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三相4線式を使った配電方式

  • (※)このページで紹介している事項は記事初出時点の情報に基づいたものです。本ページはアーカイブとして掲載しています。

2014年9月5日

日本国内における、従来型のデータセンターでは、国内で最も汎用性の高いAC100Vの電源が使われてきました。そんな中、クラウドコンピューティングの台頭により、昨今ではクラウド事業者自らがクラウド基盤に適したデータセンター設備を構築するようになり、クラウド基盤設備においては、AC100Vではなく、AC200Vに統一することが可能です。IIJは、効率化を進めるためにAC200Vを全面的に採用し、配電方式を見直しました。

今回は、国内外の電力供給の事情などにも触れながら、松江データセンターパークおよびコンテナ型データセンターモジュール「IZmo」における配電方式の進化をご紹介します。

1.はじめに

データセンターにおける「ハウジングサービス」では、ラックとともに電源がサービスの一環として提供されます。ここで提供される電源は、AC100Vが一般的です。本来であれば、AC100Vより給電効率の良いAC200Vが採用(※1)されてもおかしくないはずですが、国内で最も汎用性が高いという理由から、AC100Vの電源を標準メニューとして提供していることが多いのです。それに伴い、データセンターでもAC100Vを標準的な構成として提供できるよう、フロア毎にAC100V用のトランスや分電盤などの設備が設けられてしまっている状況です。
続いて「ホスティングサービス」ではどうでしょうか。サービスの提供者側がデータセンター内のIT機器(サーバ、ストレージ、ネットワーク機器など)を選定できるので、給電効率の観点からAC200Vを採用する可能性は高まったものの、結局のところは、ハウジングサービスと同様のデータセンターを利用しているという実態があり、こちらもAC200Vの利用は促進されていません。

しかし、クラウドコンピューティングの台頭により、データセンターの設備事情に変化が現れてきました。クラウド事業者は、データセンターで、数千台のサーバ、数百ラックを超える規模でクラウドの基盤を構築します。すなわち、前述のような従来の延長線上ではなく、クラウド事業者自らがクラウド基盤に適したデータセンター設備を構築する、といった動きが見られるようになってきたのです。

この流れを受けて、クラウド基盤向けに高密度化したIT機器が開発され、ラックに実装されるようになりました。このIT機器の高密度化に伴い、ラック単位の消費電力も飛躍的に上昇し、現在では民家3軒分10kVA以上の電力を消費するラックも珍しくなくなりました。
ここで、IT機器をラックに高密度に実装し、ラックあたり4kVAの給電が必要となるケースを想定します。この時、AC100Vの場合はPDU(コンセントバー)の数は2本必要なのに対して、AC200Vだと1本で済みます(PDUを冗長化する場合には、さらにその倍の数がそれぞれ必要となります)。IT機器を高密度実装する際、ラックのスペースは非常に重要です。電源をAC200VにすることでPDUの数を従来の半分に削減でき、スペース的にも有利な状況となります。また、PDUおよびブレーカーの数が節約できるということは、投資コストの低減にもつながります。

サーバは、AC100VでもAC200Vでも問題なく作動するため、クラウド事業者は配電設備全体を見直し、AC200V給電を主体とする配電設備の構築を行えば、こうしたメリットを享受することができます。そこで、松江データセンターパークおよびコンテナ型データセンターモジュール「IZmo」では、従来以上の効率化を実現するために、AC200V給電を全面的に採用し、配電方式を大幅に見直すこととしました。

  • (※1)一般的に負荷に対して電圧を高くすればするほど、流れる電流は少なくなります。電流が少なくて済めば、電圧降下を抑えることができるため、給電効率が良くなり、且つ電力線のダウンサイズを行うことができます。

2. データセンターにおける給電方式

データセンターにおける給電方式は、代表的なものとして以下の2パターンがあります。

  • (a) UPS(※2)出力として三相3線AC400Vを用いて、トランス(変圧器)を使いIT機器の動作電圧であるAC100V、AC200Vへ降圧する方式
  • (b) UPS出力として三相4線AC400Vを用いて、AC400VからAC230Vを直接取り出す方式
  • (※2) UPS(Uninterruptible Power Systems):無停電電源装置
    データセンターでは停電対策として、商用電源は一旦UPSを介してから電源供給を行っています。

三相3線式(a)はトランスによる降圧を行う分の電力損失が生じるので、給電効率の面では三相4線式(b)の方が優れています。海外のデータセンターでは、三相4線式が広く使われているのですが、国内においては導入実績が少ないのが現状です。その理由は様々ですが、海外と国内の電力事情の違いが理由の一つです。海外では昔から工業用の配電方式に三相4線式が広く採用されていました。これに対して国内では、一般地域での工業用の配電方式には三相3線式が採用され、三相4線式は都市部の高層ビルが立ち並ぶ高密度地域に一部採用されているのみでした。また、AC100Vを給電するためには、三相4線式もトランスによる降圧が必要となり、三相3線式と比べ効率の優位性が薄れてしまうことも理由の一つです。しかし、AC200V給電を主体とする配電設備の構築により、国内でも三相4線式を用いた給電方式への関心が高まり、徐々に注目されはじめています。

