すると思います。IIJさんがサーキットという実験室で培った“つながり続ける”ための技術は、スタジアムやコンサート会場のように観客が1度に集まる場所など、社会のさまざまな場面で活用できるのではないでしょうか。サーキットで培われた技術が、世の中のために役立ち、社会全体に広がっていくのは“夢”のある話ですし、そうして世の中のために役立てていただければ、モータースポーツ界としても光栄です。

未来のモータースポーツのために

山井:
近藤会長は、長年、モータースポーツに携わってこられて、いろいろご苦労があったのではないですか?
近藤:
僕は、実はもう1つ仕事を持っているのですが(笑)、そちらの仕事がモータースポーツにプラスになることもあれば、マイナスになることもありました。周りの人には「近藤真彦のチームだからお金も集まるだろうし、人も集まるだろう」と思われがちですが、実はそうではなく、ここにいるのはみんなプロで、彼らは負けん気が強い連中ばかりですから、ドライバーもエンジニアもメカニックも強いチームに行きたいのです。メジャーなチームに行きたいわけではない。でも、僕自身も「負けたくない、強くなりたい」という気持ちを持っていたので、最初の頃は、人材を集めるのにすごく苦労しました。ただ、長いあいだレースをやってきて、僕が近藤真彦である限り、いろんな大変なこともありますが、やはり両方ないとダメなわけで、どちらか片方だけだったら、どちらも続けることができなかっただろうな、と感じています。
山井:
未来のモータースポーツはどうなってほしいとお考えですか?
近藤:
実際、将来のことしか考えてないんですよ! まず僕たちがしなきゃいけないのは、モータースポーツ・ファンを増やすことです。今日もそうですが、最近、家族連れがすごく増えていて、たくさんの子どもたちがサーキットに来てくれます。子どもたちがモータースポーツを好きになってくれれば、その子たちが将来、モータースポーツの仕事に就いてくれますよね。例えば、小学生くらいだと「赤い車がカッコいい!」とか「あの青い車が速い!」といった感じですが、彼らが中学生になると「レーサーになってコースを走りたい」と思うようになり、大学生くらいになると「サーキットのコントロールタワーで働くには、どうすればいい?」みたいなことを考えるようになります。そんなふうに、だんだん未来につながっていくよう、今、JRPは次の世代のモータースポーツ・ファンを育てること、“種を蒔く”ことに力を入れています。そして、1人でも多くのファンを育てて、日本のモータースポーツ界を盛り上げていきたい。そのためにITの力をお借りしたいので、これからもIIJさんと一緒に考えていきたいです。
山井:
私たちも、観客・チーム・メディアの方々など、より多くの人やモノを取り巻く環境が快適になるよう、通信技術の改善に取り組んでいきたいと思います。モータースポーツ界ではIT活用が進んでいて、いろんなことにチャレンジできる現場なので、今後もIIJグループがモータースポーツを支える構図がしっかり根づいていくよう、JRPさんといろんなことにチャレンジしていきたいです。

KONDO RACINGは、2000年からSUPER FORMULAに参戦しており、2018年にはチームチャンピオンに輝いた。(写真提供:JRP)

COLUMN1

  • SUPER FORMULA(スーパーフォーミュラ)

日本レースプロモーション(JRP)がシリーズを統括・プロモートする国内最高峰のフォーミュラカーレース。国内外の16チーム・24名のトップドライバーが参戦し、全国各地のサーキットで年間7大会12戦(※2026年シーズン)の激戦を繰り広げる。全車が共通レギュレーションのマシンを使用するため(ワンメイクレース)、ドライバーの純粋なテクニックとチーム戦略が勝敗を分ける。
近年は、カーボンニュートラルの実現を目指す開発テスト(NEXT50)を推進するなど、高い問題意識と先端技術とが融合した「走る実験室」としての側面を強める一方、公式アプリ「SFgo」を通じたデータ配信や現地での通信基盤構築などIT技術を積極的に導入している。加えて、観客体験の革新を図りながら、次世代のモータースポーツ・ファンを育てる先進的な取り組みにも注力している。

SUPER FORMULAは、F1に匹敵するスピードを誇る、国内最高峰のカーレース。(写真提供:JRP)

タイヤ交換が行なわれるピット作業では、各チームがしのぎを削る。(写真提供:JRP)

COLUMN2

  • スポーツランドSUGO

(8月8日、第8戦の予選日に)本対談が催された「スポーツランドSUGO」は、宮城県村田町にあるレーシングコース。全長約3.7km、最大高低差約70mを誇るコースは、アップ・ダウンとテクニカルなコーナーが連続する“ドライバー泣かせ”の難コースとして知られる。この「起伏に富んだ地形」は、SUGOならではの醍醐味であると同時に、電波が届きにくいエリアを生むなど、通信にとっては手強い条件となる。

スポーツランドSUGOのピットレーン

スポーツランドSUGOのグランドスタンド

COLUMN3

  • 近藤氏が率いるチーム「KONDO RACING」

近藤真彦氏が2000年に設立したレーシングチーム。SUPER FORMULAとSUPER GTという国内2大トップカテゴリーに参戦している。鮮やかなブルー(REALIZE GROUPカラー)のマシンと、「KONDO」のロゴを掲げたトランスポーターは、サーキットでもひときわ目を引く。「強いチームをつくりたい」という近藤氏の熱い思いが、4半世紀にわたりチームを牽引している。

REALIZEカラーのマシン

KONDO RACINGのトランスポーター

ゲストプロフィール
株式会社日本レースプロモーション 取締役会長 株式会社エムケイカンパニー 代表取締役
近藤 真彦
1964年、神奈川県出身。79年に芸能界デビューし、歌手・俳優として活躍。84年からレーサーとしてのキャリアを本格化させ、国内外の主要レースに参戦。2000年に「KONDO RACING」を設立し、チーム監督を務める。23年4月、日本レースプロモーション(JRP)取締役会長に就任。
聞き手
IIJ 常務執行役員 IIJエンジニアリング 代表取締役社長
山井 美和
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