総務省 様
総務省は、平時には携帯電話として、災害発生時等には機関の内部や自機関と他機関との間で情報共有するために活用される公共安全モバイルシステムを推進。IIJはその公共安全モバイルシステムの機能要件をクリアした「IIJ公共安全モバイルサービス」を展開している。
Topics
取り組みの事例
取り組みの目的
災害対応機関が情報共有する標準的な手段として誕生した公共安全モバイルシステム
公共安全モバイルシステムの概要と目的についてお聞かせください。
中川氏
公共安全モバイルシステムは、平時には通常の携帯電話として利用しつつ、災害発生時などには関係機関相互の通信や情報共有を確保することで機関による利用シーンの拡大と円滑な災害対応を実現します。世界的に標準化された携帯電話技術を活用し共同利用とすることで低コスト化も期待しています。
これまでは、有事に災害対応機関同士で連絡を取る標準的な方法は存在しませんでした。現在も災害現場では災害対策本部のテントに関係者が集まり、被害発生場所を地図上に印を付けるなどして確認し合うやり方は行われていますが、関係機関同士の情報共有をもっと速くできないかという課題があったのです。そこで2018年8月に、総務省の「電波有効利用成長戦略懇談会」において、公共安全LTEの導入に向けた検討を行う必要がある旨の提言が有識者の方々からなされました。それを受け、2019年度に公共安全モバイルシステムと名称を変えた上で、具備すべき機能要件の検討や、本番サービスを前提とした実証の実施、安定性及び信頼性向上のための対策などの検討を、災害対策関係省庁や通信事業者を交えて重ねてきました。
様々な検討を行った結果、一定の技術仕様を決め、この取り組みに参画したIIJが先陣を切る形で2024年4月に公共安全モバイルシステムに対応する通信サービスの提供が開始されました。
公共安全モバイルシステムの検討するにあたってどのような難しさがあったかお聞かせください。
中川氏
災害対策を担当される省庁が利用者の主体となるので、まずは災害時優先電話によって発災時等の通信混雑時も他機関と円滑な連絡・情報共有を実現できるとともに、平時には各機関で公用携帯電話としても使用可能にすることが活用拡大に向けた工夫のベースになっています。活用の鍵となるスマートフォンアプリについては、導入を検討される機関が既に独自のアプリを作成して活用されているケースが多かったため、前述の検討の中では自ら選択してインストール可能とするなど自由度を確保しました。また、Android OS、iOSともに使用可能なほか、現在一般に普及している携帯電話事業者のネットワークを活用したサービスとなるので、導入主体にとってはイニシャルコストやランニングコストの両面でコストダウンが可能となり、導入・利用の拡大が見込めるのではないかと考えています。普段から使えるシステムでなければ、万一の際に円滑に運用できない可能性もあります。公用携帯電話としてご活用いただきながら、緊急事態にも備えられるシステムとなるように整えました。
IIJ参画の意義
公共安全モバイルシステムに求められた機能要件に準じたIIJの独自サービス
2024年4月から社会実装という形で公共安全モバイルシステムの活用が始まっています。
中川氏
地方自治体などから多くの問い合わせが寄せられており、その期待の高さがうかがえます。予算的な制約もありながら、災害発生時における各機関内及び機関間の連絡や情報共有などのコミュニケーション確保に関心が高まっていることが背景にあると考えられます。
公共安全モバイルシステムを活用していただけるのは大変ありがたいと思う一方で、電力や輸送手段が寸断されるような大規模災害では、携帯電話ネットワーク自体の復旧に時間がかかる可能性があることにも留意しなければなりません。2024年1月の能登半島地震では、奥能登に通じる道路が各所で寸断されアクセス手段が限られた上に、広い範囲で電力供給もダウンしてしまったため、応急復旧におよそ17日間を要しました。このため、マルチキャリアで利用できる公共安全モバイルシステムの導入に加え、衛星インターネットサービスや、衛星携帯電話、簡易無線など多様な通信手段をバックアップとして備えることが重要です。また、公共安全モバイルシステムの優先接続オプションは音声通話に限られるので、テザリングやスマホアプリなどのデータ通信については優先する手段がないのが現状です。各通信手段で何ができ、何ができないかを平時から把握しておくことも大切です。
さらに、各機関において、多様な通信機器をいつ起きるかも予測できない有事に備えて十分に備蓄することは、ランニングコストを考えると難しい面があります。そのため総務省の各地方の総合通信局などでは、災害対策用移動通信機器を一定数備蓄しています。災害対策機関で万一不足することが予測される場合は、地方公共団体などを通じて能動的にご支援できると考えています。
IIJの取り組みについてご感想をお聞かせください。
中川氏
公共安全モバイルシステムの検討を各省庁や電気通信事業者などで検討してきた中で、特に利用者となる災害対策機関が求めた機能要件としては一般の回線よりも少しでも繋がりやすい環境で提供してほしいというものでした。発災時に輻輳は避けられないものの、可能な限り緩和できる方策を探る中で、公共安全モバイルシステムにおけるIIJの独自サービス「IIJ公共安全モバイルサービス」は一定の期待にお答えいただいたのではないかと考えていますし、導入を決められた機関はその点を評価したのではないかと思います。災害時優先電話への対応やマルチキャリア対応による冗長性のほか、一般のMVNOサービスとは別に専用設備を整備・維持することで、災害発生時に起こる通信設備混雑の影響の軽減ができると考えます。それは取り組みを行う上で大変な負担だと思いますが、既に導入されている関係省庁においても、その点を高く評価されているのではないかと考えています。
