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ビジネスもプライベートもIIJモバイル 日本のモバイル業界概観

IIJ.news Vol.165 August 2021

昨年末から携帯電話市場では、新料金プランの発表などが相次いでいる。
そこで本稿では、なぜ業界の動きがこれほど活発化したのか、業界ではどのような議論がなされているのかなど、現況を解説する。

執筆者プロフィール

IIJ MVNO事業部事業統括部長

下田 武士

総務省、業界団体、携帯電話事業者等との業界ルールの整備やMVNO事業に関する渉外活動等に従事。

総務省の「アクション・プラン」

2020年末から2021年春先にかけて、コンシューマ向け携帯電話市場では、活発な動きがありました。それまでは、MNO*1のグループ会社やIIJのようなMVNO*2が低価格な料金プランで市場競争をリードしていましたが、MNOから「ahamo」(NTTドコモ)、「povo」(KDDI)、「LINEMO」(ソフトバンク)などが、MNO自らのブランドとして新たな料金サービスを開始しました。

2020年10月27日、総務省が「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」(図1)を打ち出しました。これは「利便性向上」、「通信事業者を自由に選択できる」、「リーズナブルな料金」など、利用者にとって携帯電話がより使いやすくなるよう、業界が取り組むべき課題を総括したものです。

このような方針を出した経緯は一般にはあまり知られていませんが、業界団体(MVNO委員会*3など)、消費者団体、有識者などが、総務省主催の研究会などで継続的に議論した結果であり、世間にも広くパブリックコメントを求めるなどしてまとめられたものです。IIJも各種研究会にMVNO委員会を通じて提言したり、MVNO事業者個社として意見を求められるなど、積極的に参画してきました。同アクション・プランでは、次の三つの方針が「柱=テーマ」とされています。

  • [第1の柱]分かりやすく、納得感のある料金・サービスの実現
  • [第2の柱]事業者間の公正な競争の促進
  • [第3の柱]事業者間の乗換えの円滑化

第1の柱の狙いは、「さまざまな事業者のサービス、プラン、料金体系が複雑である」、「想定していた料金と異なる結果になった」といった「わかりにくさ」を解消するとともに、「シンプルで低価格な料金」を実現することです。

第2の柱は、MNOやMVNOといった事業者間の競争が活性化するよう、MVNOにサービスを卸しているMNOが卸料金を低廉化し、公正な競争を促進するものです。

第3の柱は、他社に乗り換えたいと考えた利用者が、複雑な手続きを経ることなく、乗り換えられるようにするものです。

このように、総務省のアクション・プランを起点にモバイル業界は活発に動き出しました。そして、シンプルなメニューとして「ahamo」に代表されるMNOのサブブランドがリリースされ、MVNO向け卸料金の低廉化へ向けた対応や、他社に乗り換える際のMNP*4手続きの簡素化などの議論が進んでいます。

図1 総務省「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」

MNOの卸料金について

これまでもIIJはMVNOとしてシンプルで低価格なサービスを提供してきましたが、他のMVNOやMNOがより低価格なサービスをリリースした時、アクション・プランの第2の柱にある「MNOの卸料金の低廉化」が実現されれば、公正な競争のもとお客さまにサービスを提供できます。

卸料金は、パケット通信を行なうための「データ接続料」と、音声交換網を経由した通話を行なうための「音声卸料金」に大別できます。

データ接続料は年度を通した利用実績などをもとに算出されるため、料金が確定するのは約一年後になります(2021年度の料金は2022年12月に確定)。ただし、実際に仕入れるための料金がどれくらいになるのか不明なままでは事業に支障をきたすため、事前に「今年の接続料はこれくらいになる見込みです」とMNOが総務省に届け出ています。MVNO事業者は、データ接続料の見込み料金に従って一時的に料金を支払い、最終確定したのちに清算するという方式で運用しています。

総務省は先のアクション・プランで、このデータ接続料を三年間で半減させる方針を打ち出しています。しかし「三年間」という期間をもうけたことで、その間は卸料金が下がらない可能性も出てくるため、MVNOはサービス運営上、非常に不利です。そこでIIJでは、MVNO委員会を通じて総務省へ「要望書」を提出し、MNOは一般ユーザ向けに低価格なサービスを打ち出すだけでなく、MVNO向けの卸料金も早急に低廉化するよう提言を行ないました。

これを受けて、2021年2月末に算出されたデータ接続料は昨年度の予測よりもさらに低廉化が進み、三年間で半減させるという当初の目標が前倒しで実現される見込みとなっています。

また、音声卸接続料に関しても低廉化を進める方針がアクション・プランで提起されています。音声卸料金は事前に金額が確定するため、2021年度の音声卸料金はすでに決まっており、データ通信と同様に音声卸接続料の低廉化も実現しています。

