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会議レス

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役社長 鈴木幸一

 エレベーターに乗るたびに、パソコンを脇に挟んだ社員と一緒になる。「会議ばかり増えて、仕事する時間あるの」と揶揄する。管理部門は、箸の上げ下げまで規定づくりに執心し、技術部門は、部署間の調整に長い時間を費やす……会議の多さを見ていると、そんな悪夢のような状況が、わが社にも広がっているのではないかと、疑心暗鬼になる。規定など少ないほうがいいに決まっているし、部門間の"小田原評定"を繰り返さなければ、サービスのかたちにまで持っていけないという状況を受け入れる時は、IIJがカルチャーそのものを失う時だという思いが強いだけに、ちょっとした兆候にも、過敏に反応してしまうようだ。

「ペーパーレス」より「会議レス」にしたほうがいい。会議など必要ないとまでは言えないけれど、いつも会議室に空きがないという状況を見ていると、そんな憎まれ口をたたきたくなる。会議のテーマといえば、大方は部門間の調整のようだ。調整を続けるということは、部門間で収まるべきところに収まるようなかたちにするわけで、破綻はないけれど、尖ったアイデアは削られてしまうことが多い。破綻や欠陥と斬新は隣り合わせで、尖って斬新なアイデアを生かしながら、部門間の調整で収まるようにするのは、ことのほか難しい。結局は、従来のサービスの改善版が溢れるだけである。それはそれで悪いことではないのだが、それだけでは企業を成長させるエンジンにはならない。

 およそ開発段階から各部門の人間が寄り集まって、各部門が納得するような開発は、遅れ遅れになるか、驚きを与えるような要素は、会議の過程で消えてしまうことが多い。だからと言って、関係部門の調整なしにプロジェクトを進めれば、「誰が運用するのか」という話になってしまう。組織は、大きくなる過程で、自ずと爆発するような思いとエネルギーを削ぐことになる。官僚組織とは、役人の組織を指す言葉ではなく、組織が大きくなることだと言われるが、会議中毒症はその典型的な現象に違いない。

 組織が拡大・成長を続けていく限り、それは避けることのできない問題なのだが、なんとかIIJのカルチャーを持続しながら、IIJを飛躍させるような新たなエンジンを次々と生み出していけるダイナミックな組織にしたいと、ぶつくさ自分に言い聞かせている。

 連休中、香港に出張に行く。超高層ビルが果てしなく建設され続ける香港のエネルギーには、行くたびに刺激を受けるのだが、それはいつも「あやうさが同居する感動」である。香港の大実業家で大富豪の方々の事業基盤は、不動産に出発し、金融業からインフラ業へと事業を展開している。不動産ビジネスによって、インフラ事業に乗り出すほどの巨額の富を蓄積できるのだから、土地の狭い香港にあって不動産業は、あらゆる産業に優先する事業なのである。

 産業と言えば「ものづくり」という時代に育った私は、不動産と金融の都市・香港がつくりあげるエネルギーに、別の刺激を受ける。IT産業の先端を行くサンフランシスコでは、高い賃金を得られる人間に雇用が殺到する一方で、低賃金の労働者には雇用の機会がなくなっているという。それを「格差」というのか難しいけれど、ものづくりでないIT産業というのは、雇用のかたちもずいぶんと違ったものになるのは致し方のないことかもしれない。それは、日本のIT産業の在り方とも、大きく異なるけれど。

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