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Internet Infrastructure Review(IIR)Vol.48
2020年9月24日発行
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目次

1. 定期観測レポート

ブロードバンドトラフィックレポート~新型コロナウイルス感染拡大の影響~

1.1 概要

このレポートでは、毎年IIJが運用しているブロードバンド接続サービスのトラフィックを分析して、その結果を報告しています(注1)(注2)(注3)。今回も、利用者の1日のトラフィック量やポート別使用量などを基に、この1年間のトラフィック傾向の変化を報告します。今回、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、自宅でのインターネット利用が大幅に増え、それに伴いブロードバンドトラフィックも増加しました。その一方で、外出が減った分モバイルの利用は減少しています。

図-1は、IIJの固定ブロードバンドサービス及びモバイルサービス全体について、月ごとの平均トラフィック量の推移を示したグラフです。トラフィックのIN/OUTはISPから見た方向を表し、INは利用者からのアップロード、OUTは利用者へのダウンロードとなります。トラフィック量の数値は開示できないため、両サービスの1年前の2019年6月のOUTの値を1として正規化しています。

図-1 ブロードバンド及びモバイルの月間トラフィック量の推移

ブロードバンドサービスのトラフィックは、新型コロナウイルスの国内感染が本格的に広がり始めた3月から5月にかけて急増し、緊急事態宣言解除後の6月には少し減りました。この期間の詳細については前号の記事で報告しています(注4)。この1年のブロードバンドトラフィック量は、INは43%の増加、OUTは34%の増加となっています。1年前はそれぞれ12%と19%の増加でしたので、大幅に増加したことが分かります。逆に、モバイルサービスは、リモートワーク向けの利用が増えたものの、外出時の利用分が大幅に減ったため、全体ではこの間にトラフィックが減少しました。その後、こちらも6月には少し戻してきています。モバイルは、この1年で、INは28%の増加、OUTは7%の減少と、初めてダウンロードが減少しました。1年前はIN が60%、OUTが22%の増加でした。
ブロードバンドに関しては、IPv6 IPoEのトラフィック量も含めて示しています。IIJのブロードバンドにおけるIPv6には、IPoE 方式とPPPoE方式がありますが(注5)、IPoEトラフィックはインターネットマルチフィード社のtransixサービスを利用していて直接IIJの網を通らないため、以降の解析の対象にはなっていません。2020年6月時点で、IPoEのブロードバンドトラフィック量の全体に占める割合は、INで24%、OUTで20%と、昨年同月よりそれぞれ5ポイントと6ポイント増えています。特に3月以降はPPPoEの輻輳が目立つようになり、それを避けてIPoEへ移行する利用者が増えていて、IPoEの利用拡大が加速しています。

1.2 データについて

今回も前回までと同様に、ブロードバンドに関しては、個人及び法人向けのブロードバンド接続サービスについて、ファイバーとDSLによるブロードバンド顧客を収容するルータで、Sampled NetFlowにより収集した調査データを利用しています。モバイルに関しては、個人及び法人向けのモバイルサービスについて、使用量にはアクセスゲートウェイの課金用情報を、使用ポートにはサービス収容ルータでのSampled NetFlowデータを利用しています。

トラフィックは平日と休日で傾向が異なるため、1週間分のトラフィックを解析しています。今回は、2020年6月1日から6月7日の1週間分のデータを使っていて、前回解析した2019年5 月27日から6月2日の1週間分と比較します。

ブロードバンドの集計は契約ごとに行い、一方モバイルでは複数電話番号の契約があるので電話番号ごとの集計となっています。ブロードバンド各利用者の使用量は、利用者に割り当てられたIPアドレスと、観測されたIPアドレスを照合して求めています。また、NetFlowではパケットをサンプリングして統計情報を取得しています。サンプリングレートは、ルータの性能や負荷を考慮して、1/8192 ~1/16384に設定されています。観測された使用量に、サンプリングレートの逆数を掛けることで全体の使用量を推定しています。

IIJの提供するブロードバンドサービスにはファイバー接続とDSL接続がありますが、今ではファイバー接続の利用がほとんどとなっています。2020年には観測されたユーザ数の98%はファイバー利用者で、ブロードバンドトラフィック量全体の99%以上を占めています。

