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汗にまみれて

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

 早々と梅雨が明けて酷暑が続いたが、このところは、雨雲が垂れ込めて、気だるくなるほどの湿気が肌にまとわりつく日が続き、突然、熱帯のスコールより激しい豪雨が降る。熱帯地方に梅雨があれば、こんな気候なのだろうと思うのだが、何とも不快な日々である。

 オフィスにいる限り、そんな天候も忘れていられるが、気象の変化を忘れたまま暮らすのもおかしいと、家ではできる限りクーラーもつけず、自然が提供する気候を甘受している。汗が滴り落ちるままに過ごしていると、シーツやTシャツ類の洗濯ものが増えるばかりである。無駄に体力を消耗するし、いい歳なのだから脱水症になる危険もあり、なんら健康にいいことはないと、友人の医者にバカにされながらも、根っから依怙地で、へそ曲がりの性格が表に出て、つまらない暮らし方を続けている。電力問題とは関わりのない、まったくの個人的な動機である。暑さと湿気も身体が慣れてしまえば、なんとかなるものだと吹聴しているが、ばかばかしいと言えば、ばかばかしい話である。

「NSA(国家安全保障局)の建物を見てきたけれど、本当に大きい。駐車場だけでも、ディズニーランドくらいある。あれを見ただけで、改めて情報戦争の凄みを感じたなあ」

 建物だけを眺めに行った友人の話を聞く。分散と集中は交互に来ると言われるが、インターネットという徹底した分散の仕組みが行きつくところまで行くと、今度は集中に向かうのは当然の流れかもしれない。情報の極大化に対し、巨大な情報処理を可能とすることで、集中管理に行きつく。巨大な情報を集中管理し、次は膨大なデータを解析して、それを事業にする。あるいは、国家の安全のために利用する。あらゆる科学技術が制御不能なところまで進化するのは、その発展の歴史を見ても、自然な成り行きである。発展を制御することが難しいのは言うまでもない。

 善悪の概念や価値観を超えて、科学技術は進展し続ける。科学が技術もしくは工学という方法論に応用され、経済の発展を支えている文明が現在の「豊かさ」につながっているので、科学技術の進展を止めることはできない。その対象が、情報通信という目に見えない領域に向かい、世界は未知の領域に足を踏み入れたわけで、インターネットが世界の仕組みを丸ごと変えてしまうだろうという予想が、具体的な形で現実のものとなり始めているのである。ビッグデータの処理を可能とし、その解析によって把握される世界はどんなものになるのだろう。

 「コンピュータに比べると、人間の脳は貧弱きわまりない」とは、人工知能の研究者からグーグルの社長になったラリー・ページの言葉だが、いつの間にか記憶を人間の脳から外部化することにもつながってしまった。脳に収まる記憶の容量をはるかに超えるデータを人間が使いこなすことで、脳の限界を超えたどんな地平が見出せるのだろうか。個人の膨大な情報を収集し、そのデータを解析して、マーケティング情報として活用するのが、グーグルなどのビジネスモデルだが、それはビッグデータというものの利用の始まりに過ぎない気がする。

 鉄道や車は、物理的な意味で空間と時間の概念を変えた技術革新だった。一方、インターネットという情報通信における空間と時間の概念を変える技術革新の進展は、世界をどのように変貌させるのだろうか。今更ながらのことを、考えてみるのだが……。国家間のサイバー戦争は始まったばかりで、インターネットがもたらす未来の可能性の広がりからすると、それも序曲のような気がする。

 せめて夏のあいだは、異常気象が襲う暑さにしても、汗を流しながら本でも読んでいようかと。

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