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  6. 1. 定期観測レポート ブロードバンドトラフィックレポート −トラフィック量は緩やかな伸びが継続−

Internet Infrastructure Review(IIR)Vol.44
2019年9月26日発行
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目次

1. 定期観測レポート

ブロードバンドトラフィックレポート−トラフィック量は緩やかな伸びが継続−

1.1 概要

このレポートでは、毎年IIJが運用しているブロードバンド接続サービスのトラフィックを分析して、その結果を報告しています(※1)(※2)(※3)(※4)(※5)(※6)(※7)(※8)(※9)(※10)。今回も、利用者の1日のトラフィック量やポート別使用量などを基に、この1年間のトラフィック傾向の変化を報告します。

図-1は、IIJの固定ブロードバンドサービス及びモバイルサービス全体について、月ごとの平均トラフィック量の推移を示したグラフです。トラフィックのIN/OUTはISPから見た方向を表し、INは利用者からのアップロード、OUTは利用者へのダウンロードとなります。トラフィック量の数値は開示できないため、それぞれのOUTの最新値を1として正規化しています。

図-1 ブロードバンド及びモバイルの月間トラフィック量の推移

ブロードバンドに関しては、前回からIPv6 IPoEのトラフィック量も含めて示しています。IPv6 IPoEを含まない分は、“broadband-IPoE”として細線で示します。IIJのブロードバンドにおけるIPv6は、IPoE方式とPPPoE方式がありますが(※11)、IPoEトラフィックはインターネットマルチフィード社のtransixサービスを利用していて直接IIJの網を通らないため、以降の解析の対象にはなっていません。2019年6月時点で、IPoEのブロードバンドトラフィック量の全体に占める割合は、INで19%、OUTで14%と、昨年同月よりそれぞれ7ポイントと6ポイント増えていて、IPoE利用が拡大しています。

ブロードバンド、モバイル共に、この2年程は増減を繰り返しながらトラフィック量を増やしてきています。増減はブロードバンドとモバイルでほぼ同期していて、共通した要因によると推測できます。

この1年のブロードバンドトラフィック量は、INは12%の増加、OUTは19%の増加となっています。1年前はそれぞれ12%と20%の増加でしたので、増加率はほぼ同じです。モバイルは、この1年で、INは60%、OUTは22%の増加と、1年前の69%と36%に比べると伸びが鈍化しています。また、総量ではまだブロードバンドより1桁少ない状況です。

1.2 データについて

今回も前回までと同様に、ブロードバンドに関しては、個人及び法人向けのブロードバンド接続サービスについて、ファイバーとDSLによるブロードバンド顧客を収容するルータで、SampledNetFlowにより収集した調査データを利用しています。モバイルに関しては、個人及び法人向けのモバイルサービスについて、使用量についてはアクセスゲートウェイの課金用情報を、使用ポートについてはサービス収容ルータでのSampledNetFlowデータを利用しています。

トラフィックは平日と休日で傾向が異なるため、1週間分のトラフィックを解析しています。今回は、2019年5月27日から6月2日の1週間分のデータを使っていて、前回解析した2018年5月28日から6月3日の1週間分と比較します。

ブロードバンドの集計は契約ごとに行い、一方モバイルでは複数電話番号の契約があるので電話番号ごとの集計となっています。ブロードバンド各利用者の使用量は、利用者に割り当てられたIPアドレスと、観測されたIPアドレスを照合して求めています。また、NetFlowではパケットをサンプリングして統計情報を取得しています。サンプリングレートは、ルータの性能や負荷を考慮して、1/8192~1/16382に設定されています。観測された使用量に、サンプリングレートの逆数を掛けることで全体の使用量を推定しています。

IIJの提供するブロードバンドサービスにはファイバー接続とDSL接続がありますが、今ではファイバー接続の利用がほとんどとなっています。2019年には観測されたユーザ数の98%はファイバー利用者で、ブロードバンドトラフィック量全体の99%以上を占めています。

