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ぷろろーぐ 濃紺のスーツ

IIJ.news Vol.181 April 2024

株式会社インターネットイニシアティブ
代表取締役 会長執行役員 鈴木幸一

4月1日は入社式。3月の半ばから冷たい気温が続いたが、3月31日、突然、28度を超す初夏のような暑さに驚いたのか、閉じたままだった桜の蕾が、翌4月1日、急に綻び始めた。近年は暖冬に慣れてしまい、4月になると満開はとうに過ぎて、花びらが舞う風景しかなかったので、入社式が来ても桜が蕾のままというのは記憶にないほどである。

早春の冷たい大気に沈丁花の香りが広がると、なんとなく胸が騒いだものだが、昨今では凛とした冷たさが消えてしまい、春の訪れにもあまり感動しなくなってしまった気がする。

幼稚園すら登園拒否をしていた私にとって、集団生活の第一歩は、小学校の入学式だった。初めて教室という場に案内された記憶がある。教室から裏庭に出ると、空は晴れていたが、前夜の雨で濡れた土の上に、散ったばかりの桜の花びらが、鮮やかな色のまま日陰の地面に落ちていた。その光景は、初めての集団生活の空気に心細くしていた私の脳裏に、何十年を経た今でも焼き付いている。

入社式のたびに、男女とも200人以上の濃紺一色の新入社員が背筋を伸ばして座っている姿を見ると、ひとり一人は心優しいはずなのに、なんとなく異様に感じてしまう。入社式の挨拶でその違和感を口にするのは、そろそろやめにしようと思っていたのだが、濃紺姿の集団を前にしたら、その塊が真っ黒に見えてきて、結局、違和感を話さずにはいられなかった。

そもそも、あらゆる式典から外れて生きてきた私のほうがおかしいのだが、インターネットという巨大な技術革新の渦中にあって、このような若者がようやく30年を超えたばかりの弊社のカルチャーを継承してくれるのだろうかと、余計な心配が先に立ってしまう。ほとんどの若者は自由な発想を持っているはずなのだ。服装だけを見て、過度に心配してしまうほうが、おかしいに違いないのだろう。

IIJは創業32年目だが、常々、私の「道楽」と言われている「東京・春・音楽祭」は、今年、20周年である。音楽祭を始めようとしていたのは、IIJ、CWCを、1999年、2000年と相次いでニューヨークのナスダック市場に公開した頃である。実際に第1回の音楽祭が始まったのは2005年、IIJグループにとって最も苦しい状況からなんとか立ち直りかけていた時期である。今や、CWC(クロスウェイブ コミュニケーションズ)という社名を記憶している人も少ないだろう。その設立は1998年で、2000年にナスダック市場にコンセプショナルIPOで公開して資金調達をしたのだが、2003年には資金繰りがつかなくなり、会社更生法が適用された。とても「道楽」などをやっている時期ではなかった。にもかかわらず、音楽祭を中止するとは言わなかった。道楽も命がけなのである。

当時、CWCはまだ売り上げも些少だったのに、そのコンセプトが評価されて、ナスダック市場に公開できたことは私にとって誇りなのだが、その結末は、未だに忘れられない終り方だった。


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