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IIJ.news Vol.194 June 2026

インターネット、データセンター、クラウドといった“デジタルインフラ”は、今後、どのような役割を果たし、どのように進化・発展していくのか? この分野に長年携わってきた筆者が、来たるべきデジタル社会の青図を描く。
IIJ 常務執行役員 ネットワークサービス事業本部長
IIJエンジニアリング 代表取締役社長
山井 美和
通信の自由化から40年が過ぎ、インターネットは今や空気のように、私たちの社会に溶け込んだ存在になりました。通信、クラウド、 AIといった技術の中身は意識されることなく、利便性だけが当たり前のように享受されていますが、その裏側で情報処理と通信を支えるデータセンターやネットワークといった“デジタルインフラ”が、静かに、しかし確実に社会を支えていることはあまり知られていません。
デジタル社会において、情報処理や通信処理が行なわれている場所の一つがデータセンターですが、物理的な建物としては、窓が少なく、やたらと空調設備が屋上に並んでいて、非常用発電機などが設置された、倉庫なのか工場なのか研究施設なのかよくわからない存在……といったところでしょうか。
ここ数年、データセンター建設計画に反対する運動が起こっているという報道を見るようになり、「得体の知れない施設は要らない」と言われた古い記憶が蘇ってきました。コンテナを使ってアクセスポイントとして全国展開し、広域LANサービスを世界で初めて提供した会社で経験した、一部の地区で起きた反対運動でした。
近隣に暮らす人の気持ちも理解したうえで建設を考え、こうした施設やサービスが社会を支えている事実をもっと理解してもらえるよう努めることで、不安や不信感を払しょくし、社会インフラとしての認知度を上げていかなければならないと思ったのは、そういう経験があったからです。
島根県松江市にコンテナ型データセンターを開設し、今ではそのコンセプトを発展させてモジュラー構造にリニューアルして、松江市の脱炭素先行地域の活動に参加し、自治体や地元企業と社会課題の解決に取り組んでいます。また千葉県白井市では、市と包括協定を結び、IoT技術を活用した農業支援、小中高生による施設見学や地域活動などを通して、地域と一体化したIT利用にも取り組んでいます。
もちろんこれだけでは不十分かもしれませんが、教育現場ではタブレットを活用した授業が当たり前になり、 GIGAスクール構想、マイナンバーカードの普及、ガバメントクラウドの利用拡大など、社会環境が大きく変化するなか、それらを支えるインフラがどのように構築・運用されているのかを理解してもらうことは非常に重要です。
今回の特集では、そうした“デジタルインフラ”がどのように社会に実装され、どのような課題と向き合いながら進化してきたのかを振り返りつつ、その一端に触れながら、データ駆動型社会の到来に向けたIIJの取り組みを紹介します。