1.3 利用者の1日の使用量

まずは、ブロードバンド及びモバイル利用者の1日の利用量をいくつかの切り口から見ていきます。ここでの1日の利用量とは各利用者の1週間分のデータの1日平均です。

今回から、利用者の1日の使用量は個人向けサービス利用者のデータのみを使っています。法人利用者は利用形態が様々で、かつ、一部の法人の利用傾向に影響を受けやすく、そのため全体の分布に歪みが目立つようになってきました。それに対して、個人利用者のみの分布は滑らかな形状で安定しています。そのため、利用傾向を掴むには個人利用分だけを対象にした方が、より一般性がありかつ分かりやすいと判断しました。また、過去の数字も個人利用者だけを対象にしたものに置き換えています。なお、次章のポート別使用量の解析は区別が難しいため法人も含めたデータを使っています。

図-2及び図-3は、ブロードバンドとモバイル利用者の1日の平均利用量の分布(確率密度関数)を示します。アップロード(IN)とダウンロード(OUT)に分け、利用者のトラフィック量をX軸に、その出現確率をY軸に示しており、2018年と2019年を比較しています。X軸はログスケールで、10KB(104)から100GB(1011)の範囲を示しています。一部の利用者はグラフの範囲外にありますが、概ね100GB(1011)までの範囲に分布しています。

ブロードバンドのINとOUTの各分布は、片対数グラフ上で正規分布となる、対数正規分布に近い形をしています。これはリニアなグラフで見ると、左端近くにピークがあり右へなだらかに減少する、いわゆるロングテールな分布です。

OUTの分布はINの分布より右にずれていて、ダウンロード量がアップロード量より、1桁以上大きくなっています。2018年と2019年で比較すると、INとOUT共に分布の山がわずかながら右に少し移動しており、利用者全体のトラフィック量が増えていることが分かります。しかし、数年前に比べると分布の移動量は小さくなってきています。

右側のOUTの分布を見ると、分布のピークはここ数年間で着実に右に移動していますが、右端のヘビーユーザの使用量はあまり増えておらず、分布の対称性が崩れてきています。一方で、左側のINの分布は左右対称で、より対数正規分布に近い形です。

図-2 ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量分布
2018年と2019年の比較

図-3のモバイルの場合、ブロードバンドに比べて利用量は大幅に少ないことが分かります。また、使用量に制限があるため、分布右側のヘビーユーザの割合が少なく、左右非対称な形になります。極端なヘビーユーザも存在しません。外出時のみの利用や、使用量の制限のため、各利用者の日ごとの利用量のばらつきはブロードバンドより大きくなります。そのため、1週間分のデータから1日平均を求めると、1日単位で見た場合より利用者間のばらつきは小さくなります。1日単位で同様の分布を描くと、分布の山が少し低くなり、その分両側の裾が持ち上がりますが、基本的な分布の形や最頻出値はほとんど変わりません。モバイルの分布も昨年からの違いはわずかです。

図-3 モバイル利用者の1日のトラフィック量分布
2018年と2019年の比較

表-1は、ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量の平均値と中間値、分布の山の頂点にある最頻出値の推移を示します。分布の山に対して頂点が少しずれている場合は、最頻出値は分布の山の中央に来るように補正しています。分布の最頻出値を2018年と2019年で比較すると、INでは79MBから89MBに、OUTでは1585MBから1995MBに増えており、伸び率で見ると、INとOUT共に1.3倍となっています。一方、平均値はグラフ右側のヘビーユーザの使用量に左右されるため、2019年には、INの平均は479MB、OUTの平均は2986MBと、最頻出値よりかなり大きな値になります。2018年には、それぞれ428MBと2664MBでした。

表-1 ブロードバンド個人利用者の1日のトラフィック量の平均値と
最頻出値の推移

モバイルでは、表-2に示すように、ヘビーユーザが少ないため、平均と最頻出値が近い値になります。2019年の最頻出値は、INで9MB、OUTで79MBで、平均値は、INで11MB、OUTで85MBです。最頻出値は、INもOUTも昨年と同じ値となっています。最頻出値は変わっていませんが、平均値と中間値は増加しており、図-2の分布の山の左側が示すライトユーザの割合が少し減った影響だと考えられます。

