アクロスペイラ 篠原辰也氏
WIMのシステムはIIJのクラウドサービス「IIJ GIO」で構築しています。またWIMが提供する3種類のサービスのうち、ゴミの重さのデータをクラウドまで送信するタイプでは、IIJのモバイル閉域網とIoTプラットフォーム(IIJ IoTサービス)を活用しています。
計量器のデータをIoTで一括管理するうえで重要なのは、ネットワークの問題です。インターネットに直接つなぐとデータ流出などのリスクが高くなりますが、とはいえセキュリティを担保しようとすると、高度なネットワークの知識が必要になります。
IIJのモバイル閉域網を使えば、専用のルーター(ゲートウェイ)を置くだけで、インターネットを通さずに安全にデータをIoTプラットフォームに送ることができます。また、IoTプラットフォームからお客様の業務管理システムに安全にデータを送ることもできます。
アクロスペイラ 篠原辰也氏
ひとことで言えば、IIJがもつ技術やサービスの信頼と安心感です。IoTにおいて、インターネットを通さずに閉域網で安全にデータを管理できるというのは、とても重要なことです。お客様からは「(御社のサービスの)セキュリティはどうなっているの?」とよく聞かれます。しかしIIJの閉域網を使っていれば、「そもそもインターネットに通していません」と簡単に答えられます。また、「IIJのネットワークを使っています」と伝えると、すぐに納得してもらえるということも多いのです。
これはお客様にとってだけでなく、弊社にとっても大きな安心感になります。たとえばWIMの開発は、弊社にとって未知の領域であり、大きなチャレンジでした。とくにネットワークやデータ管理などの知見に乏しいことが、大きな不安要因でした。そんな中、IIJ様には開発段階から色々と相談にのってもらい、親身にサポートしていただきました。それにより、私たちは不安なく、前向きに開発に取り組むことができたのです。本当に感謝しています。
アクロスペイラ 篠原辰也氏
WIMの開発に本格的に着手したのは2020年11月です。そこから2~3か月ほどでアプリの基本的なしくみの開発を終えました。その後は6か月ほどかけて、産廃処理における現場の実態調査を行いながら、さらに詳細にサービス内容やビジネスモデルを検討していきました。2021年内には製品パンフレットやトークスクリプトの作成、お問い合わせ窓口の整備などを終えて、2022年から本格的に営業を開始することとなりました。
アクロスペイラ 篠原辰也氏
そうですね。さまざまな協力会社のサポートもあり、開発に着手した11月の時点で構想はかなり具体的になっていました。IIJ様のサービスを活用することもその時点ですでに決まっていたのです。そこからはアジャイル開発で進めていきました。
アクロスペイラ 篠原辰也氏
業界はとくに問いません。あらゆる業界で汎用的に使えることがWIMの特徴でもあります。また産廃処理の行政報告は企業の義務なので、産業廃棄物が出るすべての企業が対象となります。ただし一方で、まずは環境問題に強い関心をもつ企業などに、SNSも活用しながらアプローチしていきたいとも考えています。
アクロスペイラ 篠原辰也氏
そのとおりです。WIMの第一の目的は行政報告プロセスの自動化ですが、その後はお客様の声を聞きながら、さまざまな用途に向けて展開していきたいと考えています。
たとえばWIMを使えば、どんな種類のゴミがどれくらい出ているのかの分析ができます。必要以上にゴミが出ているのであれば、無駄な仕入れをなくすという対策ができます。また、飲食店では同じ生ゴミでも、調理場から出たものなのか、お客様の食べ残しなのかを分析したいといった声もあります。WIMのアプリにあらかじめそうした項目をつくっておけば、ゴミ袋を分けておいて別々にはかり、あとはボタン一つでゴミの種類をタグ付けるということが可能になります。
アクロスペイラ 篠原辰也氏
まずはWIMをさまざまなお客様に活用していただき、弊社として実績を積んでいきたいと思います。また環境問題の解決をとおして社会に貢献できるIT企業として成長していきたい。WIMは、弊社がそうした企業に成長できる大きな一歩になったのではないかと考えています。
※ 本記事は2021年12月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
計量から書類作成、行政報告まで。
産業ゴミの管理には膨大なコストが発生している
アクロスペイラ様の事業概要を教えてください。
アクロスペイラ 篠原辰也氏