3. 松江データセンターパークにおける三相4線式の採用

松江データセンターパークは2011年4月に竣工し、当時は三相3線式の給電方式を採用していました。そして2013年11月に規模を2倍に拡張する際、拡張部には効率の良い三相4線式の給電方式を採用したいと考え、拡張に先立って様々な検討を行いました。技術的にいくつかの課題や確認事項が発生しましたが、それらを一つ一つ検討・解決し、最終的には三相4線式を採用することになったのです。

ここでいくつか実際に直面した課題について記載します。

1. 中性線への高調波加算による波形ひずみについて

IT機器内にある電源変換回路系の各相から高調波(※3)が発生し、その中で第3高調波は同相なので各相の高調波が加算され、高い高調波となる。そのため、第3高調波により各相の電圧波形がひずみ、中性線へ電流が流れてしまう可能性が考えられた。
これに対し、IT機器に標準的に内蔵されているPFC回路(※4)により、高調波が抑制され、中性線への電流がIEEE1100、JIS61000の規定値以下になることを確認した。

  • (※3)高調波:ひずみ波交流の中に含まれている、基本波の整数倍の周波数をもつ正弦波
  • (※4)PFC(power factor correction)回路:力率改善回路。電源の力率(power factor)を1に近づける。

2. IT機器へのノイズ流入の可能性

UPS出力側のトランスが無くなることにより、上位側設備から発生したノイズが、IT機器へ流入する可能性が考えられた。
これに対し、UPS入力側トランスによりノイズをカットできること、UPS装置内にあるアクティブフィルタ回路(※5)により、ノイズを抑制できることを確認した。

  • (※5)アクティブフィルタ回路:電気信号から必要な周波数のみが通過できる回路。この回路によりノイズとなる不要な周波数をカットすることができる。

4. コンテナ型データセンター"IZmo"の進化

松江データセンターパークはコンテナ型データセンターです。IT機器への給電機構はITモジュールであるIZmoと一体になっており、3章で述べた給電方式の変更と併せて、IZmoも進化してきました。この章では、IZmoの観点でその進化を追っていきたいと思います。

松江データセンターパークにおける配電方法の変遷

ITモジュール実証実験機

  • 期間:2010年2月~1年間
  • 配電方式:単相3線式 AC200V/100V
  • 配線方法:ケーブル

松江データセンターパーク開設に先立ち、実証実験向けITモジュールを作製。実際にラックにIT機器を搭載し、配線を行ったところ、コンテナという限られた空間内での配線作業が非常に難しいことが判明した。

IZmo ver.1

  • 期間:2011年4月~現在
  • 配電方式:三相3線式 AC200V
  • 配線方法:ケーブル(UPS~コンテナ)、バスダクト(コンテナ内)

ITモジュールを"IZmo"と命名。
実証実験機での教訓をもとに、松江データセンターパークではIZmo内の配線方法にバスダクトを採用。また、クラウド向け高密度IT機器を実装するため、単相3線式からより効率の良い三相3線式へ配電方式を変更した。(三相は単相の1/√3の電流で同等の電力を得ることができる)

IZmo ver.2

  • 期間:2013年11月~現在
  • 配電方式:三相4線式 AC400V/230V
  • 配線方法:バスダクト

2013年11月に完成した拡張部では、さらなる効率化を求め三相4線式を採用。バスダクトも三相4線式対応を導入。さらにUPS装置からコンテナまでの幹線も全てバスダクト化し、電圧降下の低減及び施工性が向上した。

5.まとめ

松江データセンターパークの拡張工事を経て、三相4線式は、三相3線式の特徴を持ちつつもトランスレスで単相電源を取り出すことのできる、効率の良い方法であることが実証できました。また、コンテナとバスダクトの相性も良く、コンテナ増設時の電力分配も容易で、施工性に優れていることが確認できました。この結果を、現在開発中の"co-IZmo"(コイズモ)へフィードバックし、今後さらなる可能性を探っていきたいと思います。これからも"IZmo"は進化を続けます。

執筆者プロフィール

安田 幸伸(やすだ ゆきのぶ)

IIJサービスオペレーション本部 データセンターサービス部 技術課
2013年IIJ入社。コンテナ型データセンターモジュールの開発業務に従事し、現在は、外気環境の影響を受けない間接外気冷却方式を用いたco-IZmo/Iの開発、構築を行っている。

執筆者プロフィール

川島 英明(かわしま ひであき)

IIJサービスオペレーション本部 データセンターサービス部 事業企画課長
2002年IIJ入社。SEIL/SMFの販売促進、ネットワークインテグレーション部における個別案件対応を経て、2009年度よりデータセンターの事業企画業務に従事。

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