表-2 モバイル個人利用者の1日のトラフィック量の平均値と最頻出値

図-4及び図-5では、利用者5,000人をランダムに抽出し、利用者ごとのIN/OUT使用量をプロットしています。X軸はOUT(ダウンロード量)、Y軸はIN(アップロード量)で、共にログスケールです。利用者のIN/OUTが同量であれば対角線上にプロットされます。

対角線の下側に対角線に沿って広がるクラスタは、ダウンロード量が1桁多い一般的なユーザです。ブロードバンドでは、以前は右上の対角線上あたりを中心に薄く広がるヘビーユーザのクラスタがはっきり分かりましたが、今では識別ができなくなっています。また、各利用者の使用量やIN/OUT比率にも大きなばらつきがあり、多様な利用形態が存在することがうかがえます。これらについても、2018年との違いはほとんど分かりません。

図-4 ブロードバンド利用者ごとのIN/OUT使用量

モバイルでも、OUTが1桁多い傾向は同じですが、ブロードバンドに比べて利用量は少なく、IN/OUTのばらつきも小さくなっています。

図-5 モバイル利用者ごとのIN/OUT使用量

図-6及び図-7は、利用者の1日のトラフィック量を相補累積度分布にしたものです。これは、使用量がX軸の値より多い利用者の、全体に対する割合をY軸に、ログ・ログスケールで示したもので、ヘビーユーザの分布を見るのに有効です。グラフの右側が直線的に下がっていて、ベキ分布に近いロングテールな分布であることが分かります。ヘビーユーザは統計的に分布しており、決して一部の特殊な利用者ではないといえます。

図-6 ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量の相補累積度分布

モバイルでも、OUT側ではヘビーユーザはベキ分布していますが、IN側では直線的な傾きが崩れていて、大量にアップロードするユーザの割合が大きくなっています。

利用者間のトラフィック使用量の偏りを見ると、使用量には大きな偏りがあり、結果として全体は一部利用者のトラフィックで占められています。例えば、ブロードバンド上位10%の利用者がOUTの52%、INの82%を占めています。更に、上位1%の利用者がOUTの17%、INの58%を占めています。ここ数年のヘビーユーザ割合の減少に伴い、わずかながら偏りは減ってきています。モバイルでは、上位10%の利用者がOUTの43%、INの47%を、上位1%の利用者がOUTの12%、INの18%を占めています。対象を個人利用者のみにしたことで、昨年までのレポートより偏りが少なくなっています。

図-7 モバイル利用者の1日のトラフィック量の相補累積度分布

1.4 ポート別使用量

次に、トラフィックの内訳をポート別の使用量から見ていきます。最近では、ポート番号からアプリケーションを特定することは困難です。P2P系アプリケーションには、双方が動的ポートを使うものが多く、また、多くのクライアント・サーバ型アプリケーションが、ファイアウォールを回避するため、HTTPが使う80番ポートを利用します。大まかに分けると、双方が1024番以上の動的ポートを使っていればP2P系のアプリケーションの可能性が高く、片方が1024番未満のいわゆるウェルノウンポートを使っていれば、クライアント・サーバ型のアプリケーションの可能性が高いといえます。そこで、TCPとUDPで、ソースとデスティネーションのポート番号の小さい方を取り、ポート番号別の使用量を見てみます。

表-3はブロードバンド利用者のポート使用割合の過去5年間の推移を示します。2019年の全体トラフィックの81%はTCPです。前回少し減少したHTTPSのTCP443番ポートの割合は、41%から52%に大きく増えています。HTTPのTCP80番ポートの割合は27%から20%に減っており、前回まで増えていたGoogleのQUICプロトコルで使われるUDP443番ポートも、10%から8%に減っています。このことから、HTTPからHTTPSへの移行が継続している一方で、QUICの拡大傾向には少しブレーキが掛かったと言えます。

減少傾向のTCPの動的ポートは、2019年には8%にまで減りました。動的ポートでの個別のポート番号の割合はわずかで、最大の8080番でも0.5%となっています。また、Flash Playerが利用する1935番は減少傾向で、約0.3%に減りました。これら以外のトラフィックは、ほとんどがVPN関連です。

表-3 ブロードバンド利用者のポート別使用量

表-4はモバイル利用者のポート使用割合です。全体的にはブロードバンドの数字に近い値となっており、モバイル利用者もブロードバンドと同様のアプリケーションの使い方をしていることがうかがえます。

