創業からの約半世紀をかけ、リニアモーションメカニズム(直線運動機構)の研究開発に取り組んできたヒーハイスト精工は、産業用機械などで欠かせない直動ベアリングにおける業界屈指のメーカーとして成長してきた。
そんなヒーハイスト精工にとって避けることができないのが、"グローバル化"へと向かう時代の流れである。同社の執行役員であり管理部長を務める佐々木宏行氏は、次のように語る。
「成熟した日本市場だけを見ていたのではビジネスは先細りするばかりで、アジアをはじめ、世界に販路を拡大していかなければなりません」
こうしてヒーハイスト精工は、2011年6月に中国・上海市に販売子会社を設立。更に、2012年7月には上海からほど近い蘇州市に直動軸受製品の生産拠点を設立し、グローバル進出に打って出た。
だが、そこで直面したのがITシステム利用の問題である。中国の両拠点からはVPN経由で日本側の生産販売管理システムに接続して利用していたのだが、通信品質の悪さから頻繁に発生するレスポンスの遅延やタイムアウトに悩まされていた。「結局、現地では日々の業務をこなすことができず、日本側のスタッフがメールやFAXでデータを受け取って、システムに代行入力するといった対応を行わざるを得なかったのです」と佐々木氏は話す。
中国側での受注が増えれば増えるほど、生産販売管理システムに入力しなければならないデータ件数が増えていき、1日あたり数百件から数千件に達するようになる。この処理をいつまでも日本側で代行していたのでは、本社スタッフは本来の業務に手が回らなくなってしまう。また、中国側の拠点も自立することができない。「できる限り早期に、安定したシステム運用の体制を築きたいと考えていました」と佐々木氏は振り返る。
そこでヒーハイスト精工が着目したのが、中国本土で展開されているクラウドの活用である。そして2013年6月、IIJが中国本土における企業向けのクラウドとして展開している「IIJ GIO CHINAサービス」の導入を決定した。
もちろん、この結論にいたるまでには、いくつかの選択肢があった。
例えば、クラウドではなく、中国蘇州のオフィスにオンプレミスで生産販売管理システムを構築し、運用していくという方法もその1つだ。しかしながら、「中国側にわずか数名しかいないシステムの利用者に、その運用管理まで任せるのはとても無理でした」と佐々木氏は当時の状況を説明する。
また、中国本土においても様々なクラウド事業者がサービスを提供しているが、「日本語によるサポート体制、運用品質やセキュリティに対する信頼性を考えると、やはり日本のクラウド事業者が現地展開しているサービスのほうが安心できます」と佐々木氏は話す。
これらの要件をトータルに満たす現実解として、「IIJ GIO CHINAサービス」が最適と考えられたのである。
IIJ GIO CHINAサービス上での生産販売管理システムの構築は、2013年6月から8月までの、実質2ヵ月ほどで完了。同年9月より、早くも本番サービスの運用を開始した。
このような短期間によるリリースが可能だった背景には、構築作業に先立って本番と同様のテスト環境を提供したIIJ GIO CHINAサービスの大きな貢献があったという。
「利用環境やパフォーマンスに関する様々な検証を繰り返す過程で、システムの移行手順をほぼ固めることができ、あとは細かな技術的質問に対応していただくだけで、スムーズにシステムを実装することができました。また、クラウド上のサーバに日本側の担当者が直接アクセスし、リモートで設定を変更したり、データベースのバックアップを取得したりできる"自由度"が確保されている点も、他のクラウドサービスにはないメリットでした」
更に佐々木氏が強調するのが、コスト削減の効果である。
「仮に自前でサーバを立ててシステムを構築・運用した場合、ハードウェアの調達コストをはじめ、上海と蘇州の両拠点間のシステム連携、サーバの盗難防止を含めたセキュリティ対策など、巨額の投資が必要でした。IIJ GIO CHINAサービスを利用することで、システムのTCO(総所有コスト)は、おそらく10分の1以下に抑えられていると思われます」
IIJ GIO CHINAサービス上で運用を開始した生産販売管理システムは、すでに何度かの連結月次決算をこなしており、本社側システムとの間のデータ連携も問題なく行われている。
「以前のような通信が遅い、切れるといったクレームは寄せられなくなりました。日常業務における"当たり前"のものとしてユーザに受け入れられていることは、基幹システムとして最大の成果です」と佐々木氏は効果を語る。
この実績を踏まえてヒーハイスト精工は、IIJ GIO CHINAサービスのさらなる利用拡大に向けて動き出した。
具体的な目標として検討に入っているのは、中国側におけるメールサーバの自立運用だ。「現在、中国から利用している日本側のメールサーバを早期にクラウドに移すことで、ユーザの間に高まっているパフォーマンスの不満を解消したいと考えています」と佐々木氏。将来的には、グローバル拠点間を結ぶTV会議システムもクラウド上で実現したいと、構想は大きく膨らんでいる。
※ 本記事は2013年12月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。ただし、2020年の社名変更に伴い、社名とユーザプロフィールのみ変更しております。