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入社式

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

 艶やかなさくら色で、街を包み込んだ束の間の饗宴も終わってしまった。道楽と揶揄されながら11年目を迎えた「東京・春・音楽祭」も、フィナーレとなった。沈丁花が香る早春から葉桜に至るこの季節は、新しい会計年度が始まる時期であり、事業計画の策定、決算と、仕事に追われているはずなのだが、桜を眺めると胸が騒ぐ。ともすれば、季節の移ろいすら忘れてしまうほど日々に追われ、あっという間に時が過ぎ去ってしまうことに慣れているのだが、この季節だけは、時が消えていく切なさを身体中で実感する。年を経るごとに、時間や空間に対する感受性がますます鈍化していくのは、インターネットにも一因があるのだと、日頃から身に染みているのだが、グローバル化の流れはそれを加速させるばかりである。

 4月1日は入社式。わが社の誇るアセットはなにかと言えば、IIJで仕事をし、能力を伸ばし、自己実現をする「ひと」である。その意味で、入社式は1年でもっとも大切な行事なのだが、100人を超える新入社員が入社してくれるようになると、まさにスケジュールと形が優先する行事になってしまうようだ。型どおりに進行する行事が悪いわけではないが、IIJという企業のカルチャーを表現し、それを少しでも共有してもらおうという意思が感じられないのである。形が内容を決めるというのも一理あって、昔は、新入社員が好き勝手に質問をし、それに経営陣が正直に答えていた時代があり、行事の進行としてはいい加減だったのだが、少なくとも、形式にまったくとらわれないIIJらしい行事だった。それが今では、整然と進行する入社式になってしまった。私も挨拶をするのだが、なにかと失言が多く、日頃は講演などもできる限りお断りしていることを忘れて、なんとなく型にはまったような話をして終わってしまった。

 入社してくれた若者の能力をできる限り伸ばすことで、給与の支払いもままならなかったほどの厳しい時代を乗り越えて、IIJはここまで成長できたのである。まさに一緒に働く「ひと」こそ、IIJの最大のアセットなのである。「神田の町工場」と言われていたのも、若い「ひと」を育てること以外に将来がないという考えを、誰もが共有していたからである。入社式が型どおりの行事になってしまったからといって、その理念が変わったわけではない。行事ということで、とりあえずは、型どおりに進めておくだけの話に過ぎないのかもしれないが、古臭い私には気になるのである。

 高校生になって、まさに「落ちこぼれ」という形容がいちばん相応しかった私は、高校の入学式を最後に、それ以降は、高校の卒業式、大学の入学式・卒業式、社会人の第一歩である入社式といった行事に一度も出ていないわけで、型にはまった行事に出ると、いまだに、なんだかなあという気分になってしまうのは、そもそもの私の経歴が「落ちこぼれ」に終始していたことからくる歪みなのかもしれない。今年の新入社員の表情を眺めていて、私のような「落ちこぼれ」がいなかったので、ほっとしたことも事実である。

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