ページの先頭です


ページ内移動用のリンクです

  1. ホーム
  2. IIJについて
  3. 情報発信
  4. 広報誌(IIJ.news)
  5. IIJ.news Vol.194 June 2026
  6. ワット・ビット連携と分散デジタルインフラ

データセンター ~AI時代を支えるデジタルインフラ ワット・ビット連携と分散デジタルインフラ

IIJ.news Vol.194 June 2026

本格的なAI時代を迎えるなか、「情報処理に要する電力供給」という新たな課題が浮上している。
そこで本稿では、その解決策の一つとして注目されている「ワット・ビット連携」と、それを実装するための技術基盤である「分散デジタルインフラ」を解説する。

執筆者プロフィール

IIJ エンタープライズ営業本部 九州・中四国事業部 九州支社 事業推進部 副部長

末 洋志

AIの普及と電力問題

AIの利用拡大にともない、データセンターのあり方が大きな転換点を迎えています。とりわけ生成AIはこの数年で急速に普及し、オフィスワーカーのあいだでも日常的に活用されるようになりました。業務効率化や意思決定支援といった観点から、生成AIはすでに多くの企業活動において不可欠な基盤となりつつあります。一方、その高度な処理を支えるインフラには、これまでとは質の異なる変化と課題が生じています。

最新のGPUを搭載したAIサーバは、従来型の汎用サーバと比較して5倍以上の電力を消費すると言われています。AIモデルの高度化や大規模化が進むにつれ、計算処理に必要な電力量は増加し、AIの進展そのものが電力需要の増大に直結する構造が明確になりつつあります。AI活用の加速は、データセンターに対して「計算性能」だけでなく、「電力をいかに確保し、いかに効率よく使うか」という新たな要請を突きつけています。

電力供給と情報処理のミスマッチ

日本国内のデータセンター立地を見ると、延床面積ベースで約9割が首都圏および関西圏に集中しています。なかでも千葉県北部は、送配電環境、通信インフラ、地盤条件、都心からのアクセスなどの優位性により「データセンター銀座」と呼ばれるほど集積が進んでいます。しかし近年では、AI向け需要の急増に対して、電力供給体制の増強や新設計画が追いつかないケースも散見されます。地域や条件によっては、新たなデータセンターの立ち上げには5年から10年以上を要するとされ、都市部における電力制約がAI時代のボトルネックとして顕在化し始めています。

一方、九州地域では首都圏とは異なる構造的な課題が生じています。太陽光や地熱といった再生可能エネルギーの導入が進んだ結果、春季を中心に発電量が需要を上回り、再エネの出力制御が行なわれる状況が発生しています。2026年度には、九州で発電される電力の約6.9%、およそ12億kW/h相当が出力制御の対象になると見込まれており、これは約30万世帯分の年間消費電力量に相当します。

このように、電力と情報処理のあいだに地理的・時間的なミスマッチが生じていることが、近年ますます明確になっています。情報処理を行なう場所を固定したまま電力だけを調整するアプローチでは、これらの構造的な課題に対応しきれません。

ワット・ビット連携とは?

こうした背景を踏まえ、注目されている考え方が「ワット・ビット連携」です。これまで電力と情報処理の関係は「情報処理を行なう需要地に電力を送る」という前提で設計されてきました。しかし、現状は電力制約と電力余剰が同時に存在するため、「電力のある場所で情報処理を行ない、その結果を通信によって需要地へ届ける」という発想の転換が求められています。例えば、再生可能エネルギーの発電所の近傍に小規模なデータセンターを配置し、そこでAIなど電力集約型の計算処理を実行して、結果のみを都市部へ伝送するといった構成です。こうした仕組みが実現すれば、電力制約への対応と再生可能エネルギーの有効活用を両立しつつ、増大するAI需要に持続的に応えていくことが可能になります。

このワット・ビット連携を実装するための技術基盤を、私たちは「分散デジタルインフラ」と呼んでいます。その実現には――

  1. (1)小規模データセンターを柔軟に配置できるファシリティ技術
  2. (2)データを複数拠点に分散配置し、計算機能と保管機能を疎結合にするアーキテクチャ
  3. (3)拠点間を低遅延で接続する通信網

以上の3点が重要とされています。

2025年10月から、IIJ、九州電力株式会社、株式会社QTnet、1Finity株式会社、株式会社ノーチラス・テクノロジーズは、九州地域において分散デジタルインフラを活用したワット・ビット連携の技術検証を開始しています。これは、電力を担う九州電力と、ビットを担う情報通信各社が連携する共同プロジェクトです。

IIJは、松江データセンターパークで展開してきたコンテナ型データセンターや、ラックサイズのマイクロデータセンター「DX edge」などの実績を有しており、分散ファシリティ基盤に関する知見を備えています。データ分散には、ノーチラス・テクノロジーズが開発する分散RDB「劔“Tsurugi”」を採用し、拠点間接続には、QTnetの光ファイバ網と1Finityが開発中のAPN対応ネットワークカードを組み合わせ、RDMA技術により高速データ連携を実現します。

これらを統合することで、物理的に離れた複数のデータセンターを、あたかも一体の基盤であるかのように扱い、その時点でもっとも合理的な場所で計算処理を実行することを目指しています。まずは情報処理、すなわち「ビット」の領域から着手し、今年度は遠隔地に設置されたLLM環境であっても、手元にあるかのような応答性能でローカルLLMを動作させるための実証を進めています。

さらなる連携拡大に向けて

分散デジタルインフラの特長は、低遅延であり、データを常に“近くにある”ものとして扱える構造を実現できる点にあります。これにより、フィジカルAIやOT領域におけるリアルタイム処理など、現場に近いAI活用の可能性が広がります。人手不足が深刻化するエッセンシャルワーカーの現場支援や、国内に留めるべきデータを扱うデータソブリンを実現するための活用も視野に入れています。

本プロジェクトには、2025年12月から九電グループのニシム電子工業株式会社も参画し、「ワット」の領域における実証へと進んでいます。本取り組みは、九州の電力・通信事情に焦点を当てた分散デジタルインフラの「九州版」という位置づけですが、将来的には各地域の特性に応じて全国展開し、さらにそれらが相互に連携するかたちを目指しています。

私たちは、この取り組みを新たな事業領域への転換ではなく、これまで培ってきたデータセンターおよびネットワーク技術を高度化・統合していく延長線上にあるものと捉えています。電力と情報処理の関係が再考を迫られている現状において、実証を通じて現実的な解を積み重ねていく第一歩として、九州におけるワット・ビット連携の検証を着実に進めていきます。

九州・分散型デジタルインフラ実証プロジェクトの体制(2026年3月執筆時点)

  1. 九州電力、IIJ、QTnet、1FINITY、ノーチラス・テクノロジーズは、地域分散型デジタルインフラを構築・検証する実証プロジェクトを開始します。
    https://www.iij.ad.jp/news/pressrelease/2025/0924.html


ページの終わりです

ページの先頭へ戻る