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宇宙に広がるインターネット 宇宙への誘い“仕向け地”としての宇宙

IIJ.news Vol.180 February 2024

近年“宇宙熱”が異様な高まりを見せている。そこで今回は、ベンチャーながら日本の宇宙ビジネスを牽引している「Synspective」の共同創業者の白坂成功氏をお招きし、宇宙開発の現状や宇宙時代に求められる通信についてお話しいただいた。

慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授

博士(システムエンジニアリング学)

白坂 成功 氏

東京大学大学院修士課程修了(航空宇宙工学)、慶應義塾大学後期博士課程修了(システムエンジニアリング学)。大学院修士課程修了後、三菱電機で15年間、宇宙開発に従事。「こうのとり」などの開発に参画。大学では、内閣府「ImPACT」のプログラムマネージャーとして小型合成開口レーダ(SAR)衛星を開発。その後、株式会社Synspectiveを共同創業者として創業。内閣府宇宙政策委員会等、多くの委員会の委員として政府の活動を支援。

株式会社インターネットイニシアティブ

取締役副社長

村林 聡

「宇宙から地球を見たい!」

村林:
最初に白坂先生のご経歴と宇宙ビジネスとの関わりについて教えてください。
白坂:
そもそものところからお話ししますと、中学校2年生の時に「宇宙から地球を見たい!」と思ったのがキッカケです。それで「どうすれば宇宙に行けるだろう?」と考えたところ、なぜか宇宙飛行士になるという選択肢は浮かばなくて、「宇宙で必要なものを作れば、メンテナンス要員として宇宙に連れて行ってもらえる」と思ったのです。
村林:
そして東大の航空宇宙工学科に進まれました。
白坂:
大学では「火星ローバー」(火星表面を自走する無人探査車)の研究をしました。
村林:
その後、三菱電機に就職されました。
白坂:
15年間、人工衛星の開発に従事しました。当時、ダイムラー・クライスラー・エアロスペース(現エアバス)と三菱電機とのあいだにエンジニアの交換制度がありまして、途中の約2年間はドイツで欧州宇宙機関(ESA)向けの仕事をしました。
現地滞在中に「システムエンジニアリング」について学んだのですが、その考えが自分の問題意識に非常に強く刺さりましてね。それを知る以前は、体系的な方法論を持たないまま、思いつきで設計をしていたことに気づかされました。
三菱電機に戻ってからも社内でシステムエンジニアリングを教えていて、その流れで2004年から慶應義塾大学で教鞭をとるようになりました。正式に三菱から慶應へ移ったのは2010年度からですが、慶應でのメインは宇宙のことというよりは、システムデザインをもの作りや社会全般に適用していくための研究を行なっています。

宇宙ベンチャー「Synspective」設立

村林:
宇宙ベンチャー「Synspective(シンスペクティブ)」を設立されたのは、どのような経緯からですか?
白坂:
2015年に内閣府の「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」のプログラムマネージャーに就任して、オンデマンド型で即時観測が可能な小型合成開口レーダ衛星(SAR:Synthetic Aperture Radar)の開発に携わりました。
その背景には、東日本大震災の反省がありました。震災直後、日本の人工衛星はあまり役に立たなかったのです。人工衛星は約90分で地球を1周しますが、地球の自転に対して少しずつズレていくので、同じところから撮影できるのは10日に1回くらいになります。東日本大震災の時はタイミングが悪く、衛星が通り過ぎたあと地震が起きたため、次の撮影機会までに時間が空いてしまったのです。
宇宙業界は「災害対応」の名目で多くの資金をいただいているので、これは何とかしなければならない。そのためには衛星を小型化して開発コストを抑え、数を増やすことが先決だ――こうした課題認識を持ったメンバーが集まってSAR衛星の開発に着手したのがImPACTプログラムでした。
ただ、レーダの開発は終わっても、国が使ってくれるのを待っていたらいつになるかわかりません。それならスタートアップを立ち上げて実装しようということになり、内閣府とも相談したうえで、ImPACTプログラムが終わる前にSynspectiveを立ち上げて、成果をそこに落とし込み、実用化していく流れをつくりました。
村林:
現時点でのSynspectiveさんの人工衛星の稼働状況はどんな感じなのですか?
白坂:
これまでに3機打ち上げて、そのうち1機は寿命が尽きましたが、残りの2機は稼働中です。ただ、この数だと少なすぎるので、我々は30機飛ばすことを目標にしており、30機あれば日本を2時間おきに撮影できるようになります。