松江データセンターパーク

白井データセンターキャンパス
ワット・ビット連携という言葉をご存じでしょうか? データセンターが都市部に集中したことで電力供給が追いつかなくなった状態を解消すべく、電力会社が公表しているウェルカムゾーンや発電所の近くに大規模なデータセンターを設置して、通信手段を介して都市部からアクセスすればよい、という考え方だと言えば、わかりやすいかもしれません。ただ、筆者はそれだけでは偏っていると思うので、ワット(電力)とビット(情報)が連携(通信)することによって社会課題を解決する、と説明することにしています。通信の自由化とインターネットにより分散処理が当たり前になったのに、結局、クラウドサービスに情報が集まってしまっている現状は、少し歪ではないでしょうか。情報はクラウドサービス提供者側にあり、そこにアクセスするために通信サービスを使うというのは、大型汎用機にたくさんの端末がつながり、時分割で利用するTSS (タイムシェアリングシステム)として使っていた時代に逆戻りしたように感じるのです。
昨今ではIT機器でも社会生活でも、電気がなければ何もできないのですから、ワットとビット、そしてこれらを連携させる通信サービスが三位一体となって社会課題を解決しなければなりません。つまりワット・ビット連携とは(大規模なデータセンターの建設を誘致して、情報を集約することも必要かもしれませんが)、今ある送配電網や通信施設をフル活用した情報処理技術によって実現されると考えてもいいのではないでしょうか。
大規模なデータセンターを建設するための場所を決めても、土地の造成を始めて、そこに電力供給してもらうまでには数年かかりますし、申し込んでも使われない電力も相当あると聞きます。 ITの進歩は「ムーアの法則」*を越えて年々劇的に進んでおり、それを支える周辺技術もあっという間に陳腐化します。物理的な話に終始してしまいますが、今あるロケーション、送電網、施設などを有効に使いながら、進歩の早いITを活かす、いわば“旬”を逃さない工夫も重要だと考えています。
電力網の世界では、発電したものと同量の電気を同時に使うのが常識でした。ところが、再生可能エネルギーの活用が進むと、電力網全体でバランスをとり、電気を貯める蓄電池の活用も必要となってきました。複雑な系統制御をリアルタイムに行なうためには情報処理による制御も欠くことができず、ワット・ビット連携は、こうした電力系統網の安定運用に必須の機能であると言えます。
コンピュータが集中と分散を繰り返したように、通信においても回線交換とパケット交換が繰り返されています。回線交換から電信電話が始まり、デジタル通信が始まるとパケット交換が生まれました。通信媒体が銅線から光ファイバに置き換わり、光波長多重によって通信の大容量化が実現され、これからAPNの時代になると、光バースト通信(光パケット通信)が実用化されると想像しています。
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)に代表されるAPN技術が商用化されると、まさに光回線の回線交換が実現できるわけで、回線帯域を気にせず自由に使用でき、電気信号に変換することなく、光だけで長距離伝送を行なえるようになり、電力消費も削減できます。
ネットワーク機器やコンピュータ内部では、プロトコル処理が各階層で行なわれており、処理の遅延がユースケースによっては問題となることがあります。ただ、光伝送においてはデータ誤りを自動的に訂正する符号も使われており、APNの世界でもこうしたデータ誤りを自動的に修復できるようになると、再送処理やパケット分割などを行なう通信プロトコルを省略可能になり、処理遅延はもっと小さくなると考えられます。
光ファイバの構造も変わりつつあります。コアとクラッドという構造から、ファイバの中心部に複数の穴が開いた「空孔コアファイバ(Hollow Core Fiber)」と呼ばれる構造の光ファイバの利用が始まりつつあります。複数のコアを持つマルチコアファイバのほうが現実的な面もありますが、空孔コアファイバは高出力で直進性の高い光信号(コヒーレントな光信号)を低損失で運ぶことができ、曲げにも強い特性を持つため、大量生産されてコストが下がれば、現在の光ケーブルに置き換わっていくかもしれません。
従来の光ファイバと空孔コアファイバの構造
ライテラジャパンの資料をもとに作成
コンピュータを構成するLSI (Large Scale Integration:大規模集積回路)にはいくつかの種類があり、 CPUは複雑な処理を高速で行なえる中央演算装置ですが、画像処理装置であるGPUはあまり知られていませんでした。ゲームや映像編集など、ある程度定型化された処理を同時並行的に処理する専用装置として、一部の人のあいだでは周知のチップでしたが、画像処理と深層学習のデータ処理が類似している点に気づいたことがブレイクスルーにつながりました。
半導体の進歩は目覚ましく、微細加工により集積密度がどんどん高まると同時に、単位面積あたりの発熱も大きくなっています。そのため、チップに放熱フィンを付けて空気の流れで冷やす方式では対応しきれなくなっており、液体を循環させた冷却プレートを付けてチップを冷却する方式だったり、機器自体を絶縁性の高い液体に浸けて熱交換する方式などが実用化されています。
AIを動かすためには非常に大きな電力が必要で、CPUやGPUの消費電力が増大していることに加え、それらを冷却するための周辺装置の消費電力も加味しなければなりません。今後、 AI基盤の構築において、こうした冷却技術は欠くことのできない要素となっていくでしょう。
今やAIの進化は止まるどころか、人間を脅かす存在になりそうな勢いです。もしそういう時代になったとしても、 AI基盤を含む全てのIT機器は“電力ナシ”では動きません。今後は、高度なソフトウェア技術を開発することに加え、電源設備や冷却設備などを備えたファシリティ技術の重要性がいっそう高まっていくと考えられます。
インターネットでつながることが当たり前になった今、多種多様なビジネスが生まれ、多くの人に利用され、道路・鉄道・船・飛行機などの交通手段や、水・電気・ガスなどの生活基盤、そして放送・電話に代わってインターネットが社会インフラを支える基盤になったと言えます。
デジタル通信が一般化した今、データセンター、クラウドサービス、インターネットなどを“デジタルインフラ”と総称して考えるべきではないでしょうか。インフラと称することで、そこで活用されている技術や仕組みを忘れていいわけではありませんが、そのインフラがどのように社会に実装・活用されているのかに注目することは今後、ますます重要になってくるでしょう。
今回の特集では、データ駆動型社会の到来に向けてIIJが取り組んでいる“デジタルインフラ”が、さまざまなサービスの基盤として利用されていることを紹介し、データセンターが「迷惑施設」と言われないよう、広く理解を得ることができればと考えています。未来の日本を支える社会インフラの一つのかたちとして理解を深めていただけることを願っています。

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