表-4 モバイル利用者のポート別使用量

図-8は、ブロードバンド全体トラフィックにおける主要ポート利用の週間推移を、2018年と2019年で比較したものです。TCPポートの80番、443番、1024番以上の動的ポート、UDPポート443番の4つに分けてそれぞれの推移を示しています。グラフでは、ピーク時の総トラフィック量を1として正規化して表しています。2018年と比較すると、TCP443番ポートの割合が更に増えて、TCP80番ポートが減っているのが分かります。全体のピークは19:00から23:00頃です。土日には昼間のトラフィックが増加しており、家庭での利用時間を反映しています。

図-8 ブロードバンド利用者のポート利用の週間推移
2018年(上)と2019年(下)

図-9のモバイルでは、トラフィックの大半を占めるTCP80番ポートと443番ポート、UDP443番ポートについて推移を示します。モバイルでも、TCP443番ポートの割合が増えた分、TCP80番ポートが減っています。ブロードバンドに比べると、朝から夜中までトラフィックの高い状態が続きます。平日には、朝の通勤時間、昼休み、夕方17:00頃から22:00頃にかけての3つのピークがあり、ブロードバンドとは利用時間の違いがあることが分かります。

図-9 モバイル利用者のポート利用の週間推移
2018年(上)と2019年(下)

1.5 まとめ

ここ数年のトラフィック量は緩やかな伸びが続いています。
緩やかといっても、それ以前に比べて緩やかなだけで、年率で20%なので4年で2倍以上になるペースで増えています。トラフィック量は、ブロードバンドもモバイルも増減を繰り返しながら増えてきています。両方同じ時期にトラフィックが増えたり減ったりしているので、共通の要因があると推測できますが、具体的な要因までは特定できていません。

利用者ごとの利用量を見ると、ブロードバンド、モバイル共に、ここ数年あまり変化がないことが分かります。この間、トラフィックを押し上げるような新しいサービスが出てきていないこと、その結果、利用者のネット利用状況があまり変わっていないことがうかがえます。動画については、解像度は確実に上がってきていますが、コーディックの圧縮率も向上してきているため、トータルでトラフィックの伸びが抑えられているのだと思われます。

  1. (※1)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: ダウンロードの増加率は2年連続で減少. Internet Infrastructure Review. Vol.40. pp4-9. August 2018.
  2. (※2)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: トラフィック増加はややペースダウン. Internet Infrastructure Review. Vol.36. pp4-9. August 2017.
  3. (※3)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: 加速するトラフィック増加. Internet Infrastructure Review. Vol.32. pp28-33. August 2016.
  4. (※4)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: ブロードバンドとモバイルのトラフィックを比較. Internet Infrastructure Review. Vol.28. pp28-33. August 2015.
  5. (※5)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: この1年でトラフィック量は着実に増加、HTTPSの利用が拡大. Internet Infrastructure Review. Vol.24. pp28-33. August 2014.
  6. (※6)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: 違法ダウンロード刑事罰化の影響は限定的. Internet Infrastructure Review. Vol.20. pp32-37. August 2013.
  7. (※7)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: この1年間のトラフィック傾向について. Internet Infrastructure Review. Vol.16. pp33-37. August 2012.
  8. (※8)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: マクロレベルな視点で見た、震災によるトラフィックへの影響. Internet Infrastructure Review. Vol.12. pp25-30. August 2011.
  9. (※9)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: P2Pファイル共有からWebサービスへシフト傾向にあるトラフィック. Internet Infrastructure Review. Vol.8. pp25-30. August 2010.
  10. (※10)長健二朗. ブロードバンドトラフィック: 増大する一般ユーザのトラフィック. Internet Infrastructure Review. Vol.4. pp18-23. August 2009.
  11. (※11)小川晃通. プロフェッショナルIPv6. 付録A.3. IPv6 PPPoEとIPv6 IPoE. ラムダノート. July 2018.

長 健二朗

執筆者プロフィール

長 健二朗(ちょう けんじろう)

株式会社IIJ イノベーションインスティテュート 技術研究所所長。

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