名古屋市 防災危機管理局 様
名古屋市が旧来の防災行政無線を刷新し「IIJ公共安全モバイルサービス」を採用
約500ヵ所に1,000台以上の端末を配備し被災状況の情報共有と災害対応の高度化を実現
Topics
導入前の課題
選定の決め手
名古屋市とIIJが協力し1,000台以上の大規模導入を実現して予定通り運用を開始
「IIJ公共安全モバイルサービス」調達の経緯についてお聞かせください。
公共安全モバイルシステムの存在は、当市が代替の通信手段を検討開始した2023年頃、総務省において様々な実証試験が始まったタイミングで初めて知りました。その後、2024年1月に能登半島地震が発生した際には、名古屋市消防局が公共安全モバイルシステムの端末を借り受けて救出・救助活動に活用したことにより、かなり実践的な通信手段だという評価は得ていました。
その使用実績を踏まえ、防災危機管理局では次期非常通信手段の導入を目的に、2025年4月、公共安全モバイルシステムと通信用アプリケーションの導入業務委託を公告。一般競争入札を経て、当市が求める要求条件を満たした「IIJ公共安全モバイルサービス」の調達を行いました。
導入と配備の過程でご苦労されたことはありましたか?
「IIJ公共安全モバイルサービス」はこれまでの通信手段と比べても非常に高度な通信端末である上に、今回の調達は過去に例を見ない1,000台以上の大規模な導入となるため、まず10台を防災危機管理局の幹部職員へ先行的に導入。各種の機能や設定などを試しながら、端末性能やアプリの操作感について十分な検証を行った上で、本格的な展開に踏み出すなど、リスクを抑えながら段階的に導入を行いました。
公共安全モバイルシステムは先進的な通信手段であるため、当時はまだ他の自治体や企業への導入事例が少なく、手探り状態での展開には多少不安があったことも事実です。しかし、IIJは導入の過程で発生した様々な疑問点や当市からの度重なる要求に対しても、迅速かつ親身に解決してくれたほか、利用者向けの丁寧な操作研修も複数回実施するなど、不安は次第に安心へと変化しました。そのおかげで大きなトラブルもなく、2026年1月中に全数を無事に配備することができました。災害時優先電話オプションの端末設定も必要になったため、おそらくIIJ側でも負荷の大きい作業だったと思いますが、お互いに意思疎通を深めながら着実に作業を進めたことで、当初の予定通り4月から無事運用を開始しました。
導入後の運用
災害時に“絶対”はなく複数の手段を組み合わせた通信網をあらかじめ用意することが大切
「IIJ公共安全モバイルサービス」の現在の配備状況や、平時及び災害発生時を想定した運用方法などについてお聞かせください。
災害時の活動拠点となる本庁及び16区役所・6支所、災害救助地区本部となる各学区の小学校、医療救護所となる各学区の中学校、消防署などの公所のほか、市役所以外の機関として災害拠点病院や指定公共機関(電力会社、通信会社、鉄道会社など)など、トータルで約500ヵ所に配備を完了しています。
災害時には迅速かつ確実に情報伝達ができるよう、全ての端末に通信用アプリ「Buddycom」をインストールし、音声のみならず画像や動画で災害現場の状況をリアルタイムかつ詳細に情報共有するとともに、端末を活用する職員がお互いの位置情報を地図上で把握できるようにもしています。
導入の効果や、利用された方のご評価はいかがでしょうか?
「IIJ公共安全モバイルサービス」の端末は、当初目的としていた1)耐災害性能と情報伝達の質・量との両立、2)わかりやすい操作感、3)コストバランスなどの要求水準を全て満たすことができたと判断しています。
端末配備先の運用担当者からは、「スマートフォン型になったので操作が直感的になり使い勝手も向上した」、「画像・動画をやり取りできるので状況を伝えやすくなった」、「現場で活動する職員の位置把握が容易になった」、「従来の端末よりも軽いので携帯時のストレスが減った」、「ビル影でも電波がつながりやすくなった」など、多くの好意的な意見が寄せられています。実際、2026年4月下旬に名古屋市内で不発弾の撤去作業が行われましたが、その時の交通規制などを担当した職員も現場で活用しました。
また、今回の入札では要求仕様などの情報も公開している関係から、入札経緯をご覧になった他の自治体様からも多くのお問い合わせをいただくなど、当市の取り組みに対する関心の高さを感じています。
災害に強い社会の実現に向け、「IIJ公共安全モバイルサービス」のような他の通信手段と組み合わせて通信の信頼性・冗長性を高めるシステムの重要性についてどのようにお考えかをお聞かせください。
公共安全モバイルシステムは耐災害性能を考慮した強固な通信回線ではありますが、災害時においてはやはり“絶対”はないと思っています。だからこそ複数の通信手段を組み合わせることでより強固な通信網をあらかじめ用意することが大切だと考えます。当市では「IIJ公共安全モバイルサービス」の他に、各区役所・支所にキャリアの衛星電話サービスやテレビ会議システムを配備しています。それに加えて、災害発生時における県や県下市町村との通信には「愛知県高度情報通信ネットワーク」(※1)を利用することも想定しています。