1.3 利用者の1日の使用量

まずは、ブロードバンド及びモバイル利用者の1日の使用量をいくつかの切り口から見ていきます。ここでの1日の利用量は各利用者の1週間分のデータの1日平均です。

前回から、利用者の1日の使用量は個人向けサービス利用者のデータのみを使っています。これは、利用形態が多様な法人向けサービスを含めると分布の歪みが大きくなってしまうため、全体の利用傾向を掴むには個人向けサービス分だけを対象にした方が、より一般性がありかつ分かりやすいと判断したからです。なお、次章のポート別使用量の解析では区別が難しいため法人向けも含めたデータを使っています。

図-2及び図-3は、ブロードバンドとモバイル利用者の1日の平均利用量の分布(確率密度関数)を示します。アップロード(IN) とダウンロード(OUT)に分け、利用者のトラフィック量をX軸に、その出現確率をY軸に示していて、2019年と2020年を比較しています。X軸はログスケールで、10KB(104)から100GB (1011)の範囲を示しています。一部の利用者はグラフの範囲外にありますが、概ね100GB(1011)までの範囲に分布しています。

図-2 ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量分布
2019年と2020年の比較

図-3 モバイル利用者の1日のトラフィック量分布
2019年と2020年の比較

ブロードバンドのINとOUTの各分布は、片対数グラフ上で正規分布となる、対数正規分布に近い形をしています。これはリニアなグラフで見ると、左端近くにピークがあり右へなだらかに減少する、いわゆるロングテールな分布です。

OUTの分布はINの分布より右にずれていて、ダウンロード量がアップロード量より、ひと桁以上大きくなっています。2019年と2020年で比較すると、INとOUT共に分布の山が右に移動しており、利用者全体のトラフィック量が増えていることが分かります。今回は前回に比べてこの増加量が大きくなっています。

右側のOUTの分布を見ると、分布のピークはここ数年間で着実に右に移動していますが、右端のヘビーユーザの使用量はあまり増えておらず、分布の対称性が崩れてきています。一方で、左側のINの分布は左右対称で、より対数正規分布に近い形です。

図-3のモバイルの場合、逆に分布の山が若干左に移動していて、山の高さが低くなって山の左側が持ち上がっているのが分かります。これは、利用量が多い利用者割合はあまり変わっていないが、利用量が中間ぐらいの利用者割合が減って、利用量が少ない利用者割合が増えていることを示しています。

モバイルの利用量は、ブロードバンドに比べて大幅に少なく、また、使用量に制限があるため、分布右側のヘビーユーザの割合が少なく、左右非対称な形になります。極端なヘビーユーザも存在しません。外出時のみの利用や、使用量の制限のため、各利用者の日ごとの利用量のばらつきはブロードバンドより大きくなります。そのため、1週間分のデータから1日平均を求めると、1日単位で見た場合より利用者間のばらつきは小さくなります。1日単位で同様の分布を描くと、分布の山が少し低くなり、その分両側の裾が持ち上がりますが、基本的な分布の形や最頻出値はほとんど変わりません。

表-1は、ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量の平均値と中間値、分布の山の頂点にある最頻出値の推移を示します。分布の山に対して頂点が少しずれている場合は、最頻出値は分布の山の中央に来るように補正しています。今回、いずれの数値も大きな伸びとなっています。分布の最頻出値を2019年と2020年で比較すると、INでは89MBから158MB に、OUTでは1995MBから3162MBに増えており、伸び率で見ると、INで1.8倍、OUTで1.6倍となっています。一方、平均値はグラフ右側のヘビーユーザの使用量に左右されるため、2020年には、INの平均は609MB、OUTの平均は3810MBと、最頻出値よりかなり大きな値になります。2019年には、それぞれ479MBと2986MBでした。

