国立研究開発法人 防災科学技術研究所 様
国立研究開発法人が災害対応に向けIIJ公共安全モバイルサービスを採用
複数キャリア利用で冗長性を確保しパケットシェアで効率的な運用に貢献
Topics
導入前の課題
選定の決め手
複数のキャリア利用は冗長性確保につながり災害対応における安心材料
総務省が提唱する「公共安全モバイルシステム」の考え方と、「IIJ公共安全モバイルサービス」の導入検討の背景には、どのような共通点や期待があったのでしょうか。
吉森氏
これまでも災害対応の際の通信手段の確保を検討してきました。特に総務省が提唱する公共安全LTE(PS-LTE)には関心があり、平時から日常業務で活用でき、災害時にもそのまま運用可能な仕組みという概念に大きな期待を寄せていました。そうした中、2023年10月にIIJから公共安全モバイルシステムを具現化したサービスの概要を伺いました。正式リリースを待ち、2024年3月にサービス開始の連絡を受けたことから、同年4月に複数回線を試行導入し、運用に向けた準備を進めました。
「IIJ公共安全モバイルサービス」導入に至る評価のポイントについてお聞かせください。
吉森氏
第1に、複数キャリアの利用が可能なことです。災害現場では、基地局の被害状況により特定のキャリアが利用できなくなる場合があります。2024年1月1日に発生した能登半島地震では、私も災害現場で活動しましたが、あるキャリアが使えない場面に遭遇するなど、コミュニケーション不全に直面することもありました。複数のキャリアを利用できることは冗長性の確保にもつながるので、災害対応において安心材料になります。
第2に、災害時優先電話が利用できることです。災害時には携帯電話網全体が逼迫する可能性が極めて高くなります。「IIJ公共安全モバイルサービス」には災害時優先電話オプションが設定されているため、災害発生時も発信規制などの影響を受けず、災害対応作業の円滑化に寄与すると考えました。第3に、パケットシェアが可能なことです。同一契約のパケット容量を組織内の回線で共有し効率的に利用できる「組織パケットシェア」プランを活用することで、契約全体でパケットを無駄なく効率的に利用できるようになるほか、契約容量の管理や予算管理が容易になると期待しました。特に、災害対応時には平時と比べて通信の利用が増加したり、研究員によってパケットの消費量に差が生じたりするため、パケットの最大予測消費量を基準に回線契約を行うと無駄が生じます。柔軟にパケットを配分できることはコスト面でも大きな利点と考えました。
導入後の効果
日常業務でも活用出来る「IIJ公共安全モバイルサービス」導入で運用コスト削減
「IIJ公共安全モバイルサービス」の導入・配備後の効果についてお聞かせください。
吉森氏
主に2つ挙げられます。1つは、コスト面での優位性です。マルチキャリア対応サービスでありながら、運用コストを抑えることができています。仮に回線冗長のために、複数キャリアと契約した場合と比較すると、コスト削減が期待できます。
もう1つは、パケットシェアのメリットです。2024年9月より「組織パケットシェア」の提供が開始されましたが、順次パケットシェアに移行を進めています。実際に利用者ごとにパケット使用量にばらつきがあるため、「組織パケットシェア」プランを活用することで通信容量を効率的に運用でき、コスト削減にも貢献しています。
災害に強い社会を実現していくためには、通信においてどのような対応、考え方が必要とされるかご意見をお聞かせください。また、公共安全モバイルシステムを全国の自治体や防災に関わる企業・団体に普及・拡大するために必要なことについてもご意見をお聞かせください。
吉森氏
災害時に通信を維持するためには、複数の通信手段や多重回線を確保することが極めて重要です。その1つの選択肢として私たちは「IIJ公共安全モバイルサービス」を位置づけています。他の通信手段として、衛星通信もバックアップ回線として手軽に利用できる状況になりつつありますが、日常的に携行する端末での通信の信頼性確保という点が重要です。
最後に、「IIJ公共安全モバイルサービス」の総合的な評価ついてご意見をお聞かせください。
吉森氏
「IIJ公共安全モバイルサービス」をサービス開始直後から導入し、現在も検証を重ねながら利用拡大を進めている状況です。IIJの営業担当者や技術担当者には、常に丁寧かつ迅速に対応いただいており大変感謝しています。今後も実際の運用に即した改善や更なるサービスの拡充、新技術情報の提供などを期待しています。
導入したサービス・ソリューション
お客様プロフィール
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
つくば本所:茨城県つくば市天王台3-1
設立:1963年4月
※ 本記事は2025年2月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。

コストと利便性のバランスが取れており冗長性が確保された通信手段の検討が重要
防災科研の組織概要と主な活動内容についてご紹介ください。
吉森氏
防災科研は、地震・津波・火山・気象災害といったあらゆる自然災害を対象とし、基礎研究及び基盤的研究開発から災害実務や現場での知見・経験を活用した防災科学技術の研究開発を推進する機関です。例えば、日本列島の陸域及び海底に張り巡らした地震観測網の整備や、高精度の降雨観測レーダの開発、災害時における組織を超えた防災情報の共有に資する基盤的防災情報流通ネットワーク「SIP4D」の構築など、国民の安全・安心に直結する研究開発と社会に直結する技術の実装を進めてきました。
また、災害対策基本法に基づく指定公共機関として、災害の発生時などに必要な情報を提供するだけでなく、内閣府と協働しISUT(災害時情報集約支援チーム)の一員として災害現場に出向いて被災自治体への情報による災害対応支援などを実施しています。
更に、地震の揺れを三次元で再現できる世界最大規模の実験施設「E-ディフェンス」や、毎時15~300mmの降雨を再現可能な世界最大級の大型降雨実験施設、真夏でも天然に近い結晶形の雪を降らせることができる世界唯一の雪氷防災実験棟などの実験施設も保有しています。
総合防災情報センター
特別研究員
吉森 和城 氏
災害対応時の通信手段のあり方についてお考えをお聞かせください。
吉森氏
一連の災害対応を円滑に進めるためには、関係機関との間で情報共有やデータ連携を密に行うことが不可欠であり、それを実現する通信手段の確保が極めて重要です。注意すべきは、特定の通信技術や単一の通信手段に偏った運用では災害発生時に被害を受けて使用できなくなる可能性があるということです。そのためには複数の手段や多重の回線を確保するなど環境を整えることが必要です。また、災害発生時の通信手段に加え、平時から日常業務で活用でき、災害時にもそのまま運用可能な仕組みも必要であると考えます。災害対応のために、コストと利便性のバランスを考慮しつつ、継続的に利用可能な通信手段の検討が重要だと思っています。
防災科研ではこれまでどのような方法で災害対応時の通信を確保してきたのでしょうか。
吉森氏
従来、現場に赴くチームは個人に割り当てられた端末と共通端末を持参していました。音声通話については個人に割り当てられた端末と共通端末との組合せにより複数キャリアで通話が可能な状態で現地入りします。一方、災害現場で活動を継続する上ではデータ通信も多用するため、デュアルSIMでキャリアの切り換え可能なモバイルルータで運用するなど、特定のキャリアに依存しない対策をとってきました。