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生産現場の夢想

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

 若い頃、10年ほど、生産技術や生産管理では最大のコンサルティング・ファームで働いていた。正業に就かず、コンピュータ関連のアルバイト収入だけでも十分に生活ができた時代で、なかなか就職をしなかった。人並み外れて体力があって、ブラブラとしているのが性に合っていたこともあり、その日暮らしと言え ばその通りで、サラリーマンになった友人たちよりは、収入ははるかに高額だったのだが、いくらなんでもマトモな職に就いたほうがいいと非難の対象となるこ とも多く、新聞の求人欄を広げて、入社試験を受けたら、運よく採用されたのがコンサルティング・ファームだった。

 生産現場でもコンピュータリゼーションが最大の課題であった時期で、私もEDPの研究、開発部門の採用だった。入社間もない頃、変わった人間だという評判があったのか、酒豪だったトップの方と飲む機会があって、当時は高級酒だったサントリー・オールドを一本ずつ空けたのだが、「君は、今時の若い人間にはない酒品がある」と、妙なところを見込まれて、EDPではなく、別の部門で働くことになった。

 その団体は、昭和17年に当時の商工省のトップであった岸信介が、日本の製造業の遅れを取り返そうと、科学的管理・標準化といった手法を徹底するために設立したのだと、後から知った。戦争をするにも、生産部門の遅れをなんとかしたかったのだろう。先輩について客先の生産ラインを見回ると、たちどころに問題点を指摘し、議論を始める。そんな姿を見ていると、とんでもない職場に入ってしまったものだと、愕然とするほかなかったのだが、なんとか門前の小僧風に、深い理解はしないまでも、月給をもらえる程度には働いていたのである。

 知識や見識に欠ける人間が、日々、生産現場のプロに向かって問題点を探るには、彼ら自身から課題を聞くことに徹するしかない。上から現場の作業 員まで徹底して聞きまわることで、課題や問題点が明らかになる。彼らの話を聞くことで、ソリューションの道が明確になる。というより、日常的に考えている彼ら自身は、すでに解を持っているわけで、私は彼らが持っているソリューションを引き出して、筋道を立てるだけだった。無知と才能の欠如を自覚していた私の能力は、ひたすら聞きまくるということだけだった。

 「いずれ工場は、すべてが自動化され、コンピュータの制御によって、搬入口から必要な材料と部品を投入すれば、製品となって搬出口から出てくるよう になる。あらゆる生産はプラントのようになる」

 夜の酒席でそんな与太話をするときだけは、辛うじて私の話に耳を傾けてくれた。コンピュータ化があらゆる局面で最大の課題だった時期で、ささやかな知識でも、コンピュータが将来、どこまで生産現場を変えていくのかについては、興味をもってくれたのである。作業者の動作を数値化し、ピッチタイムやラインの設定がコンピュータによってすぐに設計できるようになったのもその頃だし、自動化・省力化のためのロボットが次々と開発され導入されたのもその頃だった。

 今や、ネットワークの技術革新が進み、IoTといった言葉が流行語になる時代である。私が飲み屋で話した夢想も、そうそう現実離れをした話ではなくなっ てきたようである。

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