石貫氏
IIJのホームページには公共安全モバイルシステムに関する「よくある質問」などのコンテンツが豊富に掲載され、内容も非常に分かりやすく紹介されているので、弊省に寄せられる公共安全モバイルシステムに関するお問い合わせの際には、そちらをご参照いただくようご案内することもあり大変助かっています。
重要無線室 課長補佐
石貫 真一氏
現在IIJでは、「IIJ公共安全モバイルサービス」のインフラを活用した「データ通信専用SIM/eSIM」のフィールド実験を自主的に実施しています。これは公共機関などの利用者から、モバイルWi-Fiルータやタブレット端末などを利用したい、音声SIMとデータSIMのデータ量をシェアして使いたいという声を受けての活動です。
中川氏
こうした取り組みも含めて、利用者ニーズに基づいた新たな通信サービスが今後も出てくることを期待しています。ただし、現状においては、災害時などの通信が混雑するような環境で優先制御が利用できるのは災害時優先電話という音声回線のみです。データ通信回線ではトランシーバーアプリ等のスマホアプリは優先制御が受けられないことに留意が必要です。災害対策機関などの利用者が「データ通信専用SIM/eSIM」の採用を検討される際は、発災時等の通信混雑へのリスクをあらかじめ織り込んで選択することが、現状必要と考えます。今後更に公共安全モバイルシステムの利用が進めば、多様なニーズが出てくることもありますので、総務省としても政策的に、また技術的にできることがあれば挑戦していきたいと思います。IIJをはじめとした通信事業者各位にはこれからも利用者に寄り添ったサービスの提供を期待しています。
最後に、IIJの技術力やサポート体制へのご評価や今後に期待することなどをお聞かせください。
中川氏
能登半島地震では、当時は実証段階の公共安全モバイルシステムを実際に活用することができました。一連の対応ではIIJから支援のお申し出があったほか、弊省からの調達に対しても迅速な手配を行っていただきました。なにより、能登半島地震から、9月の豪雨も含め、現在も利用されている公共安全モバイルシステムが、回線自体には大きなトラブルもなく安定的に使用できていることはモバイルキャリアとIIJの技術力を感じます。今後もいざというときに頼られるインフラ事業者として、安定したネットワークの運用に期待しています。
導入したサービス・ソリューション
管轄省庁プロフィール
総務省
所在地:東京都千代田区霞が関2-1-2 中央合同庁舎第2号館
※ 本記事は2025年2月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。

能登半島地震で消防・警察・自衛隊が活用し連絡手段の確保と情報共有に貢献
2024年1月の能登半島地震では、当時実証実験していた公共安全モバイルシステムの実証端末を被災地にて活用されました。
中川氏
まず、石川県内の全11消防本部にIIJのSIMが入った実証実験中の端末を貸与し、行方不明者の捜索活動や救急活動において活用いただきました。具体的には、警察など関係機関からの情報を一斉同報したほか、かほく市消防本部ではホワイトボードへ手書きした情報をスマートフォンで撮影し、その画像を共有することで捜索に役立てられたり、金沢市消防局では現場の救急隊と本部との間で報告・指令の授受で活用されたりしました。また、先行した消防隊から救急隊に対し映像で現場の様子を共有することで、救急隊到着後、円滑に活動を開始できた事例や、情報が錯綜する中でも現場から直接映像を送り、現場の状況をより正確に把握できたという事例もありました。さらに、自衛隊では被災地で活動した自衛隊員に実証端末が貸与されました。現地派遣部隊が、輸送、給水、入浴支援、宿泊支援、遠隔医療などの任務に際し、実証実験端末にインストールしたアプリを活用して指揮本部と部隊内の連絡・情報共有などでも使用いただきました。
重要無線室長
中川 拓哉氏
福川氏
私も発災後の4月にリエゾン(災害対策現地情報連絡員)として被災地に赴きましたが、想像以上の被害の爪跡に言葉を失いました。その時伺った石川県奥能登農林総合事務所の方の話では、発災後に県有林地の土砂崩れなどの状況確認を行った際、実証実験中の公共安全モバイルシステム対応端末を持参したとのことです。地域によっては片方のキャリアしか使用できなかったこともあり、マルチキャリアの良さを実感したとのご感想をいただきました。通信事業者による基地局の応急復旧段階においては、キャリアごとに復旧エリアが異なることから、ネットワークが冗長化されている公共安全モバイルシステムは、このような場面で利用するととても有用であると思います。
ほかにも、公共安全モバイルシステムは携帯電話と同様に、基地局の電波の届く範囲であれば遠く離れた方との通信が可能であるため、距離を意識しながら使用する必要があるトランシーバなどとは異なり通信距離を気にすることなく使用できたとか、スマートフォン上のアプリを利用することにより、リアルタイムに位置情報が把握でき現状把握にとても有効だったという感想をいただき、この実証端末の貸し出しを行ったことは大きな意義があったと感じています。
重要無線室 課長補佐
福川 優治氏