ほかにもアクション・プランを通じてさまざまな議論や提言がなされていますが、全てを紹介すると膨大になるため、今回は接続料に関連した話題に絞って紹介しました*5

公正な競争ルールの確立に向けて

以上、モバイル業界が大きく動いている現状を振り返ってきましたが、ここからは総務省を中心に議論されていく今後のテーマに関してです。

アクション・プランにもあるように、MNPを通じて乗り換え手続きのさらなる簡素化が進むことや、過去の契約によってまだ二年縛りなどを受けている既往契約者がペナルティなしで乗り換えることができる仕組みの形成、eSIM*6の普及など、新たな取り組みが順次、進められていくと考えられます。

解消すべき多くの課題のなかで公正な競争ルールをより明確にしていく動きに関しては、総務省から図2のような方向性が出されています。

  1. (1)データ接続料の適正化等
  2. (2)音声卸料金の適正化
  3. (3)5G SA時代の接続ルール

(1)と(2)は、アクション・プランで一度大きく見直しやメスが入れられたことで終わるのではなく、継続的に適正化が行なわれ、低廉化による公正競争が促されることを目指しています。

MNOがデータ接続料をどのように設定するのかについて基本的な基準は定まっていますが、詳細は各社によって揃っていない部分もあり、適正化に向けた課題が残されていると言えます。音声卸料金に関しても、MNOの設備を借りてサービスを行なうMVNO事業者に与えられている選択肢が適切なのか、卸料金の最適化と合わせて検証していく必要があります。

将来のモバイル業界にとっては、(3)が重要なポイントになります。現在、5GサービスがMNOやMVNOからリリースされていますが、これは4Gの延長線上にある速度向上を軸にした5G NSA*7と言われるサービスが中心です。

将来、より高度なネットワークサービスを実現していくために、5G SA化が進んでいきます。この5G SAを利用したサービスをMVNO事業者が推進するには、総務省が提起している新しいルールのもと、現在は利用できていないMNOの設備を開放し、利用できるようにする必要などがあります。

IIJはMVNO委員会を通じて5G SA時代の接続ルールの提言を以前から行なっており、今後も続けていきます。現時点で提供できていない高い利便性や未来型サービスを実現するためにも、設備開放のルール整備を早急に実施していく必要があると考えています。

本稿では、直近のモバイル業界の動きや総務省の方針に対してIIJではどのような取り組みを行なっているのか解説しました。通常、携帯電話を利用している時は、あまり意識することのない活動かと思います。コンシューマあるいは法人のお客さまといった垣根をなくし、モバイル市場をより活性化していけるよう、今後もこうした活動に取り組んでまいります。

図2 2021年6月15日に実施された総務省会合「第45回 接続料の算定等に関する研究会」報告資料より
「モバイル競争ルールの基本的方向性」

  1. *1Mobile Network Operator
    モバイル通信の回線網を自社で所有し、通信サービスを自社ブランドとして提供できる「NTTドコモ」、「KDDI(au)」、「ソフトバンク」、「楽天」などの通信事業者。
  2. *2Mobile Virtual Network Operator
    無線通信回線設備を開設・運用せずに、自社ブランドで携帯電話やPHSなどの移動体通信サービスを行なうIIJのような事業者。
  3. *3MVNO 委員会
    一般社団法人テレコムサービス協会内に設置されたMVNO事業者による情報収集、調査・研究、政策・制度への提言を目的とした団体。委員会委員長にIIJ常務取締役の島上純一が任命されている。
  4. *4Mobile Number Portability
    現在利用中の電話番号を変更することなく、他社に乗り換えることができるサービス。
  5. *5アクション・プランに関しては2021年6月、総務省から詳細な進捗状況が報告されている。
    総務省:「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」の進捗状況
    https://www.soumu.go.jp/main_content/000758054.pdfPDF
  6. *6Embedded SIM
    「組み込み型 SIM」という意味。通常のSIMカードは、スマートフォンなどの端末に挿入する必要があるのに対し、eSIMは端末内に組み込まれた部品であるため、抜き差しする必要がなく、プロファイルといったデータを反映することで携帯電話事業者の乗り換えやサービスの切り替えを実現できる。
  7. *7NSA(Non-Stand Alone)/SA(Stand Alone)
    5G回線で通信する際、4G設備を併用する方式がNSA。5G設備のみで通信する方式がSA。SA化されることで、旧来の通信方式に依存しない5G独自の技術を用いることができるようになり、大容量高速通信や低遅延通信といった高度なネットワークサービスが実現可能になる。

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