遠隔画像診断の現在(イマ)

ネットチャート株式会社 執行役員
技術本部 副本部長 兼 プロジェクト推進部長 医療情報技師
田嶋 兼悟

遠隔医療のなかでもITネットワークを活用した「遠隔画像診断」のニーズが高まっています。ここでは、同分野で多くのサービスを提供しているネットチャートの取り組みを紹介します。

遠隔医療という言葉を聞くと、物理的に離れた場所にいる医師と患者がインターネットを介して動画像によるコミュニケーションを行なう、そんなイメージが一般的かと思います。

日本における遠隔医療は、ふたつに大別されます。ひとつは専門医師が他の医師の診療を支援するD to D(Doctor to Doctor)、もうひとつが遠隔地の患者を医師が診療するD to P(Doctor to Patient)です。D to Dの代表例としては、遠隔画像診断(テレラジオロジー)や遠隔病理診断(テレパソロジー)があります。

D to Pは在宅医療や介護での利用があります。D to Pの遠隔医療は、医師法第20条にもとづく「患者との対面診療の原則」により、離島やへき地の患者を診察する場合など、患者との物理的な対面がむずかしいケースを除いて原則禁止と解釈されてきましたが、2015年8月の厚生労働省通達により一部の解釈が見直され、事実上の「遠隔医療解禁」と話題になりました。

慢性的な医師不足や医師の地域偏在を背景に、今後、遠隔医療はさまざまなかたちで広がり、我々の生活により身近なものになりそうです。今回は遠隔医療のなかで、現在もっとも大きな商用市場を形成している遠隔画像診断にフォーカスしてお話しします。

遠隔画像診断とは

遠隔画像診断とは、CT(Computed Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging)などの画像診断装置で撮影されたデジタル画像をネットワークで伝送し、「遠隔地にいる専門医が検査画像を診断し、結果をレポート提供することにより、依頼元医療機関の医師に治療方針を助言する」と説明できます。

一般的に画像診断では、放射線科専門医による診断が望ましいとされていますが、そこには「量と質の課題」が存在します。厚生労働省の調査推計では医師総数約30万人に対し、放射線科専門医は5300人とわずか1.8パーセントに過ぎず、日本では慢性的に放射線科の専門医師が不足しています。一方、我が国におけるCT、MRIの人口100万人あたり保有台数は世界一で、予防医療の推進や日本人の死因上位を占めるガン・心疾患・脳血管疾患の早期発見を目的として、検査数は増加傾向にあります。診断する医師が不足しているのに診断件数は増えている、このギャップが「量の課題」です。

「質の課題」は、撮影された部位や画像診断装置の種別によって、医師に診断の得手不得手がある点です。頭の画像診断が得意な先生もいれば、頭は苦手だけどお腹の画像診断は得意という先生もいます。よって、対象検査を得意としている外部の放射線科医に委託することで、医療の質をあげたいというニーズが医療機関にあります。こうした量や質のギャップを埋める手段として、遠隔画像診断サービスが普及・利用されてきました。

市場の概況

遠隔画像診断サービスは1990年代後半に市場が形成されて以降、一貫して右肩上がりで成長してきました。国内におけるサービス提供事業者は60社程度で、①全国展開を積極的に進めている一般企業系、②関連施設・系列病院を主なユーザとする大学病院系(大学発ベンチャー、NPO法人)、③特定の地域で展開する小規模事業者などで構成されています。2008年ごろから急成長している大学病院系の読影グループは、関連病院への非常勤医師の派遣に代わって、遠隔読影サービスの利用が増えたことを背景に成長してきました。

ネットチャートの取り組み

ネットチャートの医療分野における取り組みは2011年にスタートし、医療情報システムのなかでも大容量のデータを取り扱っており、インフラとの関連性が高い画像診断分野を中心に展開しています。

主なお客さまは、CTやMRIなどの画像診断装置を保有し、画像診断・検査に特化した医療サービスを提供する「高度画像診断クリニック」と遠隔画像診断サービスを提供する「遠隔画像診断サービスプロバイダ」です。

高度画像診断クリニックでは、PACS(医療用画像管理システム)を中心とした医療情報システムの仮想化統合や画像保管ストレージの構築、基幹ネットワークの刷新や24時間365日の運用監視サービス、医療情報の外部保管や情報セキュリティ対策など、医療提供基盤を支えるさまざまなサービスを提供しています。

遠隔画像診断分野では、2015年11月、遠隔画像診断サービスプロバイダ国内最大手のドクターネットよりインフラ管理部門を一括受託しました。ドクターネットは1997年に遠隔画像診断サービスを提供開始したパイオニアの1社です。契約読影医数は400名を超え、国内における放射線科専門医の1割弱に相当する国内最大の読影医ネットワークが同社の強みです。我々は年間100万件を超える画像診断が提供されている同社のサービスインフラに関して、計画策定支援、調達支援、設計、構築、保守、運用管理業務など包括的なサービスを提供しています。

運用受託にあたり、医療情報とシステムの機密情報保護を目的として専門の担当部署と運用ルームを社内に設置し、正副2名の医療情報技師を運用管理責任者として運用しています。運用面では、契約施設や契約読影医のアカウント管理、センターシステムと医療機関・読影医師を結ぶネットワーク管理、外部SOC(Security Operation Center)との連携によるセキュリティ監視、新たなサービスの開始や既存サービスの増強に合わせた仮想サーバの増設、インフラ障害発生時の一次切り分けや機器交換などの保守対応、データセンターにおける電源・ラックなど設備管理、年間100TB超ずつ増加する医療用画像データの保全管理などが主な業務になっています。

遠隔画像診断サービスの通常のフローは、当日18時までに到着した依頼を翌日(翌営業日)の正午までに依頼元医療機関に戻すことになっていますが、一部の医療機関から2時間以内の読影を至急依頼されることもあり、止まらないインフラ運用が求められています。

また2015年度、福島県で検診事業を行なう公益財団法人の遠隔読影環境を構築しました。同法人は、県内の住民・事業所・学校などを対象に健康診断や人間ドックなどの検診事業を行なっています。四月から開始される団体検診を前に、院内に保管された医療用画像を近隣の医療機関・読影医師が外部から参照できるようにしたいという要望を受け、医療ソフトウェアメーカと連携して、遠隔読影環境を構築しました。複数の読影医による画像診断や、確定診断の合同判定を行なう仕組みとしてこの春から利用されています。

"新しい当たり前"

電子カルテや医事会計システム、オーダリングシステムの導入など個別の医療機関における「点」の情報化・効率化は進んでいますが、複数の医療機関における連携や医療と介護の連携を支える「面」のネットワークはこれからです。

つなげる、広げる、共有する――「面」の医療を展開していくうえで、ネットワークサービスプロバイダの果たす重要性はますます高くなっています。まだ十分に浸透していない医療情報システムにおけるクラウド化や医療情報の保全を目的とした外部保管など、ITインフラを活用した医療情報システムの"新しい当たり前"を提案し、医療の質と効率の向上に貢献していきたいと考えています。

(イラスト/STOMACHACHE.)

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※IIJグループ広報誌「IIJ.news vol.134」(2016年6月発行)より転載