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DTV配信をはじめとするIIJのストリーミング技術開発

2011年11月9日

ストリーミング技術では、1990年代、米国で開発されたアプリケーションをいかにして導入・運用するかが大きな課題でした。しかし、現在ではDTV配信サーバや独自開発プレイヤのようにIIJが独自にアプリケーションを開発することが増えています。ここでは、それらの開発の背景と今後の展望を紹介します。

映像圧縮・伸張技術の国際標準化への流れ

1990年代に私たちが扱ったのはStreamWorksやRealAudio(RealVideo), VDOLiveといったアプリケーションでした。これらはエンコーダやサーバ、クライアントがトータルで設計されており、伝送に用いられるプロトコルも含めすべて独自開発されていました。しかし、当時のインターネットの世界では、各社の独自技術を許容するという傾向がありました。
ところがゼロ年代に入ってくると国際標準化への大きな流れが生まれます。その代表的なもののひとつがH.264と呼ばれる映像圧縮・伸張技術の国際標準の策定でした。H.264はそれまで広く使われていたMPEG2の倍の効率があると言われています。これは、同じ品質であれば半分の帯域で伝送できるということですので、ファイルの容量が半分になることを意味します。効率の良さからH.264は各地で使われるようになり、帯域の制限が厳しいワンセグや、フルハイビジョン対応が必要となるBlu-ray Discまでといったように、応用されている分野も広くなりました。

ファイル化されることの強み

AppleがHTTP Live Streaming(HLS)を発表したときは、Appleらしく革新的なプロトコルだと思いました。それまでストリーミングベンダ各社が苦心していた映像伝送の品質制御について、プロトコルレベルでの言及が一切なかったからです。この提案は、「インターネットで、HTTPを使った映像配信ができる」という確信に満ちたもので、これまで品質を担保するのはプロトコル部分だと考えていた私にとっては新鮮な驚きがありました。
HLSでは、細切れになったMPEG2-TSファイルがHTTPによってクライアントに転送されます。この「細切れ(segmented)」というのがミソで、これによりプログレッシブダウンロードと呼ばれる、ファイルをダウンロードしながら再生できるという成果を得ることができます。これはあくまでもファイル志向のため、ライブとVoD(Video On Demand)の区別すら本質的にはありません。この細切れになったファイルの再利用も簡単です。また、HTTPを一切拡張せずに使っているのもよく考えられたところです。HLSを配信するのに特別なサーバを用意することはありませんので、私たちはApacheやSquidを用いて配信しています。

AppleのHTTP Live Streaming

クラウド上でフォーマット変換するサーバ技術の開発

これらの潮流を受け、現在IIJでは、映像や音声データの圧縮方式のひとつであるMPEG技術を核とした周辺アプリケーションの開発に着手しています。
2007年から2008年にかけては、アクトビラ向けDTV配信サーバ「mod_ntv」を開発しましたが、MPEGの技術内容を把握する前は、サーバ・クライアントシステムとしてうまく結合ができず、「再生できるはずのフレームがスキップされてしまった」というような経験がありました。そしてその後、この経験を踏まえ、MPEGを含めた映像伝送・配信システムについての開発を始めました。
現在着手しているのは、ハードウェアエンコーダから伝送されてきたMPEG2-TSストリームをクラウド上でファイル保存し、フォーマット変換するサーバ技術です。MPEG2-TSは通信の世界で広く使われている規格ですが、そのままではiPhoneやPC上のプレイヤでは視聴することはできません。そこで必要になるのが変換技術です。変換の対象には映像・音声信号の圧縮伸長方式や、「コンテナ」と呼ばれるフォーマット方式が含まれます。これにより、ハードウェアエンコーダの形式に依らず、ユーザが必要とするストリーミング形式に合わせて配信できるようになります。
ただ、これまでストリーミング用に開発されてきたエンコーダは非常に高価なもので、取り扱いも難しく、現地でエンジニアが監視する必要がありました。私たちはこのコストを減らすべく、ハードウェアエンコーダの採用を決定しました。ハードウェアエンコーダは放送局で広く用いられるSDI(プロフェッショナル仕様の映像インタフェース)を備え、入力された映像・音声信号を圧縮しインターネットプロトコルで伝送するアプライアンスです。こうしたエンコーダを使用すれば、現地での作業コストをかなり減らすことができます。また、電源や設置容積の面でも省力化・小型化が図れ、イベント中継での展開や撤収も早く、専用ハードのため信頼性も高いため、安心して利用できます。
更に私たちはこの映像をWeb上で編集する技術の開発を進めました。従来このようなハードウェアエンコーダは対となるハードウェアデコーダと一緒に用いられてきました。エンコーダ・デコーダは、映像から見ると一種のメディアコンバータとして扱われ、映像信号のトンネルをする役割しか持っていませんでした。映像を取り出した後は、従来のノンリニア編集機などで編集作業をしていたのです。私たちは、このワークフローをWebベースのものに変えるという提案をしています。このシステムのメリットには、次のようなものがあります。

  1. ノンリニア編集機より簡便なクリップ作成が可能であり、大量生産が可能。
  2. クラウド上で編集するため、リソースの一時的確保が容易。特に大量のディスク領域確保等が安価・迅速に行える。
  3. エンコーダの可搬性・運用性・信頼性が向上する。

また、HLSの再生基盤を拡大するための取り組みも進行中です。HLSはAppleがiPhoneやiPadへの配信を念頭に開発したものですので、PC上ではMacOS XのQuickTime Playerでしかサポートされていません。私たちは、このままではWindows PCやAndroid等で再生ができないという問題を、HLS形式を解釈するプログラムをFlash Player上に実装することで解決しました。この独自開発プレイヤにより、HLS形式をサーバ上等で変換することなく、Flash Playerが稼働する各プラットフォーム上で再生できます。私たちはこれが真のシングルソース・マルチユースだと考えています。

山本 文治

執筆者プロフィール

山本 文治(やまもと ぶんじ)

IIJ サービス本部 アプリケーションサービス部 デジタルコンテンツ配信課
1995年にIIJメディアコミュニケーションズに入社。2005年よりIIJに勤務。主にストリーミング技術開発に従事。同技術を議論するStreams-JP Mailing Listを主催するなど、市場の発展に貢献。

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