Synspectiveの打ち上げる小型SAR衛星“Strix”の軌道上イメージ

データの蓄積が重要

村林:
前職で宮城県気仙沼市の災害復興に携わった際、地元の高校生にIT・デジタル・AIの未来について講演したことがあります。すると、生徒から「そういう技術は地震の予知に役立ちますか?」と質問され、とっさに「過去に兆候があって、そのデータを蓄積してAIに解析させれば、予測につながる可能性はある」と答えました。
白坂:
今のところ地震発生のメカニズムは解明できていませんが、データサイエンス、特にディープラーニングがすごいのは、裏のロジックがどうなっているのかわからなくても、膨大なデータから因果関係を見つけ出してくるところです。人間の知識では、そこにどんな関連があるのかわからなくても、AIなら、こういったことがあったら、次は地震が起こる……みたいなことを発見する可能性はあると思います。
村林:
そのためには、できるだけ多くのデータをAIに食わせる必要がありますね。
白坂:
おっしゃる通りです。今、宇宙ビジネスの分野では、イーロン・マスクのSpaceX社が莫大な投資を行なって先行していますが、ああいったやり方に対し、スタートアップが勝てる唯一の方法は「時間(過去のデータ)を味方につけること」です。データはいくらお金をつぎ込んでもあとからつくることができないので、時系列に沿った情報があるのは、実は大きな強みなのです。
ただ、データを持ち続けるのはスタートアップにとって大きな負担になるうえに、日々刻々と膨大なデータが宇宙から下りてきていて、その移動・保管にものすごいお金がかかっています。
村林:
ということは、データの一次加工は宇宙でやったほうが効率的ということですか?
白坂:
そうですね。実際、オンボードプロセッシングが注目を集めていて、宇宙で必要な情報量まで減らしたうえで、地上に下ろすといったことが考えられています。特に災害時は地上の通信網が機能していない可能性が高いので、宇宙でデータを加工できれば、現場のアンテナにダイレクトに情報を下ろせるようになります。

ユースケース① 水害状況の分析

村林:
保険会社さんが被災地の実態を調査する際、ドローンをどこに飛ばしたらいいのか調べるのに人工衛星のデータを使うといった話を聞いたことがあります。
白坂:
我々も保険会社さんとはいろいろ協業しています。水害が発生した時、何センチ以上浸水していたら床上判定するといった数値があって、それで補償金額が決まります。その判断をするのに現地に行って、壁がどこまで汚れているのかを見たりするのですが、この作業がすごく大変で、手間も時間もかかる。そうなると、被災者にお金を払うのが遅くなってしまうため、時間的ギャップを少しでも短くしたいというニーズがあります。
SAR衛星が撮影した被災地の画像を分析すると、地表面がツルツルなところと、ガタガタなところが判別できます。つまり、水面はツルツルに写るので、ここは水に浸かっているな、と。
村林:
なるほど。浸水の深さもわかるのですか?
白坂:
水がどこまで来ているのかがわかれば、地図の等高線と重ね合わせて、ここは何センチくらい浸水しているはずだと推測できるのです。
保険会社さんはその情報をもとに被災者に一時金を支払うことができます。ただ、時間が経つと水が引いてしまいますから、適切な頻度で撮るためには、衛星の“数”が必要になってくるわけです。

Synspectiveが提供する洪水被害状況把握サービスの画面イメージ

ユースケース② 地盤沈下の分析

村林:
ほかにもユースケースをご紹介いただけますか?
白坂:
合成開口レーダの技術自体はけっこう古くて、1950年代から軍事分野で活用されていました。そして、分解能はそれほど高くないですが、ヨーロッパの衛星が世界中を撮影しているデータがオープンデータとして公開されています。
村林:
無料で公開されているのですか?
白坂:
そうです。数週間に1回くらいの撮影頻度ですが、かなり昔からのデータがあります。そういった蓄積されたデータを分析すれば、いろいろなことがわかります。
水害のような撮影頻度を要しないのが地盤沈下の分析です。SAR衛星がまったく同じ位置から、まったく同じ電波を出して撮影を繰り返していれば、もし地面が動いていたら電波の位相がズレるので、地面の変動がわかります。
村林:
どれくらいの精度でわかるのですか?
白坂:
ミリ単位です。
村林:
地中が空洞化しているといったこともわかるのですか?
白坂:
空洞になっているか否かの判断はむずかしいですが、地面が縦方向・横方向のどちらに・どれくらい動いたかがわかる技術をSynspectiveが開発して特許を持っています。それを見ると、地面が沈下する時は、横に動いて集まってから斜めに沈んでいくので、ここに穴があるんじゃないかということが推測できます。一般的な測量は点で測っていきますが、合成開口レーダは面で撮っていくので、地面がどちらに向かっているかまでわかるのです。
ただ、そういった分析をできる人材が日本にはそんなにたくさんいないので、現状、学ぶチャンスが少なく残念です。データ自体がオープンソースでお金もかからないので、シビックテックの人たちなどがトライできるようになればいいなと考えています。
村林:
そうしたデータは天災以外にも、人工物や都市インフラの修繕にも役立ちそうですね。
白坂:
そうですね。例えば、東京都内には「橋」が数百本あるらしいのですが、全てを同時にはメンテナンスできません。そんな時、SARデータを見比べれば、「この橋は歪みが大きいから先に直そう」といった判断ができます。
村林:
なるほど。スマートシティ構想にも有益ですね。

