日本航空(以下、JAL)では、業務に携わる全員が持つべき意識、価値観、考え方として「JALフィロソフィ」を策定している。例えば、社員の一人ひとりがJALの考えを率先垂範することや、採算意識の徹底を掲げている。売り上げを最大に、経費を最小にして公明正大に利益を追求することや、正しい数字をもとに経営を行うことを実践している。
こうした採算意識、コスト意識の徹底はJALのIT環境にも及ぶ。「老朽化したシステムを使い続けていると維持管理にコストがかかりますし、障害の復旧にも時間と手間がかかる懸念もあります。ITを刷新し、古いシステムを見直すことで、コストの削減と競争力を高めるための取り組みを進めています」と、経営企画本部 IT企画部技術基盤グループの百枝誠二氏は話す。
これまでもITはビジネスの基盤であり、経営の重要ツールであるといわれてきたが、JALではさらに一歩踏み込んだ組織づくりを推進している。経営企画本部内にIT部門を置き、「経営の観点からIT活用を推進していくことを目指しています」と百枝氏は語る。その一環として、IT企画部では、2010年から各種システムの見直しに着手。JALのネットワーク基盤を担当する百枝氏を含め、部署全体として、インターネットアクセスなど、メールや社内ポータルサイトの各システム刷新に取り組んでいる。
JALでは、以前から事業者のデータセンターに設置したゲートウェイを経由してインターネットへ接続していた。その際、Webアクセス時のウイルスチェックやURLフィルタリングを実施してセキュリティを確保してきたが、いくつかの問題があったという。「社内ユーザーのインターネット利用の増大に伴い、レスポンスが遅くなるなど、業務に支障が出ていました」と百枝氏は説明する。
例えば、顧客からの問い合わせや予約に対応するコールセンターのオペレーターにとっては、業務でインターネットのアクセスが欠かせない。顧客が閲覧しているJALのホームページを同時に参照しながら、様々な問い合わせに答える必要があるからだ。また、JALでは提携する海外の航空会社の国内業務をサポートしており、運航業務を支援する部門では、インターネットを利用して提携航空会社のホームページを参照する必要がある。
今までも、こうした業務内容に応じて優先的にインターネットアクセスできる仕組みを導入してきたが、「今後の利用拡大にも柔軟に対応できるよう、インターネットアクセスのシステム刷新が求められていました」と百枝氏は経緯を説明する。
そしてJALでは、「インターネットアクセスサービス」と題する要求仕様書を各事業者に提示した。
その主な要件は、
などだ。
柔軟なアクセススピードの増速を要件に入れたのは、従来の回線からの増速時にコストと時間がかかる問題があったためだ。また、JALの独自仕様でシステムを構築するとコストも割高になることから、汎用的な"サービス"を要件に取り入れた。
そして、複数の事業者の中からIIJを採用。「柔軟な増速や優先制御の仕組みを含め、最も低いコストで当社の要件をすべて満たす提案をしてくれました」と百枝氏は採用の理由を説明する。
今回、IIJの統合Webセキュリティ「IIJセキュアWebゲートウェイサービス」を導入し、国内・海外のインターネットアクセスの仕組みを刷新した。JALのデータセンターには、トラフィックを振り分ける負荷分散機能とIPoverIPトンネルを張る機能を持つバイパス機器を設置し、ユーザーごとのアクセス管理を可能にしている。優先制御の仕組みに加えて、回線の帯域幅も大幅に増速され、「利用の集中する時間帯でも、業務に支障のないインターネットアクセス環境が実現できました」と百枝氏は語る。
また、IIJセキュアWebゲートウェイサービスでは、業務に関係のないWebアクセスを制限するWebフィルタリングやアンチウイルス、Webアクセスレポートの機能を提供している。このレポート機能を活用してWebアクセス傾向の把握に役立てている。
JALでは、インターネットアクセスの刷新と同時期にメールシステムをクラウドサービスに変更した。メールの送受信時にインターネットゲートウェイを経由するため、回線のトラフィック量は増大し、さらに、年末年始などの繁忙期には航空券の予約が集中し、Webアクセスが急増する。こうしたトラフィックの変動をWebアクセス分析レポートで把握し、回線の増速などの検討に活用する計画だという。
汎用的なIIJセキュアWebゲートウェイサービスについて、「インターネットアクセスにかかわる運用管理をフルアウトソースできることに加え、従来に比べコストも大幅に削減できています」と百枝氏は導入効果を語る。
自社で運用管理している各種システムについても、クラウドサービスへの移行を検討するなど、積極的なアウトソース化でITコストの最適化を図る。コスト意識の徹底と信頼性・安定性の高いIT運用に向け、IIJへの期待は大きい。
※ 本記事は2012年3月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。