表-1 ブロードバンド個人利用者の1日のトラフィック量の平均値と最頻出値の推移

モバイルでは、ヘビーユーザが少ないため、平均と最頻出値が近い値になります。表-2に示すように、今回はすべての項目で減少しています。2020年の最頻出値は、INで7MB、OUT で63MBで、平均値は、INで10MB、OUTで79MBです。2019 年の最頻出値は、INで9MB、OUTで79MB、平均値は、INで11MB、OUTで85MBでした。

表-2 モバイル個人利用者の1日のトラフィック量の平均値と最頻出値

図-4及び図-5では、利用者5,000人をランダムに抽出し、利用者ごとのIN/OUT使用量をプロットしています。X軸はOUT(ダウンロード量)、Y軸はIN(アップロード量)で、共にログスケールです。利用者のIN/OUTが同量であれば対角線上にプロットされます。

図-4 ブロードバンド利用者ごとのIN/OUT使用量

図-5 モバイル利用者ごとのIN/OUT使用量

対角線の下側に対角線に沿って広がるクラスタは、ダウンロード量がひと桁多い一般的なユーザです。ブロードバンドでは、以前は右上の対角線上あたりを中心に薄く広がるヘビーユーザのクラスタがはっきり分かりましたが、今では識別ができなくなっています。また、各利用者の使用量やIN/OUT比率にも大きなばらつきがあり、多様な利用形態が存在することが窺えます。モバイルでも、OUTがひと桁多い傾向は同じですが、ブロードバンドに比べて利用量は少なく、IN/OUTのばらつきも小さくなっています。ブロードバンド、モバイル共に2019年との違いはほとんど分かりません。

図-6及び図-7は、利用者の1日のトラフィック量を相補累積度分布にしたものです。これは、使用量がX軸の値より多い利用者の、全体に対する割合をY軸に、ログ・ログスケールで示したもので、ヘビーユーザの分布を見るのに有効です。グラフの右側が直線的に下がっていて、べき分布に近いロングテールな分布であることが分かります。ヘビーユーザは統計的に分布しており、決して一部の特殊な利用者ではないと言えます。

図-6 ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量の相補累積度分布

図-7 モバイル利用者の1日のトラフィック量の相補累積度分布

モバイルでも、OUT側ではヘビーユーザはべき分布していますが、IN側では直線的な傾きが崩れていて、大量にアップロードするユーザの割合が大きくなっています。今年は、INの分布の右端が更に右側に伸びていて、一部の大量アップロードするユーザのアップロード量が一層増えています。

利用者間のトラフィック使用量の偏りを見ると、使用量には大きな偏りがあり、結果として全体は一部利用者のトラフィックで占められています。例えば、ブロードバンド上位10%の利用者がOUTの50%、INの76%を占めています。更に、上位1%の利用者がOUTの16%、INの50%を占めています。昨年と比べると、偏りは少し減少しています。モバイルでは、上位10%の利用者がOUTの48%、INの53%を、上位1%の利用者がOUTの13%、INの23%を占めています。こちらは昨年のレポートより偏りが少し大きくなっています。

1.4 ポート別使用量

次に、トラフィックの内訳をポート別の使用量から見ていきます。最近では、ポート番号からアプリケーションを特定することは困難です。P2P系アプリケーションには、双方が動的ポートを使うものが多く、また、多くのクライアント・サーバ型アプリケーションが、ファイアウォールを回避するため、HTTPが使う80番ポートを利用します。大まかに分けると、双方が1024番以上の動的ポートを使っていればP2P系のアプリケーションの可能性が高く、片方が1024番未満のいわゆるウェルノウンポートを使っていれば、クライアント・サーバ型のアプリケーションの可能性が高いと言えます。そこで、TCP とUDPで、ソースとデスティネーションのポート番号の小さい方を取り、ポート番号別の使用量を見てみます。

表-3はブロードバンド利用者のポート使用割合の過去5年間の推移を示します。2020年の全体トラフィックの77%はTCP です。HTTPSのTCP443番ポートの割合は、52%で前回とほぼ同じです。HTTPのTCP80番ポートの割合は20%から17%に減っています。QUICプロトコルで使われるUDP443番ポートは、8%から11%に増えていて、HTTPの減った分とQUICの増えた分がほぼ同じです。

