岡部氏
ポイントは3つありました。1つ目は、過去の実績による信頼性と通信品質の高さです。IIJモバイルタイプIはMaBeeeみまもり電池サービスで用いるBLE-LTEゲートウェイにも採用し、トラブルもなく安定して運用できています。また、モバイル回線はNTTドコモ網を使用しているので、サービス可能エリアが広く、通信品質が高いことは実証されていました。お客様からSIMについてお問い合わせいただく際も、IIJのSIMを採用しているので、全ての皆様すぐにご納得いただけます。
2つ目は、通信にかかる費用が安いこと。他社のIoT向けサービスプランと比較してもIIJモバイルタイプIのコストは低く抑えられていると思います。また、通信パケットを利用者全体で分け合えるパケットシェアプランが選べることで、端末間の通信量のばらつきを平準化し、コストを抑えた無駄のない使い方が可能になります。
3つ目は、SIMライフサイクル管理機能です。SIMを取り付けた装置ごとに回線ステータスをコントロールできるので、使用開始、つまり回線開通までは基本料金が発生しません。その期間も原則無期限なため、弊社のビジネスにとって非常に都合が良く有り難かったのです。他社のSIMにも在庫期間中に基本料金がかからないプランはありますが、2ヵ月など短い期間に限定されるので、弊社にとっては不満でした。IIJモバイルタイプIは長期の在庫にも対応できるため、使い勝手は格段に優れていました。
岡部氏
先行してMaBeee MLを採用いただいたのは、電気設備の遠隔監視用途です。今後は、冠水監視システム、緊急通報システム、温度監視システム、水漏れ検知システム、害獣捕獲システム、害虫捕獲システム、開閉検知システムなどへの展開を計画しています。
こうしたIoTのアイデアは、お客様からのご要望や、弊社からの提案などで次々と生まれています。これまでは、アイデアが浮かんでも開発費用が重い負担になったり、設置環境における仕様が合わなかったり、全体のボリュームが少なかったりなど、実現したくてもできなかったケースは多かったのです。MaBeee MLの登場によって、LTE-M通信に関わる開発要素をゼロベースから開発する必要がなくなり、簡単にセンサーシステムも構築でき、ボリュームが少なくても導入できることが評価され、様々な商談が進んでいる状況です。
岡部氏
第1は、SIMライフサイクル管理機能の効果です。回線開通まで基本料金が発生せず、しかも原則無期限で適用できることが、弊社のビジネスにとって最大のメリットになっています。仮に、2ヵ月しか基本料金無料を適用できない他社SIMを採用していたら、3ヵ月目からSIMごとに月額基本料金が発生しますので、在庫期間が3ヵ月以上発生したとすると数百円×SIM枚数の通信料金を、弊社もしくはセット機器メーカのどちらかが負担しなければなりません。何らかの事情で在庫期間が延びると、この費用が更に増大します。しかし、IIJモバイルタイプIならこの費用は発生しないので、ビジネスの拡大やお客様の利便性向上にリソースを集中することができます。
第2に、サービス可能エリアの広さやLTE-M通信の安定性です。IIJモバイルタイプIの通信品質は、クリティカルな機器や業務用機器を活用するお客様からも高く評価されています。
第3は、パケットシェアプランによるコスト削減です。このプランは、データ量のさほど多くないIoT製品のコスト抑制に大きく貢献しています。MaBeeeが様々な用途に展開できるのは、ユーザが多岐にわたり、一つ一つのデータ利用量にばらつきがあっても、全体で均すことができるためであり、そのコストメリットがもたらす可能性は非常に大きいと感じています。
岡部氏
IoTバッテリーとしてのMaBeee MLとMaBeeeクラウドを基盤として、様々なセンサーニーズへの対応を進めていく計画です。SIerがMaBeee MLを活用してお客様のシステムを開発する際には、他のセンサー機器群も含めて、既存の業務システムとも連携する必要があります。その場合はMaBeeeクラウドとAPIで簡単に接続できるようにして、最終ユーザであるお客様の業務システムと容易に統合できるようにすることが必要です。そのため、SIerなど開発パートナーと連携しやすいサービスに改善していく考えです。また、電池側で収集したデータをAI解析することで、これまで可視化できなかった事象の診断を可能にするサービスの開発にも挑戦していきます。
更に将来的にはグローバル展開も視野に入れています。世界初のLTE-M通信搭載IoTバッテリーという開発実績をベースに、今までにないセンサーソリューションを海外に提供していくことも視野に入れています。いずれも通信機能は必須となるため、今後もIIJモバイルサービスとIIJのサポートに大きく期待しています。
