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ぷろろーぐ 覇権

IIJ.news Vol.191 December 2025

株式会社インターネットイニシアティブ
代表取締役 会長執行役員 鈴木幸一

新しく女性が首相になり、新聞社から何かコメントを書いて欲しいと連絡があった。戦後すぐの生まれで、すでに高齢者となっているうえに、政治家との付き合いもなくなっている私でも、首相が交代し、女性が首相に就任したことくらいは耳に入っていたのだが、改めて何か書くほどの思いがあるわけでもない。端的にお断りをするのも失礼なので、掲載しようもない小文を書き送った。小文はどこかに消えてしまったに違いない。

「私がインターネットの存在を知ったのは1968年、米国がベトナム戦争の泥沼から抜け出せず、国民のコンセンサスが壊れるのではないかという深刻な時代だった。そんな状況にあって、通信の基本となる技術が、電話からコンピュータ・サイエンスに代わっていくだろうという予見を明確にしたプレゼンテーションが、のちにシリコンバレーと呼ばれる西海岸で行なわれた。私は、『プレイボーイ』だったか、『ローリングストーン』だったか、そんな類の雑誌で知り、以後、関心を持ち続けたのである。

米国は「インターネット」という通信分野に生じた20世紀最後の巨大な技術革新と、新たな金融市場のインフラを牛耳ることで、21世紀に再び、覇権を握るのだという強い意志を貫いた。日本人としては、米国の覇権奪回の政策を比較的近くで見ていたのだが、その間、日本の政治家や学者は、米国の政治的というか、国防的な視点での堅固な意志について関心を示さなかった。インターネットに強い興味を持ち続けたのは、ユニックスというコンピュータのマルチタスク、マルチユーザのオペレーティングシステムを導入しようとしていた専門家だけだった」。

そんな内容の小文は、この半分くらいの長さだった。日本で女性が初めて首相になることに対するコメントという要望に対して、まったくピントがずれた小文である。なぜこんな小文を書いてしまったのかといえば、日本には似た企業がないということで、1999年、米国のナスダック市場に直接、新規株式公開(initial public offering)するほかなかったIIJの歴史と関係する。

米国は21世紀に、通信(インターネット)と金融において再び世界の覇権を握り、世界の中心になろうという明確な国策を掲げ、私のようなものにまで声をかけて、議論をさせた。そんな米国と日本の、あまりにも対照的な違いに危惧を抱き続けてきたことが、新たな総理の誕生ということに対して、私の感情を刺激したのかもしれない。インターネットは、巨大なビジネスを生み続けているが、当初から、極めて重要な軍事技術であることに変わりはない。


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