表-3 ブロードバンド利用者のポート別使用量

減少傾向のTCPの動的ポートは、2020年には7%にまで減りました。動的ポートでの個別のポート番号の割合は僅かで、最大の8080番でも0.4%となっています。また、Flash Playerが利用する1935番が0.4%ありますが、これら以外のトラフィックは、ほとんどがVPN関連です。

表-4はモバイル利用者のポート使用割合です。全体的にはブロードバンドの数字に近い値となっています。これは、スマートフォンでもPCと同様のアプリケーションを使うようになってきたことに加え、ブロードバンドにおけるスマートフォンの利用割合が増えているからだと思います。

表-4 モバイル利用者のポート別使用量

図-8は、ブロードバンド全体トラフィックにおける主要ポート利用の週間推移を、2019年と2020年で比較したものです。TCPポートの80番、443番、1024番以上の動的ポート、UDP ポート443番の4つに分けてそれぞれの推移を示しています。グラフでは、ピーク時の総トラフィック量を1として正規化して表しています。2019年と比較すると、コロナ禍での在宅時間の増加に伴い、平日昼間のトラフィックが大きく増えているのが分かります。全体のピークは19時から23時頃です。

図-8 ブロードバンド利用者のポート利用の週間推移
2019年(上)と2020年(下)

図-9のモバイルでは、トラフィックの大半を占めるTCP80番ポートと443番ポート、UDP443番ポートについて推移を示します。2019年と比較すると、モバイルはほとんど変化がありません。ブロードバンドに比べると、朝から夜中までトラフィックの高い状態が続きます。平日には、朝の通勤時間、昼休み、夕方17時頃から22時頃にかけての3つのピークがあり、ブロードバンドとは利用時間の違いがあることが分かります。

図-9 モバイル利用者のポート利用の週間推移
2019年(上)と2020年(下)

1.5 まとめ

ここ数年、トラフィック量は緩やかな伸びが続いていましたが、今回は、新型コロナウイルス感染拡大によってインターネットの利用に大きな変化が起こりました。リモートワークが急拡大し、学校の授業もオンラインで行われるようになり、平日昼間のトラフィック量が大きく増えました。また、オンライン会議ツールが急速に普及して、飲み会などの交流や子供達の習い事や部活にも使われるようになってきています。
トラフィック量的には、コロナ禍の影響が一番大きく出ていたのは5月で、今回報告した6月には少し落ち着いてきていましたが、それでも昨年の同時期よりブロードバンドのダウンロードが34%も増えています。利用者ごとの利用量を見ても、ブロードバンドは在宅時間が増えて大きく伸び、モバイルは外出自粛で減りました。

今年は、本来ならばオリンピック・パラリンピックの開催に伴ったネットサービスの展開による利用動向の変化を予想していたのですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で予想もしなかった形でインターネット利用状況に変化が起こりました。6月以降トラフィック量的には少し落ち着いてきてはいますが、リモートワークやビデオ会議の利用などは定着してきていて、元のレベルに戻ることはないでしょう。現時点ではまだまだ先が見えない状況が続いているので、引き続き状況を注視していきたいと思います。

  1. (注1)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: トラフィック量は緩やかな伸びが継続. Internet Infrastructure Review. V ol.44. pp4-9. September 2019.
  2. (注2)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: ダウンロードの増加率は2 年連続で減少. Internet Infrastructure Review. V ol.40. pp4-9. September 2018.
  3. (注3)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: トラフィック増加はややペースダウン. Internet Infrastructure Review. V ol.36. pp4-9. August 2017.
  4. (注4)長健二朗. 新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響. Internet Infrastructure Review. V ol.47. pp18-23. June 2020.
  5. (注5)小川晃通, 久保田聡. 徹底解説v6 プラス. ラムダノート. January 2020.(https://www.jpne.co.jp/books/v6plus/)。

長 健二朗

執筆者プロフィール

長 健二朗(ちょう けんじろう)

株式会社IIJ イノベーションインスティテュート 技術研究所所長。

1. 定期観測レポート ブロードバンドトラフィックレポート~新型コロナウイルス感染拡大の影響~

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