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インターネット・トリビア AMラジオがFMに移行

IIJ.news Vol.191 December 2025

執筆者プロフィール

IIJ 広報部 技術統括部長

堂前 清隆

IIJの技術広報担当として、技術Blogの執筆・YouTube動画の作成・講演活動などを行っています。これまでWebサイト・ケータイサイトの開発、コンテナ型データセンターの研究、スマホ・モバイル技術の調査などをやってきました。ネットワークやセキュリティを含め、インターネット全般の話題を取り扱っています。

日本のラジオ放送には、AM放送・FM放送・短波放送の3種類があります。AM放送を行なっている全国の民間ラジオ放送事業者(NHKを除く)47社のなかで44社が、2028年までにFM放送に転換する方針を掲げています。といっても、すでにAMラジオ各社は「FM補完放送」という名前でAM放送と同じ番組をFM放送で送信しており、さらに一部の事業者は実験的にAM放送を休止しています。今後、正式にAM放送を廃止し、FM放送のみにする方針が示されているのです。

なぜAM放送を廃止するのか? その理由を説明するために、まずラジオにおける電波の使い方を簡単に説明します。ラジオのように電波で音声を送信するうえで重要なのが「周波数」と「変調方式」です。

定義上、周波数は3THz(テラヘルツ)までとされていますが、ラジオでは「中波」(300kHz~3000kHz=0.3MHz~3MHz)、短波(3MHz~30MHz)、超短波(30MHz~300MHz)あたりの電波が使われます。これらの中で基準となる周波数を決め、その電波を少し変化させることで、音声信号を伝達します。

電波を変化させることを「変調(Modulation)」といい、ラジオのような音声では「振幅変調(Amplitude Modu-lation・AM)」と、周波数変調(Frequency Modulation・FM)が使われます。「AM放送」と呼ばれているのは「中波帯を使った振幅変調(AM)の放送」で、「FM放送」は「超短波帯を使った周波数変調(FM)の放送」です。

電波の性質上、周波数が低い(数字が小さい)ほうが遠くまで届きやすく、AMのほうがFMに比べて送受信のための回路が簡単です。一方、FMは回路が複雑ですが、音質が良く、妨害に強い特性を持っています。

ラジオ技術の開発はAM放送が先行し、日本では「中波・AM」のラジオ放送が1925年から、「超短波・FM」のラジオ放送は1957年から、それぞれ始まりました。なお、短波放送は電波の特性上、海外にも届きやすいため、当時、日本が統治していた「外地」向けの放送が1934年からAMで行なわれていました。

今回のAM放送からFM放送への転換の目的は、変調方式の変更ではなく、周波数を「中波」から「超短波」に切り替えることが主眼になっています。というのは、電波を送信するアンテナ設備が、中波と超短波では大きく異なるためです。

アンテナは、周波数が低くなるほど長くなります。AM放送に用いられる中波送信用のアンテナは非常に大掛かりで、「親局」と呼ばれる放送局の中心となるアンテナには、地面から垂直に立てられた高さ100mを超える鉄塔が使われます。また、電波の送信効率を上げるために、鉄塔を中心に半径100m~150mの地面に銅線を埋設します。この敷地はある程度、地面に電気が流れるほうがいいので、水気が豊富な河川敷や海辺が好適地とされています。しかし、このような大規模な設備は維持管理の負担が大きく、近年は災害対策の困難さも指摘されています。

一方、FM放送で使われる超短波送信用のアンテナは数mほどです。アンテナを設置するためにある程度の高さのアンテナタワーのようなものは必要ですが、タワー自体は他の用途と共用可能です。また、タワー周辺に広大な空間が必要ないので、AM放送の設備に比べて格段に設置の自由度が高いのです。

民間のAM放送局は放送開始から数10年が経過し、設備も老朽化しています。各事業者は設備更新の負担を考慮し、この機会に中波・AMの設備を廃止したいという意向を持っているのです。

イラスト/末房志野


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