Synspectiveが提供する地盤変動モニタリングサービスの画面イメージ

ユースケース③ 経済市場をめぐる分析

村林:
IIJはIoTに取り組むなかでセンサを使うことも多いのですが、センサは災害が起きると、機能しなくなってしまう可能性があります。それに対し人工衛星なら、どんな状況でもデータをとり続けることができますね。
白坂:
さらに言うと、SARデータにセンサなど他の情報を組み合わせると、もっと面白いことが実現できます。私の研究室で衛星データを使って、どうすれば今までにないビジネスを生み出せるのか研究したことがあります。
いちばん驚いたのが、Orbital Insightの事例で、彼らは人工衛星から撮影した、世界中にある石油の備蓄タンクの映像を日々分析しているのです。
村林:
と言いますと?
白坂:
石油の備蓄タンクを上から撮影すると、蓋の内側に影ができます。備蓄タンクの天井は、なかの石油の酸化を防ぐために油面と蓋がピッタリくっ付くフローティング構造になっていて、中身(石油)が減ると蓋が下がり、増えると蓋が上がります。この撮影データに太陽光の入射角やタンクの直径などを加えて細かく分析すれば、石油の残量がわかるので、その情報を先物取引向けに提供しているのです。
村林:
へえ! すごいですね。
白坂:
さらに、我々の研究で明らかになったのが、分析を加えるステップ数が多ければ多いほど、その結果は貴重かつ面白いものになるということです。つまり、データのシーズとニーズが近いと誰でも思いつきやすく、すでにビジネス化されている可能性が高い。反対にシーズとニーズが離れていれば、そのあいだを埋めるのがむずかしくなり、より斬新なアイデアが得られるというわけです。できるだけかけ離れているシーズとニーズを、複数のデータ分析を挟みながらつなげることができた時、まったく新しいビジネスが生まれるのです。
村林:
「風が吹けば桶屋が儲かる」という理屈ですね(笑)。
白坂:
大切なのは情報の組み合わせで、さまざまなステップを経て、どの情報とどの情報をかけ合わせれば、新しい情報を生み出せるか? という視点に立つことです。
村林:
それにしても、石油の先物取引に衛星データが使われているとは驚きです。
白坂:
今、金融業界でも衛星データが非常に重視されています。
有名な例としては、テスラの出荷用の駐車場に自動車が何台あるのかという情報は毎日カウントされていて、計画値と実績値の比較が行なわれています。
もう1つ例を挙げますと、東京ディズニーランドの駐車場に車が何台停っているのかを、同じ曜日の同じ時間帯に記録します。すると、前週比・前月比などの値がわかり、その結果を分析すれば、決算発表前にだいたいの業績が予測できるのです。
村林:
私も金融業界にいた人間ですが、そういった“見えるデータ”として示されると、非常に説得力がありますね。
白坂:
今や「見えるものは全て宇宙から撮影されている」とも言われています。ただ、普通の衛星だと雲があったら撮れないので、同じ曜日の同じ時間帯に撮影できるのがSAR衛星の特長です。

宇宙でやるべきこと

村林:
先日「月にも水がある」と新聞に出ていましたね。
白坂:
月の水資源をめぐっては、すでに大競争になっていて、中国がトップランナーです。月には氷状の水があると言われていて、埋蔵量すらわかっていませんが、(月の)極にあるらしい。
目下、月にある水の情報を知りたくて世界中が競っている理由は、「水=H₂O」を分解すると、酸素と水素になる。つまり、人間が生きるために欠かせない酸素と燃料になる水素の両方を宇宙で入手できるからです。
月に関してはまだ国際法がなく、各国法で対応していて、ここは自分の土地とは言えないけど、獲れたものは自分のものにできる、ということになっているので、今のうちにプラネタリーバウンダリーの“月版”を整備しておくべきかもしれませんね。
村林:
では、最後にIIJに対する期待をお聞かせいただけますか。
白坂:
宇宙も道具の1つだと考えて、積極的に活用していただきたいです。
宇宙ビジネスの分野で日本が遅れている理由の1つは、宇宙は映画やマンガのなかの世界で、いまだ現実じゃないと思っている人がまだまだ多いからではないでしょうか。
2040年代には年間約1万人が宇宙に行くようになっているという予想があります。つまり、宇宙が生活圏に入ってきて、我々が地上で暮らしていくうえで必要なものは、宇宙でも必要になるということです。地球上のモノの“仕向け地”が宇宙になるだけで、海外に輸出するのか、宇宙に輸出するのかといった感覚です。
そうなると、当然“通信”は、宇宙ステーション、月面……等々、人間が行くところには遍く必要になってきます。もはや通信は水や空気と同じくらいなくてはならないものであり、これからはいかに良質な通信を確保するかがキモになってくると思います。
そういう意味で、IIJさんにもぜひ宇宙に関心を持っていただき、宇宙に出てきていただきたい。宇宙には、今、やれること、やるべきことがいくらでもあるという状態です。
村林:
宇宙でも「水」「空気」「インターネット」ですね! たいへん興味深いお話をうかがうことができました。ありがとうございました。


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