公共安全モバイルシステムは先進的な通信手段ではありますが、災害対応には終わりはなく、今後ともIIJをはじめとした通信事業者の力も借りながら自治体として最適な非常通信手段のあり方を探っていきたいと考えています。
- (※1)愛知県が地上系の「大容量デジタル多重マイクロ回線」(光回線)と、一般財団法人自治体衛星通信機構(LASCOM)が管理運営する衛星回線「地域衛星通信ネットワーク」を併用してネットワークを構築した防災行政無線。2ルート化で信頼性を維持しつつ、動画など大容量データ通信にも対応する。
最後に、「IIJ公共安全モバイルサービス」の総合的なご評価や、今後に期待することなどについてご意見をお聞かせください。
今回のプロジェクトを通じて、公共安全モバイルシステムの迅速なサービスインを支援してくれたIIJの技術力とサポート力には感謝しています。大規模導入にもかかわらず、丁寧な端末導入に尽力いただいた実績は、今後災害時通信手段の導入を検討されている他の自治体様にも大いに役立てられるのではないかと思っています。今後も防災や危機管理に有効な非常通信技術の開発がより進展していくことを期待しています。
導入したサービス・ソリューション
お客様プロフィール
名古屋市
所在地:愛知県名古屋市中区三の丸三丁目1番1号
市制施行日:1889年10月1日
※ 本記事は2026年4月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。

旧来の防災行政無線を公共安全モバイルシステムに移行し災害対応の高度化を目指す
名古屋市 防災危機管理局(以下、防災危機管理局)の概要と主な業務内容についてご紹介ください。
名古屋市 防災危機管理局 危機対策課 主事 北村 僚太氏
防災危機管理局は平成27年度(2015年度)に、防災を専門的に担う組織として名古屋市消防局から分離・独立する形で創設されました。今後発生が予想される南海トラフ地震や近年頻発する集中豪雨などの大規模災害発生時に、市の各部門や庁外の防災関係機関が互いに連携し、市全体が災害対応能力を十分発揮できるよう、全庁横断的な役割を担うことを目的としています。平時は様々な関係機関と連携し、計画の策定や防災の啓発に取り組んでいますが、災害発生時は市全体の危機管理の司令塔として災害対応業務に従事します。
危機対策課 主事
北村 僚太氏
災害発生時や復旧復興時における“通信手段のあるべき姿”についてのお考えをお聞かせください。
災害時の通信環境においては、様々な立場の方々が幅広い事項について迅速かつ確実に情報伝達できるよう、高い水準の品質が求められます。私たちが能登半島地震の災害対応で実感した経験から、特に次の3つの要件が必要だと考えます。
第1に「柔軟な通信対応力」です。応急対応期においては、混乱状態にあってもつながりやすさや途切れにくさなどの耐災害性が重視されますが、近年の災害対応は高度化かつ複雑化しているため、時間の経過とともに情報伝達の量と質が急激に増大します。このことから、「耐災害性能」と「情報伝達の量と質への対応」を両立した通信手段を備えておくことが最も重要です。
第2に「操作性」です。極限状態の現場では誰もが通信端末を迷わず活用できるよう、簡潔でわかりやすい操作方法でなければなりません。当市で大規模広域災害が発生した場合は、各小学校に災害救助地区本部が設置され、地域の被害情報はそこから市役所の災害対策本部へ報告が集められるようになっています。その役を担うのは災害救助地区本部委員として任命された地域の方々です。専門的な経験の有無にかかわらず直感的に使える操作性を備えた端末であることが不可欠だと考えます。
第3は「コスト」です。行政の責任として非常通信を平常時から広域に配備し、持続的に運用していくためには、整備費や運用費をできる限り抑制できるコストバランスの優れた通信手段であることも重要な要素です。
以前の非常時用通信にはどのような解決すべき課題があったのでしょうか。また総務省が提唱する「公共安全モバイルシステム」に対する期待感についてもお聞かせください。
以前は市町村向け移動系デジタル防災行政無線を配備していました。これは自営無線網となるため、市庁舎内に統制局(基地局)と、市内5ヵ所に基地局(中継所)を設置し、免許と専門的知識を有した職員を常時配置して運用する必要がありました。また、その端末はテンキー主体で操作するため、スマートフォンのタッチパネルに慣れた操作感覚では馴染めない面もあるほか、通信は音声やFAXが主体で、やりとりできる情報の量・質には限界があったのです。さらにベンダーからは機器の製造停止・販売終息の案内も伝えられていたので、代替手段の導入が急務となっていました。
新たな通信手段の調達においては、最新のICTを活用し、省力化・大容量通信に対応できる通信端末の導入を条件としました。中でも公共安全モバイルシステムは従来の課題を解決し、当市の災害対応能力を一層向上できると注目していました。スマートフォンで画像や動画などを容易に扱えるようになれば、災害対策本部と各地の災害救助地区本部が情報を共有し、被災場所の位置や被害状況などをより正確かつリアルタイムに把握できます。また、公共安全モバイルシステムは端末に多様なアプリを組み合わせられるため、今後ますます高度化・複雑化する災害現場において発展的に対応できる可能性も感じていました。