※ 本記事は2022年6月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
長く予測困難な在庫期間中の通信コストを可能な限り抑制することが課題
前回は、BLE(Bluetooth Low Energy)通信のIoTみまもりデバイス「MaBeeeみまもり電池」とそれに連携するBLEゲートウェイをご紹介しました。今回は2度目のご登場となります。
岡部氏
以前にご紹介したMaBeeeみまもり電池サービスは、ライフテック領域の高齢者見守りサービスとして大きな注目を集め、複数のメディアからも取材を受けたことで、利用されるお客様は順調に拡大しています。そして今回は、B2B領域での遠隔監視用途に向けて、新たにMaBeee MLをリリースしました。
MaBeee MLの概要をお聞かせください。
岡部氏
MaBeee MLは、設備機器などの状態をモニターし、遠隔監視を行う通信デバイスです。外形はご家庭でもお馴染みの単1型電池と同じですが、内部には単3型電池2本とSIMカードを格納できるようになっています。電池の電流・電圧などの状態をモニターし、そのデータをLTE-M通信によって直接対応クラウドサービスの「MaBeeeクラウド」にデータをアップロードしながら、必要に応じ管理者などへ通知する仕組みです。単1電池サイズのボディ単体でLTE-M通信機能まで実現した、世界初の製品といえます。
通常はMaBeee ML本体の他に、中継基板(接点ON/OFF信号や電圧・電流・抵抗の変動をMaBeee MLが検出できるようパルス信号に変換)と各種センサーを組み合わせてお使いいただくようになっています。
想定される利用シーンについてお聞かせください。
岡部氏
本格的な販売はこれからですが、既にメーカやSIerからいくつかの活用に向けたアイデアが提案されています。例えば、マグネット開閉センサーと組み合わせた荷台開閉検知システムや、水位センサーを活用した河川・側溝の水位検知システム、サーモスタットを活用した温度異常検知システム、水濡れセンサーを使った害虫捕獲検知システム、既存のLED照明の電流信号を利用した光/人感センサーと組み合わせる施設侵入・害獣捕獲検知システムなどです。
既存のセンサー製品との差別化についてはいかがでしょうか。
岡部氏
MaBeee MLの強みは、単体で無線モジュール開発を代替できる点です。設備モニターや環境モニターのセンサー機器は数多くリリースされていますが、製造数が小ロットのものは、開発費の償却などまで含めて単価換算すると高額になりがちです。MaBeee MLを用いることで、LTE-M通信を可能にしながら、簡単にセンサーデバイスを開発することができるため、初期開発費用の削減や開発期間の短縮が可能になります。
特に無線回路の設計は、ソフトウェアのデバッグとは比較にならないほどのコストや手間がかかります。組み込み型無線モジュールを用いたセンサー機器開発を内製化できない場合は、無線技術者がいるデバイス開発ベンダーへ開発を委託するしかありませんが、ソフトウェア開発以外にハードウェア開発が必要となるため外注費用も高額になります。MaBeee MLを用いれば簡単な回路設計でデバイス開発が可能となるため、専任の無線技術者が不在のSIerでも低コストかつ容易にセンサーデバイスの開発が可能となり、最終ユーザの課題解決の幅も広げる事ができます。
そのMaBeee MLの通信機能の開発について、どのような課題やチャレンジがあったのでしょうか。
岡部氏
MaBeee MLは業務用の設備機器などの遠隔監視を主目的としているため、従来モデルのBLE通信以上に通信の品質や安定性、広いサービス可能エリアなどを実現することが重要となります。
また、MaBeee MLは設備機器などに使われるため、最終ユーザに届けられる前の在庫期間が比較的長く、その間の通信コストを可能な限り抑制することも課題でした。弊社がMaBeee MLを販売前に在庫する期間や、販売先のセット機器メーカが自社の製品に組み込む前の部品としての在庫期間、更には流通先での在庫期間も発生するため、それらを積み重ねると、利用開始まで数ヶ月もの在庫期間が発生する可能性があります。その間はSIMの通信料金を抑制しなければならず、開通操作などをオンラインで行うAPIの充実とコントロールの実現は必須の条件でした。
更に、MaBeee MLで扱うデータ量は少ないため、お客様からはLTE-Mの基本料金や通信料金を抑えることを強く期待されおり、できるだけコスト負担の少ないサービスを選択する必要がありました。