弊社はITソリューションをワンストップで手がけるアクログループの一員であり、ECサイトの構築やアプリケーション開発、Web制作などを行っています。社名の「スペイラ」はラテン語で「希望」を意味する言葉です。社会、お客様、そして社員とその家族に「希望」を与えることを第一に考え、ITやIoTのサービスを展開しています。
これまでECサイトの構築を主に手がけてきた御社が、今回は産業廃棄物の管理を行うソリューションを開発されたということですが、どのような経緯があったのでしょうか。
アクロスペイラ 篠原辰也氏
きっかけの一つは、これまで一緒に仕事をしてきた協力会社とのご縁です。そのつながりを通して、産業廃棄物の処理に関わる企業の苦労や課題について詳しく知ることができたのです。弊社はこれまでITサービスでお客様の課題を解決すること、またそれをつうじて社会に貢献することを目的にさまざまな事業を行ってきました。その意味で、今回のWIMの開発は弊社の目的の延長線上にあります。とはいえ、産廃処理やIoTに関する経験はほとんどなかったため、本件は弊社にとって新しい分野への挑戦でもありました。
産業廃棄物に関わる問題とは、具体的にどういうものでしょうか。
アクロスペイラ 篠原辰也氏
世の中では昨今、SDGsや環境問題が注目されています。そこで主に問題になっているのは、産業廃棄物をいかに出さないようにするかということです。しかし、企業活動において必ず一定の廃棄物(ゴミ)は出てきます。実はその廃棄のプロセスにおいて、私たちの知らないところでたくさんの苦労や課題があるのです。
具体的にいうと、事業者(企業)がゴミを廃棄するには、ただ捨てればよいのではありません。ゴミの重さを計量器で計り、その数値をパソコンに入力し、書類にまとめ、ハンコを押し、行政に郵送して報告するといった一連の業務を実施することが必要です。私は以前、こうした現場の業務は専門の産廃処理業者が行っていると思っていましたが、実は事業者が自ら行っているのです。それは法律(廃棄物処理法)で規定された事業者の義務なのです。
そうした現場の課題を解決するのが、今回開発された「WIM(Waste IoT Management)」ですね。どのようなしくみなのでしょうか。
アクロスペイラ 篠原辰也氏
WIMはゴミの計量から行政報告までという、産廃処理に必要な業務プロセスを一気通貫で管理し、自動化するソリューションです。WIMを活用することで、事業者は産廃処理にともなう膨大なコストを削減し、また情報漏れや入力ミスといったリスクも減らすことができます。
具体的には3種類のサービスがあります。1つ目は計量器でゴミの重さをはかり、その数値や必要な情報(ゴミの種類など)をスマートフォンのアプリに手入力するサービスです。入力した内容がすべて行政報告のフォーマット(JWNET:廃棄物処理法に基づく電子マニフェスト)に合わせて出力されるため、書類を別途作成したり、紙で郵送したりする必要がなくなります。
2つ目は、計量器とスマートフォンをBluetoothで接続することで、ゴミの重さを自動でアプリに入力することができるサービスです。3つ目はさらに自動化のレベルが上がり、IIJのモバイル閉域網を活用して、計量器のデータをクラウド(業務管理システム)までいっきに送ることができます(詳細は後述)。
WIMを開発するうえで課題だったのはどういうことでしょうか。
アクロスペイラ 篠原辰也氏
最も悩んだのは、お客様に効果を実感してもらえるソリューションにするには、どうしたらよいかということでした。というのも、WIMのようなIoTを活用したしくみ自体は、まったく新しいわけではありません。たとえば、消費者向けには、スマートフォンと体重計を連動させて、毎日の健康状態を管理するアプリなどが登場しています。
しかし産廃処理に関しては、そうしたサービスの市場がまだないのです。なぜなら産廃処理の行政報告は義務であり、そのメリットを感じにくいからです。たとえば、「このサービスを導入すれば売上がこれだけのびる」ということが明確なら、企業は使ってみようと思うでしょう。それに対して産廃処理の管理の自動化というのは、あくまでコストやリスクを減らすことが目的です。メリットが目に見えてわかりにくいので、企業は導入になかなか踏み込みなかったのです。
産業ゴミの管理に膨大なコストが発生しているということが、まだ企業の業務課題として認識されていないという実態があるのですね。
アクロスペイラ 篠原辰也氏
はい。WIMはそうした実態をふまえて開発しています。つまり現場の目線に立ち、産廃処理で困っているお客様に具体的にメリットを感じてもらえるサービス内容やビジネスモデルをつくりこむことができたと考えています。またWIMというサービスを通して、お客様が自社の課題に気づき、結果としてこれから市場が大きくひろがっていくことを期待しています。