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宇宙に広がるインターネット 特別寄稿“150兆円市場の内訳”日本政府も本腰! 10年1兆円の「宇宙戦略基金」を創設した宇宙ビジネスの今

IIJ.news Vol.180 February 2024

本稿では、人工衛星で取得できるさまざまなデータの社会実装をサポートする株式会社 sorano me(ソラノメ)代表取締役社長の城戸彩乃氏に、宇宙ビジネスの最前線をリポートしていただいた。

執筆者プロフィール

株式会社 sorano me(ソラノメ)代表取締役社長

城戸 彩乃 氏

宇宙ビジネス関連のメディア「TELSTAR」や「宙畑–sorabatake–」を立ち上げ、宇宙技術の情報発信・リサーチ・利活用企画に取り組んだのち、さくらインターネット株式会社で「衛星データプラットフォームTellus」のプロダクト開発に携わり、起業。2022年よりネイチャーポジティブを目指す「株式会社Archeda」の外部取締役を兼任。

10年1兆円――これは2023年に日本政府が国内の民間企業・大学などに支援すると掲げた金額です。宇宙航空研究開発機構(JAXA)に「宇宙戦略基金」を設置し、研究開発や技術実装などを支援します。

世界の宇宙ビジネス市場規模は2040年に150兆円にまで拡大する(2022年度で55兆円)と予測されています。すでに欧米の宇宙開発機関は、シーズ研究を担う大学・民間事業者や商業化を図る民間事業者の技術開発に対し資金提供する機能を担い始めており、日本政府の「宇宙戦略基金」もこうした世界的な流れを受けて創設されるものです。

インターネット、位置情報、天気予報……日常を支える宇宙ビジネスの全体像

世界の宇宙ビジネス産業の市場規模において衛星やロケット開発関連はわずか6%なのに対し、人工衛星サービス関連は70%を占めています。人工衛星サービスは、通信・測位・地球観測の3つに分けられ、地球に住む我々の生活に不可欠なインターネット、地図アプリ、天気予報など多くのサービスが利用されています。

残りの約20%は、政府予算の研究、宇宙旅行、宇宙探査などが該当します。

宇宙ビジネス市場内訳(2022)

宇宙ビジネスはここまで来た!衛星利活用の最前線

すでに日常生活に欠かせない人工衛星関連サービスですが、近年、それぞれのサービスが新しい展開を見せています。

  • 通信衛星

通信衛星とは、地上の通信を宇宙空間を経由して中継するための衛星です。通信衛星は、これまで追尾のしやすさや安定性の観点から、高度3万6000kmの静止軌道への配置が主流でした。しかしここ数十年で、SpaceX社のStarlinkやOneWeb社などを中心に、高度数百〜2000kmの低軌道に多数の小型衛星を配備して一体運用を行なう「低軌道通信衛星コンステレーション」を形成する動きが活発化しています。

従来の静止軌道での通信衛星に比べて低遅延なバックホール回線として機能するため、離島・山間部・海上での利用や工事現場・イベント会場での活用が広がっています。

  • 測位衛星

測位衛星とは、カーナビやスマホの位置情報などに利用される、ヒト・モノの現在位置や時刻情報の電波を提供する衛星です。国内では内閣府が準天頂衛星「みちびき」を7基体制(2024年1月現在4基)で運用しており、高精度な位置情報や安否確認サービスなどの提供が始まっています。

民間の利用事例では、高精度な位置情報を利用した自動運転の実験や、広域を切れ目なくカバーするFMラジオ局が複数で同期放送を行なう際に「みちびき」の時刻情報を利用するなど、おもにSociety 5.0の領域での活用が進んでいます。

  • 地球観測衛星

地球観測衛星とは、気象情報や地球環境に関するデータ(衛星データ)を観測する衛星です。衛星データは、航空撮影や地上センサによる計測手法に比べ、低解像度ながら広範囲を網羅できます。

活用事例としては、環境モニタリングや防災・気象情報・一次産業などが中心でしたが、近年では顧客情報やIoTデータなどと合わせた解析やAIの画像分析により、企業が自社のサプライチェーンの透明性確保や(石油価格ほか)先物取引の予測など、潜在的な価値の可視化や将来予測の分野で注目されています。

また、2023年に上場したRidge-i社やJAXA発の天地人社など、AIを使って衛星データを分析するベンチャーの登場から、衛星データプラットフォームTellusの整備、自治体による実証機会の提供まで、活用に向けた土壌が国内外で醸成されています。

今後、期待される宇宙産業の拡大

気候変動・自然災害、人口動態の変化、テクノロジー・シフトなど、社会は2030年を待たず刻々と変化すると同時に、その影響に晒されており、宇宙ビジネスは社会にとって不可欠なものになりつつあります。

気候変動・自然災害においては、変化を前提とした「適応」、変化を食い止める「緩和」、そして変化自体をモニタリングし策を講じるための「可視化」の3点に関して、地球観測衛星の貢献が期待できます。

令和6年能登半島地震でも発災の数日後に、JAXAの「だいち2号」や民間企業の衛星データが公開され、被害状況の把握に活用されました。また、寸断された地上の通信回線の代わりに衛星通信が使われるなど、緊急時の代替手段としても活躍しています。

人口動態の変化について、特に日本では少子高齢化、地方の過疎化に起因する労働力減少や文化消失が進んでおり、デジタルによる効率化・最適化が不可欠です。例えば農業であれば、衛星データとIoTを併用した圃場管理や、測位による農業用機械の自動運転などの実績があります。

増加するニーズに応えるために衛星の基数も増加中です。衛星通信領域においては、サービス提供範囲の拡大や安定供給に向けて、各社が数千〜数万基という巨大なコンステレーション構築を目指しており、先行するStarlinkのサービス拡充が進むなか、価格競争やローカライズ戦略による競争の激化が予想されます。

測位衛星は精度の向上と安定化が主要な課題であり、今後の技術発展により車や船舶の自動運転など広範な実装が進む際、測位技術の向上とインフラとしての強靭化が鍵となります。

地球観測衛星は、激甚化する自然災害への対応に向けた観測頻度・解像度の向上や、安定的かつ即時的なデータ提供に向けた技術改革とインフラ整備が進むでしょう。データの即時提供については、光通信を利用したSpace Compass社やWarpspace社の取り組みも発表されています。

まとめ

ここで紹介した領域は、重要性やニーズの増加が官民ともに認知され、事例も増える一方ですが、社会基盤としてはまだ力不足な状況です。今後期待される大量のデータの供給・高速処理や他データとの連携を見据えた地上・宇宙双方の通信設備、エッジコンピューティングとしての衛星利用に向けた機器提供など“潜在的なビジネスチャンス”は広がり続けています。皆さまもぜひ、新たなインフラ構築への参画を検討してはいかがでしょうか。

株式会社 sorano me(ソラノメ)

宇宙ビジネスメディア「宙畑」の立ち上げメンバーで2019年に創業。
宇宙産業内外からさまざまなスキルを有する人材が集まる複業人財プラットフォーム「ソラノメイト」を構築し、衛星データを用いた新たな事業開発の支援や宇宙ビジネスに関する専門的な調査・コンテンツ制作・PR支援などを行なっている。


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